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親友の好きな人(京楽 浮竹)

27.大霊書回廊の管理

 ある日、十二番隊隊長になった浦原喜助が総務部にやってきた。
「あの〜、すみませーん。総務官さんはいらっしゃいますかあ?」
お馴染みの気の抜けた声で、千草を探していた。
「……何の用?」
総務官の机から千草が声をかけると、浦原の顔がパッと明るくなり、ヒョコヒョコと寄ってきた。
「いやあ、相変わらずの美しさで〜。一番隊はお固くて苦手ッスけど、横山総務官を拝めるなら…」
「要件を手短に伝えて」
「はい………」
 千草が座ったまま冷たい目で浦原を見ると、一瞬ションボリした浦原が、薄ら笑いをやめて千草を見据えた。
「蛆虫の巣の人員を、十二番隊隊士として迎えようと思っているんスけど、手続きはどのようにしたら?」
「蛆虫の巣の……?刑軍団長の許可は?」
千草の冷たい目がやや大きく開かれ、浦原の考えに疑問を持った。
「いや、まだなんスけど、人事なら総務かと……」
「彼らは刑軍の判断で収監されているだけで、御艇に在席したままよ。前所属の隊から異動させるなら、異動届けに記入して提出して。後は夜一さんの管轄よ」
「あ、そうなんスか、ありがとうございます」
浦原はペコリと頭を下げて出ていこうとしたが、千草が呼び止めた。
「浦原隊長」
「はい?」
浦原はまた緩い顔になり、千草を見た。
「貴方の研究内容を全て記録させていただきたいのだけど、1日空けれる日はある?」
千草の言葉は丁寧だが、有無を言わさない雰囲気で浦原に聞いた。浦原の緩い顔は変わらない。
「はあ……なら、明後日なら…」
「そう、では明後日1日宜しくね」
「横山総務官と1日一緒なんすね〜」
浦原の顔がニヤけたが、千草の氷の目に貫かれると一瞬で真顔になった。
「明後日、宜しくお願いしますっ。横山総務官殿!」
浦原はビシッと敬礼すると、総務部から出て行った。
 平子といい浦原といい、隊長達は随分柔らかくなった。ああいう隊長を見ていると、時代の移り変わりを、自身の老いを感じてしまう。もう若くないな、と千草は感傷にふけった。

 「崩玉?」
 3日後、千草は十二番隊で小さなキューブを見せられていた。キューブの中には小さな球が入っている。浦原の手の上で『それ』は不思議な光を放っていた。浦原の顔はいつに無く真剣だ。
「はい……ちょっとこれは、総務官さん以外にはナイショでお願いします。不要な噂が広がるのは、ちょっと……」
「いいわ。ただ、大霊書回廊には研究内容を保存させてもらうけど」
「総務部の管轄でしたっけ?四十六室の管轄では?」
「管轄は、ね。あの貴族達は自分達で管理はしないわ。管理は私一人よ」
「ひえー。あのデッカイ書庫をお一人で?」
「そうよ。だから忙しいの」
「じゃあ、なるべく端的にお話しますね」
浦原はそう言って、崩玉を初め、義該や霊圧遮断についての研究を実物を見せながら説明したが、全てが終わる頃にはすっかり夜になっていた。
「すっかり夜ッスねえ…」
「……端的に説明してって言ったじゃない」
疲労困憊といった顔をした千草が浦原を睨んだ。
「え、ええ〜!アタシのせいじゃ無いッスよお!これでも頑張った方なんですから!!」
「……そうね、専門外の私にも分かるように説明してたらそうなるわね………」
千草はため息をついて、研究内容をまとめた紙の束を整理しだした。浦原も引っ張り出してきた製作物を片付けたりした。浦原は引き出しを整理しながら、後ろにいる千草に話しかけた。
「総務官さん、この後ご飯でもどうッスか?せっかくだし……」
「それはダメだ。千草は俺と帰るから」
千草では無い男の声がして、浦原がギョッとして振り向くと、十三番隊隊長の浮竹が戸口に立っていた。浦原を敵視していると言うより、男としての自信に満ちた顔をしていた。
「待ってたの?浮竹君、先に帰っててって言ったのに……」
「俺も残業していたから、ついでに寄ったんだ」
いち隊長と総務官のやり取りではない会話に、浦原は口を手で覆ってニヤけながら二人を見た。
「ありゃ、ありゃりゃりゃ〜。こぉれは、失礼しました〜」
浮竹は千草の脇に立ち、千草の肩に手を置いた。
「気持ちは分かるが。これからは誘いは厳禁だぞ、浦原隊長」
冗談半分、本気半分といった顔で浮竹は浦原に釘を指した。千草は、何を考えているか分からない顔をしている。浦原は顎をさすりながら、浮竹と千草を見比べた。
「肝に命じます。それにしても、浮竹隊長は随分な年下が好みなんスねえ……」
「何を言ってるの。私と浮竹君は同期よ」
「へ?……エエエエエエエ!!!???」
度肝を抜かれている浦原を見て、浮竹は面白そうに笑い、得意げに話した。
「ハハハハッ!!凄いだろ、千草は学生の頃から外見が変わっていないんだ」
「何で浮竹君が自慢するのよ」
「そりゃあ、こんな綺麗な女性が俺の恋人だから」
「すいませーん、そういうのは外でやっていただけますか〜」
浦原に追い出され、浮竹と千草は十二番隊を後にした。

 二人は大霊書回廊に寄り、千草だけが中に入って浦原の研究データを保管した。いくら隊長でも、四十六室の許しが無ければ大霊書回廊には入る事すら許されない。

 それから110年後、千草は自分の失態に初めて気づく。
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