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親友の好きな人(京楽 浮竹)

29.怪事件の結末

 千草を含め、総務部全員は『完璧に』監視を行っていた。だが、ある3人の反応だけは『見ることが不可能』だった。既に支配は始まっていたのだ。
 千草達が観測計を見ていると、現場に向かっていた猿垣、平子、鳳橋、愛川、矢胴丸、有昭田の魂魄が消失し、代わりに8体の虚の霊圧を感知した。
 虚の出現を上に伝えている間に、何故か全ての霊圧がその地点から消えた。結界ではない。その場から消えたのだ。
「何が……何が起こっているの………」
総務部全員が、混乱したまま固まってしまった。
 翌朝、浦原と鬼道衆長の柄菱に強制捕縛礼状が出され、潜伏していた十二番隊隊舎で捕縛されたと、四十六室名義の通達が届いた。
 誰が浦原達を見つけ、誰が何を罪だと判断したのかは不明だった。
 2日間まともに寝ていない千草は、朦朧とする頭で混乱していた。
 四十六室の検察官が総務に現れ、昨夜始末部隊以外は精霊艇の外に出ていない事と、8体の虚の霊圧を感知した事を、証拠として提出するよう求めてきた。
「失礼ですが、浦原隊長と柄菱鬼道衆長の罪状は何ですか?」
部下を使って証拠を紙面に起こさせている間に、千草は検察官に尋ねたが、まだ刑が確定していないという理由で教えて貰えなかった。
 千草は疲労が溜まっている部下全員を帰らせ、自分は大霊書回廊に向かった。
 浦原の研究データを調べると、案の定検察が閲覧していた。更に禁忌とされる鬼道の書のデータも閲覧履歴が残っていた。
「……崩玉を何に使ったの……あれは、死神の限界を取り払うものでは無いの………?」
千草は回廊の鍵を閉めると、四十六室に向かった。
 だが、四十六室への進言は許されなかった。
「御艇十三隊総務官様と言え、裁判を中断はできませぬ」
四十六室の事務官が千草を止め、権限停止措置まで取ると脅された為、千草は引き下がるしか無かった。
 「総務官殿」
 総務へ戻る途中、千草が呼び止められた。
 声の方を見ると、隊長羽織では無い布を纏った夜一がいた。
「夜一さん…何を」
千草は夜一に駆け寄ったが、二徹の疲労で足がもつれ、夜一に支えられた。
「儂の事は聞いてくださるな。四十六室に進言に行かれたのか?」
「……ええ。何かが変よ。どんな緊急でも総務官に何も通達も無しに捉えられて、裁判にかけられるなんて、異例よ……」
千草は夜一の肩に手をやり、不信を吐露した。夜一は顔に布を巻くと、懐から一本の鍵を取り出した
「儂は今から浦原達を助けに行きますゆえ。総務官殿には申し訳無いが、我が四楓院家の宝物庫の鍵を預かっていただきたい」
「…何故……」
「貴女様が、疑いを持ってくださるからじゃ。儂も喜助も、御艇の隊長じゃと忘れんでほしい」
「待って夜一さん、何を………」
千草が夜一を追及しようとした途端、夜一の光の速さの手刀が千草の首に入った。普段ならまだしも、徹夜の疲労が溜まった体では避けようが無かった。
 気を失った千草を夜一が抱きかかえ、建物の壁にもたれさせた。
「すまぬ、総務官殿。期が熟した時に総務官の権力をかしてくだされ」
夜一はそう呟いて、四十六室に向かっていった。

 千草が四番隊隊舎で目を覚ますと、すでに11名の死神が姿を消した後だった。
 千草は夜一から被害を受けた事は正直に話したが、鍵の事は黙っていた。夜一が何かを知っていると分かり、その時が来るまで持っておこうと心に誓った。
 しかし全てが謎だった。
 何故浦原喜助は、親しくしていた平子や、部下の猿垣を実験体にしたのか。どうやって、彼らの動きを封じたのか。何故ワザワザ精霊艇内に潜伏したのか。彼らを捕えろと命令したのは、誰なのか……。
 全ての情報が入る総務官でも見えない部分が多すぎるこの事件は、御艇の大失態として闇に葬られ、追及する事は禁じられた。
 ただ、浦原喜助は未曾有の大悪人として、精霊艇にその名を残した。

 しばらくして、涅マユリが十二番隊隊長に就任した。
 隊長就任の事前説明で顔を合わせた時、涅マユリが、十二番隊の機械操作に長けた人員で精霊艇の監視をしようと提案してきた。予算の分配の権限がある千草には、涅は丁寧だった。
「助かるわ。総務の仕事としては、専門的過ぎたから」
「そうでしょうネ。総務官殿から総隊長殿に進言していただけると助かるのだガ」
涅は手を組み怪しい笑みで千草を見上げた。
 浦原喜助は、なんて不気味な者を呼び戻したのだろう……。
 千草は冷めた目で涅を見据え、彼の願いを聞き入れた。
「……あの事件の時も、貴方が監視してくれていたら、もっと違ったのかもね……」
「ああ……浦原喜助くらい、逃亡なんかさせなかったヨ」
不気味な笑みは消え、涅は苦々しく言い放った。

 ほどなくして、技術開発局は道具や薬の開発研究だけでなく、虚や魂魄の監視も受け持つようになり、総務部は記録と保管が主な業務になった。
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