親友の好きな人(京楽 浮竹)
26.二人のそれからと、赤いランプ
平子真子の隊長就任を皮切りに、隊長、副隊長の代替わりが相次いだ。
普段の業務に加えて、新隊長への隊長業務の説明や手続きに追われ、流石の千草も顔に疲れが出てきた。
ある日、浮竹が雨乾堂で静養していると、簾が動き、千草が顔を出した。
「ちょっと……休ませて」
千草は浮竹ににじりよると、布団の上に座って読書している浮竹の膝に頭を乗せた。
「大分疲れているな。大丈夫か?」
膝の上の千草に向かって、浮竹が心配そうに声をかけた。
「ようやく一段落……鳳橋君で一区切りにしてほしいわ」
千草はため息をついて、額に手の甲を当てた。浮竹は微笑み、その手を握った。
「寝たらいい。起こすから」
「ありがとう……」
千草はすぐに浮竹の膝の上で寝息をたてた。
浮竹はその寝顔を眺めながら、幸せそうに微笑み、髪を撫でた。
千草が浮竹の恋人になっても、京楽との距離感は変わらなかった。今まで通り3人で集まり、今まで通り、親しみを込めて触れ合った。
京楽と千草が触れ合っても、浮竹は特に何とも思わなかった。だが、京楽以外の男と千草が接近すると、どうしても嫉妬心が首をもたげた。
「浮竹君……京楽君以外の男は許せないのね」
ある日、浮竹の家に来た千草に言われた。図星を突かれた浮竹は、申し訳なさそうに項垂れた。
「かっこ悪いとは思っているんだが………すまない。器量が狭くて……」
千草は浮竹を責めも諭しもせず、嬉しそうに微笑んだ。
「かっこ悪い浮竹君を知ってるのが私だけなんて……何か、優越感…」
千草は、どんな浮竹でも受け入れてくれた。と言うよりも、長い年月をかけて知り尽くしたと思っていた浮竹の新しい面を見て、喜んでいるようだった。
長い片思いは、意外な形で浮竹に喜びをもたらしてくれた。諦めなくて良かった、と、改めて何回も思った。
雨乾堂で眠る千草に、浮竹は自分の隊長羽織をかけた。それでも起きる事無く、千草は眠り続けた。
学生の頃、授業中に自分の横で眠っていた千草が、今は自分の膝を枕にして眠っていると思い、浮竹の腹の辺りがむず痒くなった。
一刻ほどで浮竹が起こしてくれて、千草はぼんやりする頭を無理矢理起こした。
「まだ休んで行くか?」
「ううん。もう行かなきゃ。ありがとう起こしてくれて」
千草は髪の毛を撫でつけながら、半開きの目で浮竹を見上げた。
「昔、千草が授業中に寝た事があったよな」
「ああ…その後京楽に酷い態度とったわね。それがどうかした?」
「今は俺の膝で寝てるな、て……」
懐かしそうに微笑む浮竹を見て、千草は浮竹の肩に手を置いて口付けをした。
「……こんな事もしちゃうしね」
千草は浮竹を支えにして立ち上がり、簾に向かった。浮竹は口を押さえて、千草を見上げた。
「……今日、うち来るか?」
「遅くなっていいなら、お邪魔するわ」
「じゃあ、待ってる」
「待ちすぎないでね」
「気をつける」
「じゃあね」
「ああ」
そんなやり取りをしてから、千草は雨乾堂を出て行った。浮竹がしばらく簾を眺めていると、簾が動いた。
千草が戻ってきたかと思ったら、海燕だった。
「…海燕か……」
「何スか、その反応」
2年半後、総務室にある赤いランプが点灯した。千草が就任してからは、初めてついた。
「総務官、これは?」
部下が不安げに千草に尋ねると、千草は斬魄刀を机に置き、扉に向かった。
「あの、私は…」
補佐官がついて来ようとしたが、千草が静止した。
「これは、私一人の任務よ」
心配そうに見つめる部下を尻目に、千草は一人で出て行った。
精霊艇から出た開けた場所で、簡易テントを抱えて待っていると、空から巨大な柱が降ってきた。
すぐに中から、4人の個性豊かな死神が出てきた。千草は膝をつき、頭を下げた。
「お待ちしておりました。零番隊の皆様」
「あ!お前、菱田千草じゃあねーか!!」
聞き覚えのある声に顔を上げると、嘗ての恩師がいた。
「麒麟寺先生……。零番隊にいらしたんですね」
「なんだお前、学生の頃と何にも変わらねえじゃねーか!!あのクソガキ共は生きてっか?!!」
「後にせんか」
和尚の拳骨が麒麟寺の脳天に直撃した。
「痛えなチクショー!!!!!」
和尚は千草に向き直ると、今回の目的を告げた。
「十二番隊の曳舟隊長を呼んできてくれるか」
「はっ」
千草は簡易テントを組み立てると、零番隊の4人をそこで待たせ、自身は十二番隊に向かった。
十二番隊の隊首室の扉をノックすると、怒声が飛んできた。
「なんの用じゃワレコラァ!!!!」
猿垣ひよりは、十二番隊に予算を十分に渡さないからと千草を目の仇にしていた。霊圧ですぐに千草だと分かり、早速喧嘩を売ってきた。
「あなたには用は無いわ。曳舟隊長はどこ?」
扉越しに尋ねると、ひよりはまた何かを叫んでいたが、誰かに口を塞がれたようだ。
「はいはーい。曳舟はここにいますよー。すみませーん」
おおらかな声が聞こえて、曳舟が顔を出した。
「副隊長にも他言無用の件です」
千草は曳舟に要件を伝え、一緒に零番隊がいるテントまで行った。
千草はテントの外で結界を張っていた為、会話の内容は分からないが、曳舟は零番隊への昇進を決めた。
半年後曳舟がいなくなると、千草はひよりに親の仇の如く嫌われた。
「私にどうしろって言うのよ……」
千草は浮竹の家で、浮竹の胸に顔を押しつけながら愚痴った。浮竹は仰向けで、千草の頭を優しく撫でた。
「猿垣君は難しい性格だよな……俺も上手くやれる自信ないよ」
「……浮竹君でも難しいなら、私は仕方ないわね」
千草はため息をつきながら、浮竹の腕枕に頭を預けた。
「ちょっと疲れてるか?」
浮竹が千草の顔を覗き込みながら聞いた。
「……まあね。新しい十二番隊隊長の隊首試験の準備やら手続きやら……曳舟隊長の手続きも、初めて尽くしだし……」
「大変だな、体壊すなよ」
「フフ、ありがとう。浮竹君も、ね」
「そういえば、新しい隊長って誰なんだ?もう決まったか?」
「うん……ニ番隊三席の子。夜一さんが推薦したの」
「へえ、刑軍か…。表に出ないから知らないな」
「そうよね。私も名前しか知らなかったわ。浦原喜助君って言うの」
「初めて聞くな」
「なんて言うか、平子君とか鳳橋君とは違う緩さだった…」
平子真子の隊長就任を皮切りに、隊長、副隊長の代替わりが相次いだ。
普段の業務に加えて、新隊長への隊長業務の説明や手続きに追われ、流石の千草も顔に疲れが出てきた。
ある日、浮竹が雨乾堂で静養していると、簾が動き、千草が顔を出した。
「ちょっと……休ませて」
千草は浮竹ににじりよると、布団の上に座って読書している浮竹の膝に頭を乗せた。
「大分疲れているな。大丈夫か?」
膝の上の千草に向かって、浮竹が心配そうに声をかけた。
「ようやく一段落……鳳橋君で一区切りにしてほしいわ」
千草はため息をついて、額に手の甲を当てた。浮竹は微笑み、その手を握った。
「寝たらいい。起こすから」
「ありがとう……」
千草はすぐに浮竹の膝の上で寝息をたてた。
浮竹はその寝顔を眺めながら、幸せそうに微笑み、髪を撫でた。
千草が浮竹の恋人になっても、京楽との距離感は変わらなかった。今まで通り3人で集まり、今まで通り、親しみを込めて触れ合った。
京楽と千草が触れ合っても、浮竹は特に何とも思わなかった。だが、京楽以外の男と千草が接近すると、どうしても嫉妬心が首をもたげた。
「浮竹君……京楽君以外の男は許せないのね」
ある日、浮竹の家に来た千草に言われた。図星を突かれた浮竹は、申し訳なさそうに項垂れた。
「かっこ悪いとは思っているんだが………すまない。器量が狭くて……」
千草は浮竹を責めも諭しもせず、嬉しそうに微笑んだ。
「かっこ悪い浮竹君を知ってるのが私だけなんて……何か、優越感…」
千草は、どんな浮竹でも受け入れてくれた。と言うよりも、長い年月をかけて知り尽くしたと思っていた浮竹の新しい面を見て、喜んでいるようだった。
長い片思いは、意外な形で浮竹に喜びをもたらしてくれた。諦めなくて良かった、と、改めて何回も思った。
雨乾堂で眠る千草に、浮竹は自分の隊長羽織をかけた。それでも起きる事無く、千草は眠り続けた。
学生の頃、授業中に自分の横で眠っていた千草が、今は自分の膝を枕にして眠っていると思い、浮竹の腹の辺りがむず痒くなった。
一刻ほどで浮竹が起こしてくれて、千草はぼんやりする頭を無理矢理起こした。
「まだ休んで行くか?」
「ううん。もう行かなきゃ。ありがとう起こしてくれて」
千草は髪の毛を撫でつけながら、半開きの目で浮竹を見上げた。
「昔、千草が授業中に寝た事があったよな」
「ああ…その後京楽に酷い態度とったわね。それがどうかした?」
「今は俺の膝で寝てるな、て……」
懐かしそうに微笑む浮竹を見て、千草は浮竹の肩に手を置いて口付けをした。
「……こんな事もしちゃうしね」
千草は浮竹を支えにして立ち上がり、簾に向かった。浮竹は口を押さえて、千草を見上げた。
「……今日、うち来るか?」
「遅くなっていいなら、お邪魔するわ」
「じゃあ、待ってる」
「待ちすぎないでね」
「気をつける」
「じゃあね」
「ああ」
そんなやり取りをしてから、千草は雨乾堂を出て行った。浮竹がしばらく簾を眺めていると、簾が動いた。
千草が戻ってきたかと思ったら、海燕だった。
「…海燕か……」
「何スか、その反応」
2年半後、総務室にある赤いランプが点灯した。千草が就任してからは、初めてついた。
「総務官、これは?」
部下が不安げに千草に尋ねると、千草は斬魄刀を机に置き、扉に向かった。
「あの、私は…」
補佐官がついて来ようとしたが、千草が静止した。
「これは、私一人の任務よ」
心配そうに見つめる部下を尻目に、千草は一人で出て行った。
精霊艇から出た開けた場所で、簡易テントを抱えて待っていると、空から巨大な柱が降ってきた。
すぐに中から、4人の個性豊かな死神が出てきた。千草は膝をつき、頭を下げた。
「お待ちしておりました。零番隊の皆様」
「あ!お前、菱田千草じゃあねーか!!」
聞き覚えのある声に顔を上げると、嘗ての恩師がいた。
「麒麟寺先生……。零番隊にいらしたんですね」
「なんだお前、学生の頃と何にも変わらねえじゃねーか!!あのクソガキ共は生きてっか?!!」
「後にせんか」
和尚の拳骨が麒麟寺の脳天に直撃した。
「痛えなチクショー!!!!!」
和尚は千草に向き直ると、今回の目的を告げた。
「十二番隊の曳舟隊長を呼んできてくれるか」
「はっ」
千草は簡易テントを組み立てると、零番隊の4人をそこで待たせ、自身は十二番隊に向かった。
十二番隊の隊首室の扉をノックすると、怒声が飛んできた。
「なんの用じゃワレコラァ!!!!」
猿垣ひよりは、十二番隊に予算を十分に渡さないからと千草を目の仇にしていた。霊圧ですぐに千草だと分かり、早速喧嘩を売ってきた。
「あなたには用は無いわ。曳舟隊長はどこ?」
扉越しに尋ねると、ひよりはまた何かを叫んでいたが、誰かに口を塞がれたようだ。
「はいはーい。曳舟はここにいますよー。すみませーん」
おおらかな声が聞こえて、曳舟が顔を出した。
「副隊長にも他言無用の件です」
千草は曳舟に要件を伝え、一緒に零番隊がいるテントまで行った。
千草はテントの外で結界を張っていた為、会話の内容は分からないが、曳舟は零番隊への昇進を決めた。
半年後曳舟がいなくなると、千草はひよりに親の仇の如く嫌われた。
「私にどうしろって言うのよ……」
千草は浮竹の家で、浮竹の胸に顔を押しつけながら愚痴った。浮竹は仰向けで、千草の頭を優しく撫でた。
「猿垣君は難しい性格だよな……俺も上手くやれる自信ないよ」
「……浮竹君でも難しいなら、私は仕方ないわね」
千草はため息をつきながら、浮竹の腕枕に頭を預けた。
「ちょっと疲れてるか?」
浮竹が千草の顔を覗き込みながら聞いた。
「……まあね。新しい十二番隊隊長の隊首試験の準備やら手続きやら……曳舟隊長の手続きも、初めて尽くしだし……」
「大変だな、体壊すなよ」
「フフ、ありがとう。浮竹君も、ね」
「そういえば、新しい隊長って誰なんだ?もう決まったか?」
「うん……ニ番隊三席の子。夜一さんが推薦したの」
「へえ、刑軍か…。表に出ないから知らないな」
「そうよね。私も名前しか知らなかったわ。浦原喜助君って言うの」
「初めて聞くな」
「なんて言うか、平子君とか鳳橋君とは違う緩さだった…」