雨上がりのパレード
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今から15年前──吹雪に覆われた雪の里の領地に、人間の男が迷い込んだ事があった。
狩りに出ていた
それは何故かと問われれば、答えは簡単……彼女は『いつか里を出たい』と常に思っていて、そのために彼を利用しようと考えたのだ。
「あの……」
「……気安く話しかけるのは止めなさい、人間」
「その呼び方は一体、何なんでしょうか……あなたも人間、ですよね?」
「……私をあなた達のような下等生物と一緒にしないで。人間ではないから。私は雪女子という怪物……あなた達の世界で言うところの『あやかし』よ」
雪女子が自身の正体を明かしても、青年は「はぁ……」とさして驚いた様子もなく話を続ける。
「雪女子というのは種族の名称ですよね。あなたのお名前は何なんです?あ、僕は──」
にこやかに名乗った青年に多少面食らいながらも、私は……と雪女子は呟くように自分の名を口にした。
それからというもの、雪女子は頃合いを見計らって秘密小屋へ赴いては青年から外の世界の話を聞かせてもらうという生活を送っていた──のだが。
「貴様、人間の男を匿っているそうだな」
「……何を言っているの。確証もなく訊ねるのは
「ふん、貴様とは幼い頃からの付き合いだ。確証など無くとも何かを隠していることくらい分かる。微かだが貴様から人間の気配がするからな」
「ふふっ、そう……なら、どうするつもり?私もろとも、その人間を追放する?」
まるで「待ってました」と言わんばかりの幼馴染みの態度に氷雨は、どこか呆れたように深い溜め息を吐く。
「…………貴様、人間との子を腹に宿しているだろう。長ももう永くないとはいえ、人間の男となど……あってはならぬことだ。……私の言いたいことは分かるな?」
「ええ。理解はしているわ。けれど、この子に罪はないの。私の言いたいことも分かってくれるわよね、氷雨」
「ふん……貴様は里の掟を破ったのだ。何処へなりとも消えるがいい。ただし……」
逃げ切れればの話だが、な──そう言い残し去っていった氷雨の背を見送った雪女子は、一抹の不安を覚え秘密小屋へと駆け出した。
だがそこに青年の姿はなく、床に散らばった彼の荷物と……そこかしこに飛び散った真っ赤な痕があるだけ。
「──っ!!う、そ……っ、」
あまりに悲惨な光景を目にし、雪女子はその場に崩れ落ち身を丸める。
「ぅ、あ…………あぁああぁぁあ!!」
最初はただ、里を抜けるために利用しようとしていただけだった。
けれど、いつの間にか子を成すほど愛するようになった彼の死を受け入れられず泣き叫んだ雪女子の
それから時は経ち、東京──夜の繁華街・路地裏にて。
「おっ、かわいい子発見〜♪ねぇ君、こんな暗いところで何してるの?てか一人?俺らと遊ばない?」
「………………」
「おいおい、だんまりかよ。クールだねぇ~」
「……
少女が静かに呟き手を翳した瞬間、ビュオォッ!と吹雪が男たちに襲い掛かり辺り一面が一瞬で氷漬けになる。
その男たちには目もくれず、少女は再び夜闇の中へと消えていくのであった。
2022.05.01
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