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親友の好きな人(京楽 浮竹)

31.更木ぶん投げ

 十一番隊の男達は、千草に近づくことすらできずにいた。
 千草の霊圧が急に跳ね上がり、怯んだのだ。
「何だコイツの霊圧……隊長達と同等じゃねえか……」
男達は息を飲み、目の前の女…千草を凝視した。
「やめんかーーーーい!!!!!」
突然野太い叫び声がしたと思ったら、頭を刈り込み、サングラスをかけた男が駆けてきて、千草の足元に土下座した。
「えろうすんませんでした!!!!横山総務官!!!コイツラには儂から言うときますんで!!!!!」
コテコテの広島弁の男は体裁など気にもかけず、ひたすら頭を地面にぶつけた。千草だけで無く、周りの男達も呆然として男を見つめた。男の激しい謝罪に、血が頭に登っていた千草も、いつしか冷静になっていた。
「射場三席……この女は……?」
自隊の部下が千草をこの女呼ばわりし、射場は立ち上がって、千草を囲んでいた男達をどつき回した。
「この、方、は!!!儂、らの、給料、から!!!管轄、から!!!全てを、握って、らっしゃる!!!!総務官!!!!じゃ!!!!ボケカス共があ!!!!!!」
男達は殴られた場所を押さえ、まだ分かっていない顔をしていた。
「山本総隊長の右腕と言わんと分からんのかああああ!!!!!!!!」
射場の怒声でようやく事態を飲み込めたのか、男達は地面にひれ伏して、ひたすら千草に謝った。
「………あなたみたいなマトモな男がいて、安心したわ………」
「いやあ、すんません。横山総務官。うちの奴らバカばっかなもんで……」
射場は自分の後頭部に手を置いて、申し訳無さそうに頭を下げた。
「いえ、あなたのお陰で大事にならずにすんだわ。所で、更木隊長はどこ?」
「ここだ」
命の危険さえ感じるような殺気立った声が、少し離れた所で聞こえた。
 更木は胸を掻きながら、獣の目で千草をとらえた。
「いい霊圧してんじゃねえか女ァ………」
更木は刀に手をかけた。
「戦いに来たんじゃ無いわ。あなたに仕事を教えにきたの」
周りの隊士達が怯える中、千草は平然とした表情で更木を見据えた。
「更木隊長!!!この方は……」
「どけ、鉄、邪魔だ」
射場は更木を止めようとしたが、肩を掴まれ、そのまま地面に倒された。
「あなたの部下よ。何て事を……」
「うるせえ。文句があんなら向かって来い、力でねじ伏せろ」
更木はどんどん千草に近づいてくる。
 このまま間合いに入ったら、斬られる……。
 千草が観念して、斬魄刀に手をかけようとした、その時………。
「やめろ更木!!!四十六室が選定した総務官だぞ!!!」
「女の子に手を上げたら、男が廃るよ〜」
浮竹が千草の前に、京楽が更木の前に立ちふさがった。浮竹は千草の柄を掴んで、抜刀できなくしていた。
「浮竹君……京楽君…………」
千草は斬魄刀から手を離し、二人の親友を見上げた。更木は心底不満そうだ。
「何だてめえら……。邪魔すんじゃねえ。それとも、てめえらが相手になんのか?」
「そんな訳ないじゃない〜、僕ら平和主義者だからさあ」
ヘラヘラする京楽を見て興を削がれたのか、更木は舌打ちをして、くるりと背を向けた。
「……ちっ、冷めたぜ。うっとーしい」
更木が背を向けた所で、浮竹が千草の肩を抱いて十一番隊隊舎から連れ出した。京楽も後ろをついてきた。

 

 千草はそれ以来更木を避け、戦いを未然に防いでいたが、更木が隊長に就任して初めての年度末会議で、火蓋は切られた。
 きっかけは、報告会議に更木が飽きたのだ。
「ちっ、クソつまんねえ事させやがって」
三番隊の報告途中で更木が口を挟み、進行を止めた。
「口を慎みなさい更木剣八。会議中よ」
更木を叱責したは、もちろん千草だった。場の空気が凍りついた。
「てめーはいちいちうるせえんだよ女。斬るぞ」
「子どもじみた脅しはやめなさい」

更木は立ち上がり、千草に歩み寄った。千草は冷たい目で更木を睨んでいる。
 生憎浮竹は休みで、海燕が止めようとしたが、壁に叩きつけられた。涅マユリは無視を決め込んでいた。
「脅しかどうか試してやろうか」
「馬鹿馬鹿しい事で進行を止めないで」
殺気石の腕輪がついた更木の手が千草に伸びた。
 その瞬間、更木の体が宙に浮いた。
 若手の副隊長達には、千草がいつ椅子から離れたか見えなかった。
「グッ!!!」
事態が飲み込めない更木が、背中から床に落ちていった。
 千草の『ぶん投げ』を初めて見た面々は目を丸くして更木を凝視し、話に聞いていたり、前から知っている者は平然として資料に目を通していた。
 副隊長の市丸ギンは必死に笑いを堪えていた。

 以降、この日の出来事は、更木ぶん投げ事件として、隊長副隊長達の間に語り継がれた。
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