雨上がりのパレード
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夏羽が加わり大所帯になりつつある隠神探偵事務所では、怪物が関わるものならばどんな依頼も受けるのがモットーだ。
例えば、大量発生した蟲の駆除や暴徒化した蛙の処分など多種多様なものがあるのだが。
(これは、一体……どういう状況……?)
紗雨は今日、当番だったため夏羽と共に事務所の掃除をしていた──はずだった。
しかし、その途中で急に段ボールが積まれた廊下の奥のドアが開き二人まとめて部屋の中に引っ張り込まれたのだ。
(……暗い部屋……明かりは、パソコンの画面だけ……)
そのパソコンの前に陣取り夏羽にあれこれ命令している細身の男を、紗雨は不審に思いながら眺める。
(さっきから、偉そう……何様……?)
じっと見すぎていたのか、不意に細身の男が「そこの女」と紗雨に言葉の矛先を向けてきた。
「先程から私のことを不審な眼で見ているが、言いたいことがあるならハッキリと言え」
「…………別に」
紗雨が短くそう言うのと同時に、ガチャッとドアが開いたことで光が差し、隠神と織と晶の三人が入ってくる。
「はあぁ〜……やっぱりか……」
部屋の中の状況確認をした隠神は盛大に溜め息を吐いたあと顔を上げ、細身の男に向かって口を開いた。
「夏羽を使うな、ミハイ」
「……ほう。貴様、夏羽というのか。ではそこの生意気な女は?」
「え、紗雨さんのこと?」
晶が代わりに答えると、ミハイと呼ばれた男は紗雨を観察するかのようにまじまじと眺め口を開く。
「例の氷像事件の犯人か。まさか隠神が雇っていたとはな」
「あ、やっぱりアレお前の仕業だったのね?」
「……ナンパ、嫌い」
どこか吐き捨てるように返答した紗雨を見て、夏羽が首をかしげた。
「ナンパ……とは?」
その疑問には晶が「男の人が女の子に声をかけることだよ」と簡潔に説明する。
「そうなのか。それだと、紗雨さんは男が嫌いということに……俺たちは平気なのは何故?」
「え、あ〜……」
答えに詰まった晶は、助けを求めるようにチラリと紗雨に視線を向けた。
「私が嫌いなの、人間の男だけ……下心、丸分かりだから……」
「ふん、なるほどな。……ところで貴様ら、いつまで私の部屋に留まっているつもりだ?夏羽とやら以外は出ていって構わんぞ」
その言葉でハッとした織は「夏羽を解放しろ」と返すが、ミハイは腕相撲で勝てたらなと勝負を仕掛けてきた。
そして晶と夏羽も含んで三人で臨んだミハイとの腕相撲勝負は、見事に全敗してしまう。
「ウソだろ……夏羽が負けた……?」
「………………」
華奢な見た目からは想像もつかないミハイの怪力に呆気に取られる織と、力比べで初めて負けたことに驚き呆然とする夏羽。
「さて……紗雨と言ったか。貴様はどうする。勝負するか?」
「……やらない。意味がない」
そう返しながら緩く首を振る紗雨を見て、ミハイは「ほう?」と少しばかり興味を持ったように目を細めた。
「貴様はなかなか賢明なようだな。また勝負がしたければ私の部屋に来るといい。何度やっても結果は同じだろうがな」
そうして半ば追い出されるようにミハイの部屋から出た織たちは、自分たちの部屋に戻り作戦会議を始めるのだった。
それから翌日──隠神は珍しく部屋から出てきたミハイに内心驚かされていた。
「……その腕どうした?腫れてんじゃないの」
「夏羽とやらに折られた。あれは屍鬼の半妖だな。私は不老だが不死ではないぞ」
これではゲームもままならん、と愚痴を溢すミハイは少しばかり隠神と会話をしたあと『ある依頼』を織たちに任せる話をする。
隠神は「あいつらにはまだ早い」と反対するが、ミハイに上手く誘導され彼の部屋に閉じ込められてしまった。
「え、隠神さんが?」
「ああ。そろそろ貴様たちに大掛かりな依頼を任せたいと言っていた。それがこれだ」
言ってミハイが織たちに見せたのは、バグバイト電子という会社の調査依頼だった。
「これ、ボクたち四人だけで行くの?」
「あ……ごめん、晶。私、行けない……別の依頼、受けてる……」
「え、そうなの?紗雨さんがいれば心強いと思ったのに、残念……」
「てかずっと思ってたけど、なんで紗雨さんだけ単独が多いんだ?」
夏羽と同時期に入ったのに、と織がどこか不満気に言うと紗雨の代わりにミハイが答える。
「隠神に聞いたが、そいつはかなり優秀なようだな。小さな
「うえっ、マジかよ……負けてらんねぇじゃん!」
「だからこそ、この依頼は貴様たちが解決すべきだと考えた。準備が整い次第、バグバイト電子に向かえ」
「私は、手伝えないけど……みんな、頑張って……」
そうして夏羽と織、そして晶の三人はミハイと紗雨に見送られ、例の怪しげな企業に乗り込むのであった。
2022.05.29
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