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親友の好きな人(京楽 浮竹)

24.京楽春水は許されるけど

 京楽は夜中だというのに、浮竹の家の玄関を力一杯叩いた。
「お〜い、浮竹エ〜!!起きてるかーい!!寝てても起きて〜!!!」
酔っているのか、京楽は遠慮をしなかった。後ろで千草が心配そうに見ていた。
「うるさいぞ!!何時だと思って………」
寝間着を着た浮竹が不機嫌そうに戸を開けると、京楽の後ろに千草を見つけて、言葉を飲み込んだ。
「千草…?何で、京楽と…こんな時間に……」
不機嫌が一気に困惑に変わり、浮竹は頭を掻いた。
 京楽は後ろにいた千草の腰に手を回し、前に押しやった。二人が触れ合っても、浮竹の表情は変わらない。
「ほら、千草、ちゃんと言って」
京楽が千草の頭を撫でた。千草は決心したように、赤い目を浮竹に向けた。
「千草、泣いてるのか?何で……」
「…二人が好きなの………」
千草の声が震えて、また涙が浮かんだ。
「なのに……私、浮竹君を別の意味で好きに………」
浮竹は言葉を失って、千草と京楽を交互に見つめた。京楽は千草の頭に手を置いたまま、困った様に笑っていた。
「このお姫さんは、僕らの関係を壊さないようにずっと黙ってたんだよね?霊術院の頃からでしょ?」
京楽は笑っているが、浮竹と千草は驚いて京楽を凝視した。
 京楽は二人を見て、千草を巻き込んで浮竹もろとも抱きしめた。
「なーんも、変わんないよ。でも、君ら二人が幸せでいてくれると、僕としてはありがたいから、二人の時間は作ってね」
京楽はそう言って、腕に力を込めた。京楽と浮竹に挟まれてる千草が、苦しそうに京楽の腕を叩いた。
「あ、ごめんよ」
京楽は離れようとしたが、千草はそのまま京楽にしがみついてきた。
「……ありがとう…京楽君……背中を押してくれて」
「うん。君があまりにも意気地なしだから」
京楽はまた千草を抱きしめた。浮竹は安心した顔で二人を見ていた。
「さ、じゃあ僕は僕の女の子の所行くよ」
京楽は千草を離し、二人に手を振った。
 浮竹は千草の隣に並び、京楽を見据えた。
「京楽…ありがとう……」
「はいはい、男からのお礼はいいから、早く家に入りなよ。冷えるよ」
京楽は浮竹の礼をアッサリ切り捨て、さっさと歩いて行った。
 浮竹と千草は京楽を見送ると、浮竹が千草を誘って家の中に入って行った。
「悪いな、他の部屋寒くて…」
 二人は寝室に来ていた。飛び起きたのが一目瞭然に、布団が乱れていた。この部屋には煙突ストーブが焚かれており、随分温かかった。
「……大丈夫」
「……さっきの……もう一度聞かせてほしい………」
浮竹が千草の手を握って、遠慮がちにせがんだ。千草も恥ずかしそうに目を伏せたかと思うと、上目遣いで浮竹を見た。
「……好きよ。浮竹君」
いい終わり、千草が頬を染めると、浮竹も赤面していた。
「何で、浮竹君が恥ずかしがるのよ…」
「……ずっと……ずっと想っていたから……」
浮竹は口元を押さえて俯くと、一回千草を見て、腕を広げた。
「覚悟は?」
「してきた」
千草が言い終わる前に、浮竹が千草を抱きしめていた。二人はそのままバランスを崩し、布団に倒れ込んだ。浮竹の髪が千草にかかり、千草が髪をどかすと、唇を奪われた。
 長い口付けの後、浮竹が唇を離すと、目を細めて顔を赤くする千草が目に入った。
「……びっくりするだろ。この歳で初めてだぞ」
「……私もよ」
「すっかりオジサンだよ」
「うん…ごめんね」
浮竹はもう一度千草に口付けをすると、首筋に顔を埋めた。
「……いいか?」
「覚悟してきた」

 二人はその夜、ようやく思いを遂げた。
 翌日二人は寝不足気味だったが、何とか出勤した。

 千草と藍染はそれ以来二人きりになる事は無く、だからと言って浮竹との事をワザワザ言う事も無く、年度末の会議を迎えた。
 その時には、平子は隊長になっていた。
 普段通りの会議を終わらせると、千草はその場で藍染を呼び、今日の決定事項の処理と、藍染の異動の手続きについて話し始めた。浮竹は他の隊長達と談笑しながら、千草の後ろ姿を横目で見ていた。藍染の事は、千草から聞いていた。
「……じゃあ、今までありがとう。助かったわ、とても」
千草は藍染の目を見て、やや冷淡にそう告げた。藍染は苦笑いしている。
「…こちらこそ。お世話になりました」
「またこの会議で顔を合わせられるのを、楽しみにしているわ」
「会議で、ですね」
その時、藍染の手が千草の髪に伸ばされたのを見た浮竹は、咄嗟に千草を抱き寄せていた。
 自分でやっておきながら、浮竹は自分の行動に驚いて、目を見開いて藍染を見た。藍染も片手を上げたまま、浮竹を見ていた。
 周りにいた隊長副隊長達も、白塔の魔女を抱きしめる浮竹を見て固まっていた。
「お……」
浮竹が喉から絞り出す様に、声を発した。周りは首をかしげて成り行きを見守った。
「俺の、なんだ!!触ったら、ダメだ!!」
浮竹が白塔の魔女を自分のだと言い切った事に、周りは騒然となった。
 浮竹は汗をかいて、顔を真っ赤にしていたが、しっかりと千草を抱きしめていた。藍染はそれを見て、寂しい笑顔になった。
「……おめでとうございます。最後の日に知れて良かったです……」
そう言って、藍染は浮竹に背を向けて去って行った。隊長副隊長達は、浮竹と千草の周りに集まり、お祝いしたり、冷やかしたりし始めた。

 「失恋か?藍染惣右介」
 藍染が会議室から出ると、独特な訛りのある声に呼び止められた。振り向くと、出口の横の壁に平子真子がもたれて、意味深な笑顔で藍染を見ていた。
「…追い打ちですか、平子隊長」
「いや、すまんな。思わず口から出てまっただけやねん」
平子の口元は笑っているが、その目は藍染の眼鏡の奥を見据えていた。
「僕に何かご用ですか?」
「お前、俺の副隊長やれや」
有無を言わさない命令口調に、藍染は戸惑い、平子をじっと見た。
「何故僕なんですか?」
「当たり前やろ〜、俺が楽する為や」
「ハッキリおっしゃいますね」
平子は藍染の目を見据えたまま近寄り、肩の辺りで小さく呟いた。
「副隊長なったら、お前が千草サン事微塵も好きやなかった件黙っといたるわ」
平子はそう言い、藍染を見てニヤリと笑った。
「……恐ろしい人だ」
藍染は眼鏡に指をかけて呟いた。
 会議室では、浮竹と千草が質問攻めに合っていた。
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