親友の好きな人(京楽 浮竹)
15.浮竹十四郎にも思春期はある
千草が現世に行って数週間後、浮竹はある女性から食事に誘われた。仕事にも真面目で、人に気を使える女性だった。
浮竹は誘いを了承し、夜に二人で出かけた。
浮竹は決して上の空だった訳ではない。
きちんとエスコートしたし、会話も弾んだ。この人なら、好きになれるんじゃないかと思えた。
しかし、別れ際に彼女はとんでもない事を口にした。
「ねえ……私は誰の代わりだったの?」
「えっ……?」
不意を突かれた浮竹は、言葉が出ず、聞き返してしまった。
「とぼけないで。私を、誰かと比べていたでしょう」
「そんな事は………」
彼女は冷めた目で浮竹を見て、ため息をついた。
「……まあいいわ。今日はありがとう。楽しかった。いい思い出になったし」
次は無いと言われているのが、ハッキリ分かった。浮竹はなんと声をかけるべきか悩んだが、別れの挨拶しかできなかった。
「……こちらこそ、ありがとう。気をつけて……」
彼女は眉を下げて笑い、踵を返すと、スタスタと歩いて行った。
次の日彼女に会っても、別段変わりはなく、普通に接してくれた。
「女の人って、怖いな………」
ある夜居酒屋で、浮竹は隣の京楽に呟いた。真剣な表情でお猪口を見つめる浮竹を見て、京楽は不思議に思った。
「何があった?」
「……考えてる事を……いや、こっちは意識してなった事を言い当てて来ないか?」
「女の勘が働くのは、惚れた腫れたの時だけだよ」
京楽がニヤけて言うと、浮竹は顔を赤らめて、背中を丸めた。それを見て、京楽は更にニヤニヤした。
「……千草が手に入らなかったからって、代わりをつくろうとした?」
「なっ!!!何を言って……」
「…ねえ、もう隠すのやめよ。お互いに」
京楽の目が、途端に憂いを帯びた。
「………京楽……?」
浮竹が京楽をじっと見ると、京楽は困ったように笑い、酒を一気に流し込んだ。
「僕あ、好きだったよ、千草の事。最初は、単純に綺麗だったからだけど、本気になった」
京楽は、いつに無く真剣な表情で話した。
「でも……彼女の残酷さに耐えられなかった」
残酷さと聞いて、浮竹はなんとなく分かるような気がした。
千草は、こちらの気持ちを知っても、おそらく離れていかない。離れていかないのに、気持ちを受け入れる訳でも、他に男をつくる事もしない。
それが浮竹達にとって、どれだけ残酷な事かも、考えもしないだろう。
「……浮竹がやったのは、僕も通った道さ。否定はしないよ。でも、向き不向きって、あると思うよ」
京楽の事は気づいていた。だが改めて本人から聞くと、共感しすぎて辛くなった。
「……さあ、僕は全部言った。次は君の番だ」
京楽は、浮竹のお猪口に酒をナミナミに注いだ。
京楽は一つだけ言っていない事があるが、黙っていた。愛した人との約束は破れない。
浮竹も酒を一気に飲み干すと、お猪口を叩きつけるように机に置いた。
「……俺も……学生の頃から、好きだった……」
「うん、知ってた」
「兄を亡くした京楽と、親を亡くした千草が分かり合っているのを、不謹慎にも羨ましく感じてた……」
「あれは僕も、優越感感じてた」
「なっ!!??」
「だって仕方ないじゃないか」
京楽の眉が下がった。
「千草の信頼を得ていたのは、君だ。僕にもオイシイ所があってもいいじゃないか」
浮竹は何も言えなくなり、手酌をしてまた一気に飲んで、机に突っ伏した。
「……馬鹿だな。俺達……」
「恋なんて、馬鹿にならないとできないよ。特にあんな女には、ね」
京楽は、浮竹と自分のお猪口に酒を注ぎ、どんどん飲ませ、自分もどんどん飲んだ。
口から出るのは、千草の好きな所ばかり。二人は酒の力を借りて、本能の赴くままに言いたい事を言い合った。
「大体!なんだあの目!!大きすぎるだろ!!」
目が座っている浮竹が、徳利に向かって叫んだ。
「そうら!まつげ長過ぎるぞ!!見入っちゃうじゃらいか!!!」
京楽も呂律の回らない口で叫ぶ。
「肌が白い!!!」
「唇がエロい!!!」
「抱きしめたい!!」
「むしろ寝たい!!!」
浮竹はさすがにそれは言えず、呆れた顔で京楽を見た。京楽は自分を抱きしめながら、畳の上をゴロゴロ転がった。
「抱きたいよー!!脱がしたいよー!!!やらしい事したいよー!!!!」
「き、きょ、京楽……!!!!」
焦った浮竹が京楽を止めると、京楽は寝転がったままボンヤリと空中を見つめた。
「……浮竹はすごいなあ」
「何が?」
「我慢、よくできるよね。僕、他の子抱かないと、無理」
「なっ……」
浮竹は一瞬焦ったが、顔を真っ赤にして、口元を隠した。
「……お前みたいに、器用じゃないだけだ……」
「あ、そっ」
京楽は体を起こして、浮竹と目線を合わせた。
「親友が、聖人君子じゃなくて安心した」
「俺がそんな訳あるか」
「だよねえ」
「なんだそれ」
二人は目が合うと笑いあった。
「京楽」
「ん?」
「こっからは、恨みっこなしな」
「なーに言ってんの」
「なに?」
「言ったでしょ。僕は耐えれないって。君がまだ頑張るなら応援するよ」
「京楽………」
「ま、頑張れ」
「………いつから、そのつもりだった?」
「……なんの事やら……」
千草が現世に行って数週間後、浮竹はある女性から食事に誘われた。仕事にも真面目で、人に気を使える女性だった。
浮竹は誘いを了承し、夜に二人で出かけた。
浮竹は決して上の空だった訳ではない。
きちんとエスコートしたし、会話も弾んだ。この人なら、好きになれるんじゃないかと思えた。
しかし、別れ際に彼女はとんでもない事を口にした。
「ねえ……私は誰の代わりだったの?」
「えっ……?」
不意を突かれた浮竹は、言葉が出ず、聞き返してしまった。
「とぼけないで。私を、誰かと比べていたでしょう」
「そんな事は………」
彼女は冷めた目で浮竹を見て、ため息をついた。
「……まあいいわ。今日はありがとう。楽しかった。いい思い出になったし」
次は無いと言われているのが、ハッキリ分かった。浮竹はなんと声をかけるべきか悩んだが、別れの挨拶しかできなかった。
「……こちらこそ、ありがとう。気をつけて……」
彼女は眉を下げて笑い、踵を返すと、スタスタと歩いて行った。
次の日彼女に会っても、別段変わりはなく、普通に接してくれた。
「女の人って、怖いな………」
ある夜居酒屋で、浮竹は隣の京楽に呟いた。真剣な表情でお猪口を見つめる浮竹を見て、京楽は不思議に思った。
「何があった?」
「……考えてる事を……いや、こっちは意識してなった事を言い当てて来ないか?」
「女の勘が働くのは、惚れた腫れたの時だけだよ」
京楽がニヤけて言うと、浮竹は顔を赤らめて、背中を丸めた。それを見て、京楽は更にニヤニヤした。
「……千草が手に入らなかったからって、代わりをつくろうとした?」
「なっ!!!何を言って……」
「…ねえ、もう隠すのやめよ。お互いに」
京楽の目が、途端に憂いを帯びた。
「………京楽……?」
浮竹が京楽をじっと見ると、京楽は困ったように笑い、酒を一気に流し込んだ。
「僕あ、好きだったよ、千草の事。最初は、単純に綺麗だったからだけど、本気になった」
京楽は、いつに無く真剣な表情で話した。
「でも……彼女の残酷さに耐えられなかった」
残酷さと聞いて、浮竹はなんとなく分かるような気がした。
千草は、こちらの気持ちを知っても、おそらく離れていかない。離れていかないのに、気持ちを受け入れる訳でも、他に男をつくる事もしない。
それが浮竹達にとって、どれだけ残酷な事かも、考えもしないだろう。
「……浮竹がやったのは、僕も通った道さ。否定はしないよ。でも、向き不向きって、あると思うよ」
京楽の事は気づいていた。だが改めて本人から聞くと、共感しすぎて辛くなった。
「……さあ、僕は全部言った。次は君の番だ」
京楽は、浮竹のお猪口に酒をナミナミに注いだ。
京楽は一つだけ言っていない事があるが、黙っていた。愛した人との約束は破れない。
浮竹も酒を一気に飲み干すと、お猪口を叩きつけるように机に置いた。
「……俺も……学生の頃から、好きだった……」
「うん、知ってた」
「兄を亡くした京楽と、親を亡くした千草が分かり合っているのを、不謹慎にも羨ましく感じてた……」
「あれは僕も、優越感感じてた」
「なっ!!??」
「だって仕方ないじゃないか」
京楽の眉が下がった。
「千草の信頼を得ていたのは、君だ。僕にもオイシイ所があってもいいじゃないか」
浮竹は何も言えなくなり、手酌をしてまた一気に飲んで、机に突っ伏した。
「……馬鹿だな。俺達……」
「恋なんて、馬鹿にならないとできないよ。特にあんな女には、ね」
京楽は、浮竹と自分のお猪口に酒を注ぎ、どんどん飲ませ、自分もどんどん飲んだ。
口から出るのは、千草の好きな所ばかり。二人は酒の力を借りて、本能の赴くままに言いたい事を言い合った。
「大体!なんだあの目!!大きすぎるだろ!!」
目が座っている浮竹が、徳利に向かって叫んだ。
「そうら!まつげ長過ぎるぞ!!見入っちゃうじゃらいか!!!」
京楽も呂律の回らない口で叫ぶ。
「肌が白い!!!」
「唇がエロい!!!」
「抱きしめたい!!」
「むしろ寝たい!!!」
浮竹はさすがにそれは言えず、呆れた顔で京楽を見た。京楽は自分を抱きしめながら、畳の上をゴロゴロ転がった。
「抱きたいよー!!脱がしたいよー!!!やらしい事したいよー!!!!」
「き、きょ、京楽……!!!!」
焦った浮竹が京楽を止めると、京楽は寝転がったままボンヤリと空中を見つめた。
「……浮竹はすごいなあ」
「何が?」
「我慢、よくできるよね。僕、他の子抱かないと、無理」
「なっ……」
浮竹は一瞬焦ったが、顔を真っ赤にして、口元を隠した。
「……お前みたいに、器用じゃないだけだ……」
「あ、そっ」
京楽は体を起こして、浮竹と目線を合わせた。
「親友が、聖人君子じゃなくて安心した」
「俺がそんな訳あるか」
「だよねえ」
「なんだそれ」
二人は目が合うと笑いあった。
「京楽」
「ん?」
「こっからは、恨みっこなしな」
「なーに言ってんの」
「なに?」
「言ったでしょ。僕は耐えれないって。君がまだ頑張るなら応援するよ」
「京楽………」
「ま、頑張れ」
「………いつから、そのつもりだった?」
「……なんの事やら……」