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親友の好きな人(京楽 浮竹)

30.総務官と更木剣八

 千草は十一番隊が嫌いだった。
 刳屋敷の時は随分良かったが、痣城は事件を起こして総務の仕事を増やすし、代理の剣八は部下を操れないし、鬼厳城は全く仕事をしない上、会議にも出ないし、女と見れば無理矢理手篭めにしようとした。その辺りから、十一番隊の隊士達の素行も悪くなった。
 鬼厳城が隊長になってから、千草の十一番隊嫌いが加速した。
 鬼厳城が果たし合いに敗れたと聞いて、内心少しホッとした。あんな脳の無い野生の豚みたいな奴より酷いのは来ないだろう、と思っていたからだ。

 甘かった。
 少しでも期待した自分がバカだったと反省した。

 隊長業務の説明と手続きは千草の仕事だ。
 果たし合いが終わってすぐ、新しい剣八が元柳斎と雀部によって総務に連れて来られた。
 彼の霊圧で、数人の部下が気を失った。千草は直ぐに部下達を部屋から出すと、元柳斎と雀部と3人で剣八に対峙した。
 ボロ布を纏った、目つきの悪い筋張った大男は千草をギロリと睨み、挨拶も無しに乱暴な口調で話しかけてきた。
「何だ女。俺に何の用だ」
ああ、所詮十一番隊に入る人間だ、礼儀など知る筈も無い……。
 千草は諦めて感情をシャットダウンすると、淡々と必要事項を話した。
「私は御艇十三隊の総務官、横山千草と言います。今から貴方に隊長業務の説明と手続きをしますので、そちらに座ってください」
千草が隊長業務内容を記した資料を片手にソファに促すと、剣八は千草から資料を奪い、後ろに放り投げた。紙がバラバラと床に落ちていくのを、千草は黙って見ていた。
「さっさとその黒い着物寄越せ。死神はそれ着て戦うんだろ?俺は戦いに来たんだ、お前と喋りに来たんじゃねえ」
剣八が威圧的に千草を見下ろし、片手を出して死覇装をせがんだ。千草が剣八を叱ろうとした瞬間、元柳斎の拳骨が剣八の背中にめり込み、剣八は体を反らせながら倒れた。
「いってえな!!何しやがんだ、クソジジイ!!!」
「郷に入ったのなら、郷に従わんか!!!たわけ!!!」
剣八は文句を言いながら立ち上がったが、元柳斎が剣八を一蹴した。
「俺は俺のやりたいようにやる。俺を従わせたきゃ、俺と戦えジジイ」
剣八が刀を握ると、元柳斎は片目を開いて剣八を見てから、踵を返して扉に手をかけた。
「ついて来い小童。躾をしてやろう」
元柳斎の言葉を聞いた瞬間、剣八は獣のような顔で笑った。
 千草は、仕事が進まないな、と考えていたが、仕方なく雀部と共に元柳斎と剣八の後を追った。

 元柳斎は道場に入り、剣八に木刀を投げてよこした。剣八は気に入らない目で、木刀を握った。
「おい、俺は真剣で戦えっつったんだ」
「木刀でも死人は出るわい」
元柳斎が言い放つと、剣八は、おもしれえ、と言って、木刀を持って元柳斎の前に進んだ。
 千草は元柳斎の強さを知っている。隣にいる雀部もしかりだ。
「……これで、新しい剣八が死んだら、十一番隊って取り潰しになりませんか?」
千草はコッソリ雀部に聞いたが、雀部は首を横に振った。
 
 剣八は何度も元柳斎に向かって行ったが、尽く木刀を叩き落とされた。
「クソッこすい事しやがって……」
木刀を拾い上げながら剣八が毒づいたが、元柳斎は平然として刀を構えた。
「そのこすいジジイに、一太刀も入れれんな。負けを認めよ、更木剣八」
「うるせえ!!俺は死んでねえ!!」
更木剣八は叫びながら元柳斎に向かっていった。
「俺をノシてから勝ったと言え!!!」
「やれやれ、道理の通じぬ獣よ」
刹那、人体を叩きつけた鈍い音がしたかと思うと、更木剣八が床に倒れた。どこに刀が入ったのか、千草の目には見えなかった。
 元柳斎は木刀をおろし、千草に向き直った。
「すまんな千草、コヤツへの説明は明日に延期じゃ」
「はい」
 それから四番隊員が来て、更木を運んで行った。

 翌日、何故か卯ノ花が更木を総務に連れてきて、説明中も更木の横にいた。更木は元柳斎に負けたからなのか、卯ノ花が隣にいるからなのかは分からないが、大人しかった。あと何故か、肩に騒がしい少女を乗せていた。副隊長にすると言ったので勝手にさせた。

 鬼厳城の時もそうだったが、十一番隊からは会計報告書も、隊士のシフト表も、討伐の報告書すら上がって来なかった。
 更木が大人しいうちに躾けよう、と千草は直々に十一番隊に赴いた。
 十一番隊舎に行くと、隊士達が業務中にも関わらず酒は飲むわ、寝るわ、博打をするわで目も当てられない状態だった。
 鬼厳城時代は、女は十一番隊に近づくなというお触れが元柳斎から出され、千草は入った事が無かった。よもやここまで酷いとは思いもしなかった。
「おい姉ちゃん、何の用だ。へへへ」
千草に気づいた男が近寄って来た。とても酒臭い。どうやら、総務官と知らずに話しかけているらしかった。
「更木隊長はどこ?」
冷淡な口調で千草が尋ねると、男はタメ口が気に触ったのか、眉を釣り上げた。
「おい、何番隊か知らねえが、人にもの尋ねるならそれなりの態度があんだろうが」
男は千草の腕を掴んできたが、気づいた時には地面に組伏せられていた。周りにいた男達の目線が一気に集中した。
「説教はいらないのよ。更木隊長はどこ?」
千草が男の腕を軽くひねると、隊舎に悲鳴が響いた。それが合図にでもなったように、荒くれ者達がゾロゾロと集まってきた。
「おう、威勢のいい姉ちゃんだな」
「早い者勝ちだぜえ」
男達は指をポキポキ鳴らしたり、舌なめずりをして千草を囲むといっきに襲いかかってきた。
「だから十一番隊は嫌いなのよ………」

 雨乾堂にいた浮竹は、十一番隊隊舎の方から千草が怒っている霊圧を感知した。
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