親友の好きな人(京楽 浮竹)
16.プラスワン
千草が現世に行って1年が過ぎた。髪は背中まで伸びた。
千草は現世で引き継ぎを済まると、セイカイ門を通って、ソウルソサエティに帰った。
出迎えは誰もいない。当たり前だ、皆働いている。
一番隊隊舎に行き、報告書を作り、明日からの仕事の話だけ聞いて自室に帰った。
1年振りの自分の部屋だ。
本当なら共同浴場に行きたいが、千草はベッドに倒れ込み、そのまま寝てしまった。
疲れていた。心も体も。親友二人に会えない孤独と、これからの関係への不安が一年中千草に付き纏っていた。
これから彼は、私を親友として扱ってくれるかしら……。それとも、離れてしまうかしら……。何で私なの……?女は他に山ほどいるじゃない。私は、友達でいたいのよ。
気がつくと、窓から夕陽が差し込んでいた。
千草はベッドから起きると、荷物を持って共同浴場に向かった。
湯船に浸かって疲れを取ると、生乾きの髪のまま、部屋に帰った。外は暗くなっていた。
部屋の手前まで行くと、玄関の前で誰かが立っているのが見えた。暗くてよく見えない。
「……誰?」
目を細めて見ていると、その人物はパッと千草を見た。
「…千草。おかえり!」
「浮竹君…!」
浮竹は嬉しそうに千草に寄ってきた。気まずさなんて、微塵もない。
「風呂に行ってたのか?向こうじゃ、ろくに風呂にも入れないだろ?」
「え、ええ…。どうしたの?」
まさかこんな、何の屈託もなく話しかけられるとは思っていなかった千草は、不思議そうに尋ねた。浮竹は千草の問いかけに、少しだけ動揺したように見えた。だが、すぐにまっすぐ千草を見た。
「…1年、考えていたんだ」
「……なんの事……」
嘘だ。本当は分かってる。だけど、分かりたく無かった。言わないで、浮竹君…。
「お前が好きなんだ。千草」
千草は、現実から目をそむける様に目を瞑った。 嫌よ、そんなの。京楽君は、どうなるの?私達3人の関係が、崩れるのよ…?
「……私は…、3人でいたいの……」
「…うん…知ってた」
「なら、何でそんな事言うの……それじゃ、一緒にいられなくなる……」
「一緒にいよう。これからも、親友として」
千草は困惑した顔で浮竹を見た。浮竹の目に迷いは無い。
「……どういう、事?」
「俺達は、親友だ。それは変わらない。ただそこに、俺がお前の事が好きだって事が加わるだけだ」
「……傷つくのは、浮竹君じゃないの?」
「傷つかない。だってお前といられるから」
「……馬鹿ね。馬鹿だわ……」
千草は俯いて、眉を潜めた。
「馬鹿じゃないと、お前みたいな奴好きにならないよ」
浮竹は笑ってみせた。だが、千草は笑わない。
「私は…どうしたらいいの?」
「今まで通りでいい……でも、いつか、俺を好きになってほしい」
千草は答えず、ただ黙っていた。浮竹は少し寂しそうな顔をしたが、無理矢理笑って、頭を掻いた。
「明日、また3人で飲みに行こう。来るだろ?」
浮竹の明るい声が、俯く千草を照らした。千草は浮竹の顔を見ずに、小さく頷いた。
「……行くわ」
「じゃあ、また明日」
浮竹は去り際に、千草の髪に指先で触れた。千草は俯いたまま、浮竹を見なかった。
浮竹は髪に触れていた手を握ると、なんとも言えない笑みを浮かべたまま、千草に背中を向け去っていった。
千草は部屋に入り、鍵を閉めた。
何も考えたくなくて、髪を乾かさずにそのまま寝た。
翌日、千草はいつもの居酒屋に入っていった。
「やあ、千草。久しぶり。髪伸びたねえ」
先に来ていた京楽が、相変わらずの口調で千草を迎えた。千草には、それが嬉しかった。
「京楽君も。ひげも、範囲が広がったわね」
「何?男振りがあがったって?」
「そう言い事にしといてあげる」
二人がやり取りをしていると、遅れて浮竹がやって来た。
「お、俺が一番最後か」
「遅いわよ。幹事」
浮竹は千草を見て、笑顔になった。
「すまんすまん」
浮竹が千草に再会の挨拶をしない所を見て、京楽は昨日二人が会っていた事を悟った。
酒が入っても、浮竹と千草のやり取りは昔と何も変わらなかった。
「昨日、千草に会った?」
千草が席を離れた時に、京楽が浮竹に尋ねた。
「ああ。気持ちを伝えてた」
京楽が目を見開いた。
「本当かい?やるなあ」
「だが、やはり千草は、3人で居たいと……」
「……まあ、そうだろうね」
浮竹は一回俯いて、スッキリした顔で京楽を見た。
「いいんだ。側に居られるなら」
「君を見てると、自分が酷く意気地なしに思えるよ」
「……俺は、お前みたいに器用じゃないだけだ」
「まあ、嫌な事から逃げるのは得意なんだ」
「…俺はお前が羨ましいよ」
「お互い様さ」
二人は苦笑いをしあって、酒を酌み交わし、一気に飲んだ。
男の親友は特別だ、と互いに感じていた。千草が特別ではない訳ではないが、同性としてあらゆる事を共感しあえるのは有り難かった。
「頑張れよ、親友」
「ああ……ありがとな」
千草が現世に行って1年が過ぎた。髪は背中まで伸びた。
千草は現世で引き継ぎを済まると、セイカイ門を通って、ソウルソサエティに帰った。
出迎えは誰もいない。当たり前だ、皆働いている。
一番隊隊舎に行き、報告書を作り、明日からの仕事の話だけ聞いて自室に帰った。
1年振りの自分の部屋だ。
本当なら共同浴場に行きたいが、千草はベッドに倒れ込み、そのまま寝てしまった。
疲れていた。心も体も。親友二人に会えない孤独と、これからの関係への不安が一年中千草に付き纏っていた。
これから彼は、私を親友として扱ってくれるかしら……。それとも、離れてしまうかしら……。何で私なの……?女は他に山ほどいるじゃない。私は、友達でいたいのよ。
気がつくと、窓から夕陽が差し込んでいた。
千草はベッドから起きると、荷物を持って共同浴場に向かった。
湯船に浸かって疲れを取ると、生乾きの髪のまま、部屋に帰った。外は暗くなっていた。
部屋の手前まで行くと、玄関の前で誰かが立っているのが見えた。暗くてよく見えない。
「……誰?」
目を細めて見ていると、その人物はパッと千草を見た。
「…千草。おかえり!」
「浮竹君…!」
浮竹は嬉しそうに千草に寄ってきた。気まずさなんて、微塵もない。
「風呂に行ってたのか?向こうじゃ、ろくに風呂にも入れないだろ?」
「え、ええ…。どうしたの?」
まさかこんな、何の屈託もなく話しかけられるとは思っていなかった千草は、不思議そうに尋ねた。浮竹は千草の問いかけに、少しだけ動揺したように見えた。だが、すぐにまっすぐ千草を見た。
「…1年、考えていたんだ」
「……なんの事……」
嘘だ。本当は分かってる。だけど、分かりたく無かった。言わないで、浮竹君…。
「お前が好きなんだ。千草」
千草は、現実から目をそむける様に目を瞑った。 嫌よ、そんなの。京楽君は、どうなるの?私達3人の関係が、崩れるのよ…?
「……私は…、3人でいたいの……」
「…うん…知ってた」
「なら、何でそんな事言うの……それじゃ、一緒にいられなくなる……」
「一緒にいよう。これからも、親友として」
千草は困惑した顔で浮竹を見た。浮竹の目に迷いは無い。
「……どういう、事?」
「俺達は、親友だ。それは変わらない。ただそこに、俺がお前の事が好きだって事が加わるだけだ」
「……傷つくのは、浮竹君じゃないの?」
「傷つかない。だってお前といられるから」
「……馬鹿ね。馬鹿だわ……」
千草は俯いて、眉を潜めた。
「馬鹿じゃないと、お前みたいな奴好きにならないよ」
浮竹は笑ってみせた。だが、千草は笑わない。
「私は…どうしたらいいの?」
「今まで通りでいい……でも、いつか、俺を好きになってほしい」
千草は答えず、ただ黙っていた。浮竹は少し寂しそうな顔をしたが、無理矢理笑って、頭を掻いた。
「明日、また3人で飲みに行こう。来るだろ?」
浮竹の明るい声が、俯く千草を照らした。千草は浮竹の顔を見ずに、小さく頷いた。
「……行くわ」
「じゃあ、また明日」
浮竹は去り際に、千草の髪に指先で触れた。千草は俯いたまま、浮竹を見なかった。
浮竹は髪に触れていた手を握ると、なんとも言えない笑みを浮かべたまま、千草に背中を向け去っていった。
千草は部屋に入り、鍵を閉めた。
何も考えたくなくて、髪を乾かさずにそのまま寝た。
翌日、千草はいつもの居酒屋に入っていった。
「やあ、千草。久しぶり。髪伸びたねえ」
先に来ていた京楽が、相変わらずの口調で千草を迎えた。千草には、それが嬉しかった。
「京楽君も。ひげも、範囲が広がったわね」
「何?男振りがあがったって?」
「そう言い事にしといてあげる」
二人がやり取りをしていると、遅れて浮竹がやって来た。
「お、俺が一番最後か」
「遅いわよ。幹事」
浮竹は千草を見て、笑顔になった。
「すまんすまん」
浮竹が千草に再会の挨拶をしない所を見て、京楽は昨日二人が会っていた事を悟った。
酒が入っても、浮竹と千草のやり取りは昔と何も変わらなかった。
「昨日、千草に会った?」
千草が席を離れた時に、京楽が浮竹に尋ねた。
「ああ。気持ちを伝えてた」
京楽が目を見開いた。
「本当かい?やるなあ」
「だが、やはり千草は、3人で居たいと……」
「……まあ、そうだろうね」
浮竹は一回俯いて、スッキリした顔で京楽を見た。
「いいんだ。側に居られるなら」
「君を見てると、自分が酷く意気地なしに思えるよ」
「……俺は、お前みたいに器用じゃないだけだ」
「まあ、嫌な事から逃げるのは得意なんだ」
「…俺はお前が羨ましいよ」
「お互い様さ」
二人は苦笑いをしあって、酒を酌み交わし、一気に飲んだ。
男の親友は特別だ、と互いに感じていた。千草が特別ではない訳ではないが、同性としてあらゆる事を共感しあえるのは有り難かった。
「頑張れよ、親友」
「ああ……ありがとな」