1st Anniversary!!
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夢ノ咲学院に転校して半年──そして私がアドニスと正式に付き合うことになってから、数ヶ月が過ぎた。
「アドニス。今日は朔間先輩に『UNDEAD』のプロデュース任されたから、よろしくね」
「そうか、分かった。よろしく頼む」
「うん!頑張る!」
そう言って気合いを入れるように、グッと両の拳を握る。
気合い十分の私は席を立って一緒に教室を出たと同時に、B組から大神くんが出てきたのを見つけたアドニスが声をかける。
「あ?……ンだよ、アドニスと涼じゃねーか。テメーらもこれから防音レッスン室に行くのか?」
「ああ。ちょうどいい、大神も一緒に行かないか」
「断る。俺様は今から職員室まで日誌を持ってかねーといけねぇンだよ。テメーらだけで先行ってろ」
大神くんは面倒くさそうに言って、私たちを追い払うかのように『しっ、しっ』と手首を上下に動かしていた。
「日直なら仕方ないね。アドニス、先に行ってよう」
「そうだな。大神、またあとでな」
そう言って私たちは一旦、大神くんと別れ防音レッスン室に一足先に向かう。
(さっき、アドニスが大神くんを誘ったのって……もしかして私のため?)
私が大神くんのファンであることは、今でも変わらない。
だからアドニスは私と付き合っていても、まだ少し不安になったりしてしまう時があるみたいだった。
(ファンであることと付き合うことは別なのに……私の一番は、アドニスなんだよ?)
心で呼び掛けても届くはずなんてなくて、私はどうにかしてアドニスにそれを分かって欲しいのに。
「……………………」
何もできない自分がもどかしくて、ただ隣を歩くアドニスの横顔を見上げる。
「……涼。お前は、本当にこれで良かったのか?」
「え?『良かったのか』って……?」
「お前が今も大神のファンなのは事実だ。もっと仲良くなりたくはないのか?」
そう聞かれ、もしかしてアドニスは私から身を引こうとしているんじゃないかと思い、焦って彼の腕を掴み口を開いた。
「どうして、そんなこと聞くの?アドニスは、私のこと嫌いになった?」
「、違う。そうじゃない」
「だったら何で!?私、何かアドニスにそんなこと言わせるようなことした?」
これは『怒り』からなのか、それとも『悲しい』からなのか、声が震えているのが自分でも分かる。
それに対してアドニスも、どことなく焦り始めたようだった。
「だから違うと言っている。俺はただ、お前が大神と仲良くなれればと」
「アドニスは私のこと、大神くんに譲る気なの?」
「っ、違」
「もういい!アドニスのバカ!」
そう言って私は背を向け、脇目も振らずに駆け出して……しばらく走ったあと、近くにあった部屋に飛び込み扉を閉めた。
「ふっ、……ぅ……アドニスの、バカ……」
扉に背を預け崩れ落ちるように床に座り込んだ私は、分かってもらえないもどかしさから、涙が溢れて止まらない。
「……なんじゃ?何やら、か弱い嬢ちゃんの泣く声が聞こえるのぅ」
「!?」
不意に聞こえたその独特な口調に顔を上げると、その声の主が棺桶から身を起こし伸びをしているのが視界に入った。
「朔間、先輩……?ってことは、ここ……」
「軽音部の部室じゃよ。それで、嬢ちゃんは何故こんなところで泣いておる。もしやとは思うが、アドニスくんとケンカでもしたかの?」
「っ!」
朔間先輩の的を射たその質問に、私は思わず顔を逸らす──それだけで先輩は「成程な」と、理解したように呟いた。
「アドニスくんも不器用な子じゃ。本来の優しさが、今回ばかりは裏目に出ておるようじゃの」
「朔間先輩。あの、私はどうしたら……」
「そうじゃのぅ……とりあえず、我輩たちの『プロデュース』はキッチリしてもらいたいのじゃが」
そう言われ、私は朔間先輩から『UNDEAD』のプロデュースを頼まれていたことを思い出して、申し訳ない気持ちになる。
(アドニスのことで頭いっぱいだったから、すっかり忘れちゃってた……)
しかもそれで泣いているところを朔間先輩に見られてしまった恥ずかしさも相まって、私は両手で顔を覆った。
「……さて、我輩はそろそろ動くとするかのぅ」
言いながら朔間先輩は棺桶から出ると、床に座り込んでいる私にここにいるように言って軽音部の部室を出ていく。
しばらく経って、バタバタと慌ただしく駆けてくる足音が聞こえてきたと思ったら、バン!と勢いよく扉が開いた。
「っ!」
「……やっと見つけた」
その声に顔を向けると、肩で息をしているアドニスがいて……その額に滲んだ汗を見た私は、それだけで随分探させてしまったのだと理解する。
「アドニス……っ、」
何か言う前に私はアドニスに手を引かれ、服の上からでも分かる逞しい腕の中に閉じ込められた。
「すまない。俺はまた、お前を傷つけてしまったようだ。……大神に話したら、怒鳴られてしまった」
「大神くんが……?」
「ああ。『お前は何を勘違いしているんだ』と……『涼の幸せを考えろ』と言われた。それと……」
そう言ってアドニスが続けようとした言葉は、どうしてか彼の口から聞くことは叶わなかった。
だけど、聞かなくても分かった──アドニスの私を抱きしめる腕に、少し力が入ったから。
(もしかして大神くん、アドニスに発破を掛けてくれたのかな。『テメーが俺様にアイツを譲る気なら遠慮なくぶん取るぜ?』とか何とか言って)
もしそうなら今の状況はその答えなんだと、そう思っていたら、不意にアドニスがまた口を開いた。
「涼。俺は決めた」
「決めたって……何を?」
そう聞くとアドニスは少しだけ体を離し、真っ直ぐに私の目を見て言葉を紡ぐ。
「……何があっても、お前だけは絶対に誰にも渡さない。その覚悟だ」
「っ!……遅いよ、バカ」
「む。涼も人のことは言えないだろう。お前を探すために散々走り回ったんだからな。その中で朔間先輩に会えたのは幸運だった」
「そうだったんだ……あっ!プロデュース頼まれてたんだ、早く行かなきゃ!」
言って私は慌ててアドニスから離れ防音レッスン室に向かおうとしたら、パシッと手を掴まれた。
「え、アドニス?」
「また逃げられたら困るからな。繋いでおきたいのだが……嫌だろうか」
「~~っ!」
アドニスの言葉に私は一気に顔が熱くなっていくのを感じながらも、ぶんぶんと首を横に振って嫌じゃないと答える。
そうしたらアドニスは、フッと小さく息を吐いて「そうか」と、嬉しそうに柔らかい微笑を浮かべていた──。
I want you nearby
(私の隣にはずっと、あなたがいて欲しいから)
2019.03.26
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