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親友の好きな人(京楽 浮竹)

37.丸くなった

 雛森がチラリと檜佐木を見ると、明らかにマズそうな顔をしていた。
 千草はいつも通りの顔で、藍染を見据えた。藍染も千草を見てニコリと微笑んだ。
「久しぶりね。藍染君」
「先月会議でお会いしていますよ。横山総務官」
「仕事外で会うのなんて何年ぶりかしら?」
「さあ……どれくらいでしょう」
 京楽が藍染と千草のやり取りを見ていると、千草の横の浮竹が、ソワソワしながら手拭きを何度もたたみ直しているのが目に入った。
 おいおい…胸を張りなさいよ……。100年以上前の話なんだから……。
 三角関係なんて露ほども知らない乱菊は、皆に飲み物が行き渡ると、賑やかな声で乾杯をした。
 「阿散井君は、初めは五番隊だったんだっけ?」
浮竹が空気を読んで、藍染に話を振った。藍染もにこやかに応えた。
「ええ、とても優秀な戦闘員だったんですが、更木に取られまして」
 浮竹と藍染は千草を挟んで会話を続けたが、京楽から見たら、浮竹がぎこちなく見えた。千草は淡々と酒を飲んでいる。
「主賓に声かけてなかったわ」
そう言えば、と言って千草はビール瓶を持って立ち上がり、恋次の所へ行った。浮竹と藍染は、席を一つ空けて残された。
 3人の様子を見ていた一角が、言いづらそうな、でも興味があるような感じで、藍染と浮竹に話しかけた。
「あの、藍染隊長も、浮竹隊長も、総務官を怖いって思った事はないんスか?」
一角の質問に、二人はキョトンとした。
「千草が?」
「総務官を怖いと思った事は、無いなあ……」
質問をした一角も、その隣の弓親も驚いた様に顔を引つらせた。
「ああ、でもあの方は女性から嫉妬されやすいから、そういうのは凄い迫力で黙らせてたなあ」
藍染が昔を懐かしむ様に顎に手をあて、目を瞑った。浮竹もそうだったそうだった、と乗ってきた。
「そうなんだよな、アイツ美人だし、無愛想だから、買っちゃうんだよな」
「僕が総務にいた頃は、迫力だけで3人泣いて、1人過呼吸になりましたよ」
過呼吸になるってどんなだよ、と一角は心の中で突っ込んだ。
「学生の頃はぶん投げてたよ、天井まで、ポーンと」
「大分丸くなりましたよね」
「そうだなあ、言われてみると」
何故か二人は意気投合して、千草の話から昔の話にシフトチェンジしていった。
「浮竹隊長も、藍染隊長も、おおらかですね……」
心配していた雛森が、檜佐木に話しかけた。
「流石大人だよな……で、あの人はあそこで何してんだ」
檜佐木が千草を見ると、酔っ払った吉良の愚痴を頷きながら聞いていた。そういうのは突っぱねそうなイメージだったから、意外だった。
「……それで、市丸隊長が、すぐどっか行っちゃうし………秋は干柿作ってて仕事しないし………」
「そう、それであなたが全部引き受けるのね」
「そうなんですよ〜!!!」
恋次と射場が心配そうに見守る中、吉良は言いたい様に言い、千草は言葉遣いや態度を咎める事無く、親身に相談に乗っていた。
「市丸君は100年前から変わらないのね。でも隊長になったのだから、変わらないと」
「そうですよねえ〜〜!!!!何とかなりませんかあ〜!!!???」
「明言はできないけど、考えてみるわ。今までよく頑張ったわね」
「総務官〜〜!!!!」
吉良の相談が受け入れられたのを見て、副隊長達がワラワラと千草に群がりだした。
「男性死神協会の予算を……!!!」
「医療道具の新品購入を……」
「給料を増やしてください!!」
それぞれが好き勝手言っていると、千草がため息をついて額に手を当てたことで、騒がしい声がピタリと止んだ。
 浮竹と藍染も、若者の中心にいる千草を見た。
 副隊長達は千草を怒らせたと思い、息を殺して千草を見つめた。
「……知らなかったわ………」
千草の声に怒りは無かった。
「なんて事………もっとこうして、若手の悩みを聞くべきだったわ………」
千草は心底口惜しそうに眉間にシワを寄せた。
 全員がポカンとして、千草を見つめた。
 一角が困惑した様子で浮竹に囁いた。
「あれは、酔ってんスか?素ですか?」
「素だな」
浮竹は、さも当然という感じで答えた。あちらでは逆に、副隊長達が千草をフォローしていた。京楽もその様子を見て笑った。
「嬉しいんだろうねえ。千草、若い子から怖がられてる、って思ってたから」
「実際、会議の時はめちゃくちゃ怖いっす」
「まあ、予算編成なんて隊長達の意見聞いてたら進まないし、舐められたら総務官何て務まらないしね。ああするしか無かったんだよ」
「総務は戦わないから、隊長達の信頼を得るのが難しいんだよ。頑張った結果、ああいう雰囲気になってしまったんだ」
浮竹も一角に説明した。一角は納得したような感じで、ウス、と小さく呟いた。隣の弓親は納得してないようで、冷めた顔をしていた。
「でも、実際総務官の実力ってどうなんスか。長いこと戦わなかったら、衰えるんじゃ?」
「どうだろうねえ、僕ら同期でも千草の能力ってあんまり知らないからねえ。浮竹知ってる?」
「さあ、千草はそういうのあまり離さないからなあ」
京楽と浮竹のやり取りを、一角だけでなく藍染も興味深そうに聞いていた。

 帰り道、千草の足取りは軽かった。浮竹は後ろから、千草が軽く跳ねながら歩くのを見ていた。京楽は、七緒を送って行っていない。
「たまには良いわね、若い子と飲むのも。気持ちが若返るわ」
「ご機嫌だな。そんな楽しかったか?」
「ええ、とても」
嬉しそうな千草を見て、浮竹も微笑んだ。
「昔だったら、こんなふうに年齢バラバラの集まりなんて出来なかったわ。いい時代ね」
「そうだな」
千草は何故か歩みを緩めて、何かを考えているような雰囲気を醸し出した。
「浮竹君と、京楽君が隊長になってから、少しずつ変わっていったのよ」
千草の声は先程の元気を失い、憂いを帯び始めた。
「それで、平子君達の代で……変化を実感したわ」
浮竹は千草に追いつき、千草の肩を抱いた。千草の横顔は過去を反芻していた。
「………生きてるかしら、あの子達」
「逃げれたんだ。生きているさ」
「もっと、関わっておけば良かった………もし、生きて会えたら、こうやってあの子達とも、お酒が飲みたい………」
千草と浮竹は寄り添いながら、家に帰って行った。

 それから数日後に、ルキアが行方不明になった。
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