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親友の好きな人(京楽 浮竹)

20.勧誘

 「総務部…ですか?」
 浮竹は三番隊に赴き、藍染惣右介に会っていた。
 総務部の事を話すと、あまり良い返事は貰えなかった。当たり前だ。席官まで行っておいて、席職の総務部に入りたがる者はいない。
「ずっとじゃ無いんだ。今の補佐官が戻るまでなんだが…どうかな?隊長格を目指すなら、知っておいて損はない仕事だと思うんだけど」
「うちの働き手を、たぶらかさんといてくんさい。浮竹隊長」
背後から、威厳と強さを兼ね備えた女性の声がした。
「射場副隊長」
彼女は見た目は老齢だが、浮竹より年下だ。だが、年上だろうが立場が上だろうが、誰にでも意見する芯の強さがあった。
「惣右介がおらんと、うちの隊が困りますけえ。上に、ちょっとばかし腑抜けがおるからのう」
射場は浮竹を通り過ぎて、藍染の肩に手を置いた。間に挟まれた藍染は気まずそうだ。
「そう言わずに。それに、ほら、藍染君が総務部の仕事を覚えたら、年度末の作業任せられるよ」
「行ってこい惣右介!!!」
射場が藍染の背中をバシンッと叩き、藍染は前にツンのめた。浮竹は苦笑いするしかなかった。
「とりあえず、一回総務官に会ってみないか?」
「は、はあ。分かりました」
藍染が眼鏡をかけ直していると、射場が藍染の肩に手を置き、ハッキリと念を押した。
「惣右介、総務官には何があっても逆らうな、それと、絶対惚れたらあかんぞ。どっちも死ぬ事になるけえの」
「なっ…」
怯える藍染を見て、浮竹が思わずフォローをした。
「いや、そんな恐くはないよ。人見知りなだけで、身内には優しい奴だからさ」
「そうだと、有り難いです……」
 藍染は乗り気では無かったが、浮竹は何とか約束を取り付け、その場を後にした。
 帰り道、射場副隊長の言葉を頭に反芻した。
 『絶対に惚れるな。死ぬ事になる』
 「……生殺しさ」
 誰もいない道で、浮竹はポツリと呟いた。

 3日後、浮竹は藍染と共に一番隊隊舎の総務部に向かっていた。
「浮竹隊長は、何故僕を推薦したんですか?」
階段を登りながら、藍染は前を行く浮竹に尋ねた。
「ん?そうだな…。君は、優秀だし、人望もあるからな」
「そんな……買い被らないでください」
「本当だ。それに、君は人と距離感を測るのが得意そうに見えたから」
「…距離感、ですか?」
浮竹は歩みを止めない。
「…総務官は、俺の同期でね。なかなか人に心を開けない奴なんだ。だから、君ならアイツとも上手くやれそうな気がしてね」
 気がつくと、総務部の扉の前まで来ていた。
 二人が話をやめて、浮竹が扉をノックすると、中から千草の部下が顔を出した。
「お待ちしておりました。どうぞ」
 部下に案内されて奥にある応接室に入ると、千草がソファに腰掛けていた。
「待っていたわ」
千草は立ち上がり、藍染に近寄って手を差し出した。
「初めまして。貴方が藍染惣右介君ね。総務官の横山千草よ、よろしく」
浮竹がチラリと藍染を見ると、彼は目を見開いて千草を凝視していた。
 一瞬の間をおいて、藍染はおずおずと千草の手を握った。
「三番隊五席の藍染惣右介です…」
「名前はさっき私が言ったでしょ」
千草はフッと笑って、藍染と浮竹をソファに座らせた。
 千草は資料を用いて、総務部の仕事を説明し出した。藍染は集中して聞いている様に見えたが、所々で千草の顔を見ているのを、浮竹は見逃さなかった。
 一通り説明をし終えると、千草は藍染の顔をじっと見た。
「何か質問ある?」
不意打ちだったのか、藍染は言葉に詰まった。藍染は少し考えると、えーと、とはじめた。
「総務部に所属したら、年度末の会議には行けますか?」
千草の予想していた質問とは違ったらしく、千草は口をすぼめた。
「見学したいって事?」
「はい」
千草は笑って、資料を閉じた。
「いいわよ、補佐官代理として連れて行ってあげる」
「あ、ありがとうございます」
「それは、勧誘成功って事でいいのかしら?」
「…はい」
「じゃあ、私から三番隊隊長に話をつけるから、それから手続きをさせて」
 千草は藍染と浮竹を立たせて、出口まで送って行った。
 出口で、千草は浮竹を呼び止めた。
「ありがとう。助かったわ」
浮竹は千草に触れるほど近づいて、優しい笑顔で微笑んだ。
「うん。上手くいって良かったな」
「ええ」
「じゃあな」
「またね」
 千草は最後に浮竹を見つめてから、扉を閉めた。扉が閉まって、浮竹はようやくその場を離れた。
 同期というだけで片付けるには親密すぎる雰囲気のやり取りに、藍染は目を見張った。
 浮竹が藍染の横に並んだ時、藍染の視線に気づいた。
「どうかしたかい?」
浮竹の問いかけに、藍染は慌てて視線を外した。
「いえ、すみません。ジロジロ見て…」
「ハハハッ。何かおかしかったか?」
「横山総務官と、親しいんですね」
歩き出した浮竹の背中に向かって、藍染が聞いた。
「ああ、学生の頃から京楽と3人でいたんだ」
 浮竹の答えから、総務官と浮竹が男女の仲ではない事を藍染は悟った。
「横山総務官が、浮竹隊長や京楽隊長と同期というのに驚きました」
「アイツは、全然変わらないからな……」
浮竹の表情は見えなかったが、その声にはどこか憂いを帯びていた。
 藍染は当たり障りない会話をして、浮竹と別れた。
 一人になった浮竹は、京楽に報告しに行こうと思ったが、足を止めた。京楽がいい顔をしないのは明白だった。
 
 許してくれ、親友。もうそろそろ限界なんだ。格好いい事を口では言っていたが、疲れたんだ。疲れたのに、諦められないんだ。きっかけが欲しいんだ。諦める、きっかけが…。
 
 そして半年後、藍染は総務部に異動した。
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