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親友の好きな人(京楽 浮竹)

10.虚討伐

 浮竹は冷静だった。
 恋心を自覚しても、決して表には出さず、親友として千草に接した。
 千草の側にいられれば、それで満足だと、自分を納得させた。

 ある日、3人1組で現世に虚討伐の演習に行く事になった。
 現世はちょうど戦乱の時代で、浮遊する魂魄が多い分、虚も出現しやすくなっていた。
 浮竹、京楽、千草は指定された地点に赴き、虚を探した。
 戦場跡地らしく、人の骨や錆びれた甲冑がいたる所に転がり、大量の烏が頭上を飛んでいた。
「早く終わらして、帰りたいねえ。現世は辛気臭くて苦手だよ、まったく…」
頭の後ろで手を組みながら、京楽が呑気な事を言っていると、京楽の前を歩いていた千草が振り向いて、京楽の顔をじっと見た。
「何?男前の顔を見たくなった?」
笑う京楽を無視して、千草は京楽の後ろを指さした。
「……空が、割れてる……」
千草の言葉に、京楽と浮竹がそちらを向くと、雲が渦を巻き、空の割れ目に吸い込まれていた。
 3人は、教本であの空の割れ目を見たことがあった。巨大虚や、メノスが出てくる時の割れ目だ。
「危険だわ。浮竹君、元柳斎先生に連絡して」
千草は後ろの浮竹にそう言うと、斬魄刀を抜いた。浮竹は、連れていた地獄蝶を放った。その時、空の割れ目が開き始めた。
「気韻静動、瑠璃色の筆先、諸法無我、我が心を現せ……沙羅双樹」
千草の刀が筆に変わった。千草はそれを大きく振りかぶった。
「胡粉の霞」
筆を振ると、辺り一面が白い霧に覆われ、視界が遮られた。
「千草の能力は守備向きでいいねえ。無闇に戦う必要がなくなるから」
「笑ってないで一回帰るわよ」
「しっ!静かに!」
京楽と千草のやり取りを、浮竹が遮った。二人が静かにすると、鋭い目つきで霧の向こうを見た。
「…こっちを伺ってる…」
浮竹が二人の前に立ちながら、虚の霊圧を探った。巨大な霊圧が、いくつも漂っているのが分かった。今の3人では、到底敵う数ではない。だが、セイカイ門を出せば気づかれてしまう…。
 息を殺して策を巡らせていると、突然突風が吹き、霧が散らされ、3人の姿が露わになった。空には、何十もの虚が漂っていた。
「まずい!!!」
浮竹は咄嗟に門を出すと、千草の手を乱暴に掴み、京楽に向かってぶん投げた。
 京楽は千草を抱き止め、驚いて浮竹を見たが、目の前には浮竹の足の裏があった。
「うきた………!!!」
京楽が名前を呼ぶよりも早く、浮竹が京楽の肩を蹴り、門に無理矢理押し込んだ。京楽は千草を抱きかかえたまま、断垓に倒れ込んだ。
「すまん!!!」
浮竹は二人を見ずに、空の虚の大群を見上げたまま叫び、門を閉めようとしたが、閉まらなかった。
「オイオイ。一人だけカッコつけようだなんて、ズルいじゃないか」
京楽は、扉の隙間に体をねじ込みすり抜けると、鍵を閉めた。門の向こうで、千草が扉を叩き、浮竹と京楽の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「京楽……」
「後で一緒に怒られようか」
京楽はそう言うと、空の虚達に向かって斬魄刀を抜いた。浮竹も京楽を見ながら口元で笑い、抜刀した。
「花天狂骨」
「双魚の理」
二人は同時に飛び上がり、刀を振り上げた。

 「浮竹君!!!!!京楽君!!!開けて!!!無理よ!!!」
千草は扉を力の限り叩きながら叫んだが、扉は開かず、手に血が滲むばかりだった。
「何で………!!!!」
扉にすがり付き、唇を噛みしめていると、千草は誰かに肩を掴まれた。

 浮竹と京楽は明らかに劣勢だった。
 門に近づかせないよう、空中で戦っていたが、じわじわと追い込まれていた。二人は肩で息をして、体のあちこちに傷があった。
「このままじゃ…」
「二人共危ないねえ」
虚を見たまま、二人は苦笑いをした。
 その瞬間浮竹の蹴りが京楽に向かったが、すんでの所で止められた。
「二度目は無いさ」
京楽はそう言って、浮竹の首筋に回し蹴りをした。
 地面に激突する浮竹を見下ろしながら、京楽は笑った。
「千草を頼むよ」
浮竹は朦朧とする頭で、京楽の声を聞いた。
 ああ、京楽…やっぱり、お前も………。

「流刀若火」

 突如辺りは熱気に包まれ、浮竹は背中に熱を感じた。
「下がれ、小童」
「オイオイ、カッコつけるなら、もっと強くなってからにしねえか」
浮竹を跨いで、その二人は空中の京楽に向かって言い放った。京楽は下を向いて、目を見開いた。
「山じい、麒麟寺先生……!!」
「どけぇ!!!」
麒麟寺が大きく振りかぶるのを見た京楽は、急いで下に降りた。
「金庇伽!!!!」
京楽の頭スレスレで、麒麟寺の斬撃が虚を蹴散らした。
「京楽君!!!」
地表で浮竹を抱き起こしていた千草が、下に落ちてきた京楽を抱き止めた。
 3人が身を寄せ合って眺めていると、元柳斎と麒麟寺があっという間に虚の大群を片付けた。
「凄い……」
浮竹が息を飲んで呟いた。千草も京楽も声が出なかった。
 虚を片付けた元柳斎と麒麟寺は刀を収めると、浮竹達3人に向き直った。
「あ、ありがとうございました」
ボロボロの浮竹が、地面に手をついたまま礼を述べると、麒麟寺がスタスタと歩いてきて、浮竹に頭突きをした。
「っっっ!!!!????」
浮竹が頭を押さえて地面に倒れると、今度は京楽が殴られた。千草はただ見ている事しかできなかった。
 麒麟寺は浮竹と京楽の胸ぐらを掴むと、顔を近づけて睨みつけた。
「何調子乗った事してんだテメエら」
「やめんか」
元柳斎の拳骨が麒麟寺の脳天に直撃した。
「痛えなチクショー!!!!」
元柳斎は浮竹と京楽を厳しい目つきで見下ろした。
「傷が癒えたら、正座じゃ」
元柳斎はそう言って、セイカイ門に入って行った。頭を擦っていた麒麟寺は、浮竹と京楽を肩に担ぐと、元柳斎の後に続いた。千草は後からトコトコついて来た。
 
 「あの可愛子ちゃんにいいトコ見せようたって、こんなヤられたらダセえだけだぞ」
帰り道、麒麟寺がボソリと呟いて、浮竹と京楽を項垂れさせた。
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