親友の好きな人(京楽 浮竹)
38.25日後の極刑
ルキアは義骸に入った状態で、兄である白哉と幼馴染の恋次に連れられて帰ってきた。
罪人として。
千草はセイカイ門前で3人を待っていた。
項垂れたルキアは一言も話さず、恋次によって六番隊牢に入れられた。
白哉は千草に捕縛の一部始終を報告し、帰って行った。
各隊長は、千草からの伝令により、ルキアの勾留を知った。
眠れない夜が明けると、千草は翌朝六番隊に赴き、ルキアが勾留されている牢に向かった。
隊舎の廊下を歩いていると、後ろから声がした。
「白塔の魔女が、このような場所になんの用か」
振り向くとそこには、ルキアの兄である白哉がいた。
「検察も弁護も、総務の仕事では無かろう」
白哉は千草を通り過ぎ、行く手を塞いだ。その目は冷たく、かつて梅の公園で見た時とは別人のようだった。
「……中央への報告に行かなくていいの?朽木隊長」
「部外者が目に入ったゆえ」
「部外者では無いわ。総務官は全ての隊舎への立ち入りを許可されてる」
「牢は私の管轄ゆえ、立ち入りは許可しかねる。たとえ総務官といえど」
千草は一回口をつぐみ、ジッと白哉を見据えた。
白哉の表情は変わらない。
「……私を利用しておいて、今回は口を出すなって言うの?」
「口を出して何をする気だ」
「助けるわ」
「やめておけ。権限停止か、最悪懲戒免職になる。兄の背にあるものを鑑みれば、愚行は出来ぬはずだ」
千草が言い返す前に、白哉が口を開いた。
「それが菱田の末裔のする事か」
400年前に捨てた名を呼ばれ、千草の息が止まった。
「……何故、その名を………」
「朽木家当主が、古の死神の一族を知らぬ方がおかしい………。武芸に秀でた一族だったが、400年前に滅びた。だが、兄はその生き残りだろう。先祖が守ってきた御艇に背けるのか?」
「………背いたらなんなの?」
「できる筈が無い。現職の総務官がいなくなったら、御艇がどうなるか、分からぬ頭では無かろう。それとも、兄と同じ働きができる後継者を見つけたか?」
「………………」
答えられない千草を見て、白哉は口論の終わりを悟り、再び千草の脇をすり抜けて去って行った。
千草は、しばらく立ち尽くしたまま歯を食いしばっていたが、踵を返して六番隊隊舎を出て行った。
そしてその日の午後、ルキアの極刑が言い渡された。
終業後、浮竹が総務部に顔を出すと、千草は既に居なかった。部下の話では、終業ベルと同時に帰ったらしかった。
日が暮れて、浮竹が自室で休んでいると、玄関が開く音がした。自身の宅に勝手に上がるのは、一人しかいない。千草だ。
「決め手が見つからない」
開口一番に、千草はそう言って、浮竹に抱きついてきた。浮竹は千草を受け止めると、胸に顔を押し当てる千草を見下ろした。眉間にシワが寄っている。
「何をしていたんだ?」
「大霊書回廊に行ってた。力の譲渡がどんな判決になってきたか探していたの」
「……朽木の為か?」
「そうよ。あの子を見つけたのは私だもの……私のせいで運命を狂わせた………」
「違う。送り出したのは俺だ」
「司令書を渡したのは、私よ」
千草は浮竹から顔を離し、神妙な顔つきで浮竹を見上げた。
「……何とかして、助けるわ」
「ありがとう。嬉しいよ。部下を、そんなふうに言ってくれて………」
「こういう時の為の権力よ」
千草は連日、大霊書回廊や図書館に通い詰め、ルキアの極刑を取り下げる方法を探した。だが、以前に死神の力を得た人間が、死神に刃を奮った前例がある限り、取り下げは至難を極めた。
刑まで残り15日となった日、千草は中央四十六室を訪れたが、減刑すら叶わなかった。
刑まで残り13日になった日、精霊艇に緊張警報が鳴り響いた。西流魂外に歪面の反応が出たのだ。
直ぐに門が落下し、賊の侵入を防いだ。
千草は総務部で報告を待った。しばらくすると、市丸ギンが総務部にやってきた。
「こんにちは〜。千草サ〜ン、悪者やっつけたで〜」
市丸は扉を開けるなり、得意げに言った。彼に傷が無い所からすると、大した戦闘では無かったようだ。
「お疲れ様。死体は十二番隊に預けた?」
「え?死体?」
市丸が首をかしげて、千草の言葉を反芻した。
「殺してないの?」
「分からへん。見てないし。死んだんとちゃう?」
「駄目よそれ。賊を取り逃がしたと一緒よ」
千草は、子供に言い聞かせるように市丸に説明をした。市丸は、ありゃりゃーと事態の深刻さが分かっていない風だった。
「総隊長に報告しに行きなさい。今すぐに」
「えー、いややー。絶対怒られるやん、僕」
「後から大騒ぎになる方が大変よ。ほら、早く行きなさい」
市丸の背中を押して追い出そうとすると、瞬歩の気配を感じ、千草は市丸の首元を掴んだ。
「逃げない」
「ざーんねーん」
千草が掴んでいたのは、自分の机の上にあった未記入の書類だった。千草が振り返ると、市丸は窓に足をかけ、逃げる直前だった。
「頼んますわ千草サン。うまく言うといて。あ、ちなみに、悪者はオレンジ色の髪の毛に、体とおんなじくらいの斬魄刀もっとったよ。あと、後ろの方に何人かおったわ」
じゃ!と片手を上げて市丸は姿を眩ませた。
総務部員達が呆然とする中、千草はため息をつきながら書類を机に戻した。元柳斎のもとへ向かい、市丸の行動を報告した。
元柳斎は千草に、一連の出来事を隊長格に伝える事と、隊長達を収集する事を命じ、その夜、隊首会が開かれた。
ルキアは義骸に入った状態で、兄である白哉と幼馴染の恋次に連れられて帰ってきた。
罪人として。
千草はセイカイ門前で3人を待っていた。
項垂れたルキアは一言も話さず、恋次によって六番隊牢に入れられた。
白哉は千草に捕縛の一部始終を報告し、帰って行った。
各隊長は、千草からの伝令により、ルキアの勾留を知った。
眠れない夜が明けると、千草は翌朝六番隊に赴き、ルキアが勾留されている牢に向かった。
隊舎の廊下を歩いていると、後ろから声がした。
「白塔の魔女が、このような場所になんの用か」
振り向くとそこには、ルキアの兄である白哉がいた。
「検察も弁護も、総務の仕事では無かろう」
白哉は千草を通り過ぎ、行く手を塞いだ。その目は冷たく、かつて梅の公園で見た時とは別人のようだった。
「……中央への報告に行かなくていいの?朽木隊長」
「部外者が目に入ったゆえ」
「部外者では無いわ。総務官は全ての隊舎への立ち入りを許可されてる」
「牢は私の管轄ゆえ、立ち入りは許可しかねる。たとえ総務官といえど」
千草は一回口をつぐみ、ジッと白哉を見据えた。
白哉の表情は変わらない。
「……私を利用しておいて、今回は口を出すなって言うの?」
「口を出して何をする気だ」
「助けるわ」
「やめておけ。権限停止か、最悪懲戒免職になる。兄の背にあるものを鑑みれば、愚行は出来ぬはずだ」
千草が言い返す前に、白哉が口を開いた。
「それが菱田の末裔のする事か」
400年前に捨てた名を呼ばれ、千草の息が止まった。
「……何故、その名を………」
「朽木家当主が、古の死神の一族を知らぬ方がおかしい………。武芸に秀でた一族だったが、400年前に滅びた。だが、兄はその生き残りだろう。先祖が守ってきた御艇に背けるのか?」
「………背いたらなんなの?」
「できる筈が無い。現職の総務官がいなくなったら、御艇がどうなるか、分からぬ頭では無かろう。それとも、兄と同じ働きができる後継者を見つけたか?」
「………………」
答えられない千草を見て、白哉は口論の終わりを悟り、再び千草の脇をすり抜けて去って行った。
千草は、しばらく立ち尽くしたまま歯を食いしばっていたが、踵を返して六番隊隊舎を出て行った。
そしてその日の午後、ルキアの極刑が言い渡された。
終業後、浮竹が総務部に顔を出すと、千草は既に居なかった。部下の話では、終業ベルと同時に帰ったらしかった。
日が暮れて、浮竹が自室で休んでいると、玄関が開く音がした。自身の宅に勝手に上がるのは、一人しかいない。千草だ。
「決め手が見つからない」
開口一番に、千草はそう言って、浮竹に抱きついてきた。浮竹は千草を受け止めると、胸に顔を押し当てる千草を見下ろした。眉間にシワが寄っている。
「何をしていたんだ?」
「大霊書回廊に行ってた。力の譲渡がどんな判決になってきたか探していたの」
「……朽木の為か?」
「そうよ。あの子を見つけたのは私だもの……私のせいで運命を狂わせた………」
「違う。送り出したのは俺だ」
「司令書を渡したのは、私よ」
千草は浮竹から顔を離し、神妙な顔つきで浮竹を見上げた。
「……何とかして、助けるわ」
「ありがとう。嬉しいよ。部下を、そんなふうに言ってくれて………」
「こういう時の為の権力よ」
千草は連日、大霊書回廊や図書館に通い詰め、ルキアの極刑を取り下げる方法を探した。だが、以前に死神の力を得た人間が、死神に刃を奮った前例がある限り、取り下げは至難を極めた。
刑まで残り15日となった日、千草は中央四十六室を訪れたが、減刑すら叶わなかった。
刑まで残り13日になった日、精霊艇に緊張警報が鳴り響いた。西流魂外に歪面の反応が出たのだ。
直ぐに門が落下し、賊の侵入を防いだ。
千草は総務部で報告を待った。しばらくすると、市丸ギンが総務部にやってきた。
「こんにちは〜。千草サ〜ン、悪者やっつけたで〜」
市丸は扉を開けるなり、得意げに言った。彼に傷が無い所からすると、大した戦闘では無かったようだ。
「お疲れ様。死体は十二番隊に預けた?」
「え?死体?」
市丸が首をかしげて、千草の言葉を反芻した。
「殺してないの?」
「分からへん。見てないし。死んだんとちゃう?」
「駄目よそれ。賊を取り逃がしたと一緒よ」
千草は、子供に言い聞かせるように市丸に説明をした。市丸は、ありゃりゃーと事態の深刻さが分かっていない風だった。
「総隊長に報告しに行きなさい。今すぐに」
「えー、いややー。絶対怒られるやん、僕」
「後から大騒ぎになる方が大変よ。ほら、早く行きなさい」
市丸の背中を押して追い出そうとすると、瞬歩の気配を感じ、千草は市丸の首元を掴んだ。
「逃げない」
「ざーんねーん」
千草が掴んでいたのは、自分の机の上にあった未記入の書類だった。千草が振り返ると、市丸は窓に足をかけ、逃げる直前だった。
「頼んますわ千草サン。うまく言うといて。あ、ちなみに、悪者はオレンジ色の髪の毛に、体とおんなじくらいの斬魄刀もっとったよ。あと、後ろの方に何人かおったわ」
じゃ!と片手を上げて市丸は姿を眩ませた。
総務部員達が呆然とする中、千草はため息をつきながら書類を机に戻した。元柳斎のもとへ向かい、市丸の行動を報告した。
元柳斎は千草に、一連の出来事を隊長格に伝える事と、隊長達を収集する事を命じ、その夜、隊首会が開かれた。