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親友の好きな人(京楽 浮竹)

11.お風呂

 精霊艇に戻ると、浮竹と京楽は温泉に放り込まれた。
「数雄、数ヒロ」
麒麟寺が呼ぶと、二人の大男が浮竹と京楽の服をひん剥いた。
「わっ!!!ちょ!!!」
「わー!!!待って待って!!何すんの!!!!」
麒麟寺は、浮竹と京楽の頭に手ぬぐいを乗せると、頭を押さえて無理矢理湯に浸からせた。
「しばらくここで反省会してろ」
麒麟寺はそう言い残して、大男二人を引き連れて出て行った。風呂場に、浮竹と京楽二人きりになった。
 
 浮竹と京楽はしばらく黙っていた。お互いに聞きたい事、言いたい事があったが、話し出すきっかけが無かった。
 浮竹がふと体を見ると、知らないうちに傷が治っていた。
「傷が……」
浮竹の声に気づいた京楽が浮竹を見ると、お互いに目が合った。
 「…………何で一人で残ろうとしたのさ」
京楽は浮竹を見据えて、無表情で聞いた。浮竹も、笑わない。
「そっちだって」
「僕は仕返しさ。君に蹴られた肩が痛むよ」
「もう治ってるだろ」
「気持ちの話さ」
「……悪かったよ」
「謝罪が欲しいんじゃないんだよねぇ」
二人は睨み合うように見つめ合い、腹のうちを探りあった。
 京楽が聞き出そうとしている事は分かる。だが、言う訳にはいかない。隠すと決めたのだ。
「……京楽」
「何?」
「お前……千草が好きだろ」
浮竹は逆に京楽を問い詰めたが、京楽は表情を変えなかった。
「好きだよ?女の子は皆好きさ」
「そうじゃなくて」
「何?勝手にそう思い込んで、あんな無理矢理助けるような真似したの?独りよがりだよ、お節介だ」
京楽の言葉に苛立ちが籠もってきた。浮竹もイライラし始めた。
「そっちだろお節介は!!何だあの回し蹴り!!!」
「君が最初に手を出して来たじゃないか!!!」
二人は立ち上がり、肩を怒らせて睨み合った。
「お前はさっさと帰れば良かったんだ!!!」
「助けてあげたのにその言い方はなんだよ!!!」
「頼んでない!!!」
「傲慢だ!!!」
「3人で帰れば良かったと思うわ」
いる筈の無い声が聞こえてハッと横を見ると、湯船の側に千草が立っていた。
「千草……!!!!?!????」
「ちょちょちょ!!!!ココ男湯じゃ!!!!」
二人は焦って湯船に沈み、手ぬぐいで前を隠した。千草は平然とした顔で、二人の顔を交互に見た。
「麒麟寺先生が、反省会して来いって言ったから来たの。ちなみにここは混浴よ」
動揺して声が出ない浮竹と京楽を尻目に、千草は淡々と説明した。
 二人は湯船に肩までつかり、前傾姿勢になって千草に背を向けた。
「いいの?手ぬぐいを頭に乗せてないと、頭から霊力が抜けて死んじゃうって麒麟寺先生が言ってたわよ?」
二人は慌てて手ぬぐいを頭に乗せた。
「……ねえ、浮竹君も京楽君も、何で逃げなかったの?逃げれたでしょ?」
千草が二人の背中に問いかけた。浮竹も京楽も答えられず、黙っていた。
「……私だけ、仲間はずれだったわ」
「それは違う!!!」
悲しそうな千草の声に、浮竹が思わず振り返り、反応した。
「仲間はずれにするつもりなんて無い!!ただ………」
君を守りたかったから、何て、言える訳がない……。
「逃げれないんだよ。僕達、男の子だから」
言葉に詰まった浮竹を察して、京楽が助け舟を出した。浮竹は思わず京楽を見た。千草は納得いかないように、顔をしかめていた。
「何それ……面子の話?」
「そうだよ」
京楽は飄々とした態度で千草に言った。千草は顎を上げて、二人を見下した。
「面子の為に死ぬの?バカなの?」
「……千草…俺は……俺達は……」
浮竹が弁解しようとした時、千草がザブン、と湯船に入ってきた。
「!!!!???」
二人は狼狽えながら、千草を見つめた。
 千草は湯船の中を進むと、しゃがんで浮竹と京楽の首に腕を回した。
「かっこ悪くていいから生きてて!!!」
二人を抱きしめる腕に力が入り、浮竹も京楽も言葉を失った。
「私を……一人にしないでよ………」
絞り出すような声を発して、千草は泣き出した。男二人はただ後悔をした。
「悪かった、千草。俺が馬鹿だった」
「そうだよ浮竹。君があんな馬鹿しなかったら、僕も怪我せずに済んだのに」
「……ぐっ!……」
千草はようやく腕を離して、涙を拭った。だが、湯に濡れた手で顔を触れば、余計に濡れるだけだった。
「千草…そろそろ離れないか?俺達、ほら……裸だし……」
前かがみになりながら、浮竹が諭すが、千草は動かなかった。
「別にいいじゃない。減るものじゃないし」
「あのなあ……」
「じゃあ千草も一緒に入るかい?混浴だし」
京楽がふざけて千草を誘うと、千草は制服の合わせに手をかけた。
「それもいいわね………」
予想外の反応に二人が狼狽え、千草を凝視すると、千草は二人をじっと見て手を離した。
「冗談よ」
ポカンとする二人を無視して、千草は湯船から上がり、二人を見おろした。
「私を仲間はずれにしたから、からかったのよ。残念だったわね」
千草はペタペタと歩き、出口でまた振り向いて二人を見た。
「スケベ」
取り残された男二人は、開いた口が塞がらなかった。
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