雨上がりのパレード
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紗雨が事務所を出て電車に乗り込み向かった先は、顔も知らぬ実父が眠る墓地だった。
実は彼女は、隠神と顔合わせをした翌日に『父の墓がある場所を探して欲しい』と依頼していたのだ。
(ようやく、墓参りできた……待たせて、ごめん……今日は父さんの、命日、だもんね……)
父親の命日については、祖母が紗雨の母親から伝え聞いていたため知ってはいたが、肝心の場所が分からずずっと墓参りが出来ずにいた。
「ねぇ……父さんは、母さんと……どうやって、出逢った……?」
答えなど返ってこないことは百も承知で、紗雨は父の墓標に問いかける。
しばらく木の葉を揺らす風の音を感じるくらいの沈黙が流れたが、紗雨は小さく溜め息を吐いて立ち上がった。
「……そろそろ戻る……また来るね」
そう言って墓地をあとにした紗雨は、予約していた宿へと向かうのだった。
「あれっ」
「…………え?」
風呂から上がって部屋に戻ろうとした紗雨は、偶然にも廊下で隠神と鉢合わせる。
「なんだ、お前もここ予約してたのか。まぁ親父さんの墓地から近いし、予想はしてたが」
「隠神さんは……どうして、ここに……?」
「ああ、実は……親のこと聞く決心がついたからって織に頼まれて連れてきたんだ。あいつの叔父さんがこの辺に住んでるからな」
晶と夏羽も一緒なんだが、と付け足しながら隠神は表情を曇らせた。
「あれは、何かあるな……」
「…………何か……?」
「おっと、悪い。独り言だ。あ〜、そういえばさっき野火丸と一緒に夏羽たちが『蛍を見に行く』とか言って外に出てったが、お前も行ってきたらどうだ?」
「蛍……見たい。……じゃあ、お言葉に甘えて」
行ってきます、と軽く頭を下げてから夏羽たちを追いかけるように外に出ていった紗雨を見送り、隠神もとある場所に向かうため外に出るのだった。
──ガサッ
「ひゃあっ!?だ、誰ぇ!?」
「……晶、驚きすぎ」
「えっ、あ……紗雨さん!?ビックリした~」
ホッと安堵の溜め息を吐く晶を余所に、紗雨は辺りを見渡すが、他の三人が見当たらないことに首を傾げる。
「晶、織と夏羽は……?野火丸もいないけど……」
「!!そうだ、聞いてよ紗雨さん!皆ひどいんだよ!?ボクだけ置いてどこかに行っちゃって!」
移動するなら声かけてって話だよー!と大声で文句を言う晶に、紗雨は「とりあえず探そう」と言って自分たちも移動を始めた。
それから森に入り何度も道に迷いながら、ようやく織や夏羽たちを見つけた時には隠神と織の叔父である昭夫もおり、何やらただ事ではない雰囲気を感じた紗雨は声をかけるのを躊躇い足を止める。
が、そんな事はお構いなしに「あーー!」と晶が大声を上げ織たちにあれこれ文句を捲し立てた後、その場に崩れ落ち泣き出してしまった──その時だった。
「っ、二人とも伏せろ!!」
「え?」
「!」
隠神の怒号に反応し、晶を庇うように紗雨が覆い被さると同時に銃声が響く。
森に住む怪物が一体、背後から二人を襲おうとしていたのだ。
「、まだ動いてます!」
「……っ!」
今度は夏羽の声に反応して紗雨が右手を翳すと、一瞬でその怪物は氷漬けになる。
「ナイスだ、紗雨!その調子で晶を頼む!」
「……了解。晶、立てる……?」
「う、うん……ごめんね、ありがとう紗雨さ──っ、後ろ!」
「え……」
「紗雨!!」
もう一体の怪物が背を向けた紗雨に襲いかかった瞬間、隠神が身を呈して二人を庇い腕に傷を負ってしまった。
「くっ……」
「っ!隠神さん、傷……!」
「大丈夫だ、大した事はない。それより、お前ら無事か」
その問いかけに頷く二人を見て、隠神は一つ安堵の息を吐く。
そしてもう一度、得意とする銃を出そうと構えるが、傷を負ったせいか上手くいかない。
「……!隠神さん、腕が紫に……これは、毒!?」
「ちっ、やっぱりか……」
「私の氷で、止血する……?」
「ああ、頼む」
「待って!ボクにやらせて!──えいっ」
少しでも役に立ちたい一心か、隠神と紗雨の会話を聞いていた晶が名乗り出て氷で止血するが、腕どころか首元まで凍らせてしまった。
「わあ、ごめんなさーい!」
「あ〜……うん、紗雨。あとで改めて頼むわ」
「分かった……」
森に住む異形の怪物たちは、まだ数が減らずジリジリと隠神たちに迫ってくる。
(隠神さんは、毒で銃が出せない……晶は、戦闘に不向き……こうなったら、私が……!)
そう思い前に出た紗雨が怪物たちに向け両手を翳そうとすると、ダメよ、と制する声がして一人の少女が現れた。
2023.07.22
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