怪物事変
名前変換
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隠神さんに指名され一人で行ってきた任務からの帰り道、私は急な雨に足止めされ頭を悩ませていた。
(はぁ~……何とか濡れずには済んだけど、しばらく止みそうにないなぁ……どうしよう)
今日の食事当番は私で、買い出しも兼ねて寄り道したのが
「みんな楽しみにしてくれてるから早く帰りたいのに……」
ポツリとそう呟いた瞬間スマホの着信音がカバンの中から聞こえて、私はすぐに応答する──掛けてきた相手が隠神さんだったからだ。
「お疲れ様です」
『おー、お疲れ。任務は終わったみたいだな』
「あ、はい。でも今すごい雨が降ってて……傘を持ってきてなかったから帰るに帰れず……近くのカフェで雨宿り中です」
『だと思ったよ。じゃあ車で迎えに行ってやるから、店の名前を教えてくれ』
そう言われ、私がお店の名前を告げると隠神さんは「了解。すぐに行くから待ってろ」と言って電話を切った。
隠神さんが迎えに来てくれる……それだけでついニヤけてしまう。
(でも、織くんや夏羽くんたちも一緒っていう
ぶんぶん!と雑念を払うように頭を振って、入ってすぐに注文したコーヒーを静かに啜る。
しばらくして、カラン、とカフェの扉についたベルが鳴り私は顔を上げた。
「えーと?……おっ、いたいた」
そう言いながらお店の中を見渡し入ってきた隠神さんが一人なのを見て、私は思わず席から立ち上がる。
「あ、あのっ、隠神さん一人だけですか?」
「ん?ああ、織たちも一緒だと思ったのか?さすがにあいつらは事務所で待機させてるぞ?」
まぁ座んなさいよ、と隠神さんは私にもう一度着席するように言って、自分もテーブルを挟んだ向かい側に座った。
「……げ。ここ禁煙席かよ……ま、仕方ないか。紗雨は成人してるけどタバコ吸わないもんねぇ」
「あ……す、すみません……」
「いやいや、謝らなくていいからね?人間なんだから健康第一は当たり前なんだろうし」
そう言ってから隠神さんは店員さんを呼ぶと、コーヒー1つ、と手早く注文を済ませる。
「それにしても……来る時も思ったけど、ホントすごい雨だな」
と、窓の外で未だ降り止まない雨を頬杖をついて眺めながら、隠神さんは独り言のように口にした。
「天気予報では『雨が降る』なんて言ってなかったはずなんですけどね……通り雨かな?」
「ま、いいんじゃないか?たまにはこうやってカフェでのんびり過ごすってのも悪くはないだろ」
「隠神さん……そうですね」
最近まで仕事に追われ『てんてこ舞い』だったからか、久しぶりにオフモードの隠神さんを見ていたら、焦っていた気持ちが不思議と落ち着いた。
そして隠神さんが注文したコーヒーが運ばれて来ると、淹れたての香ばしい匂いが再び私の鼻孔をくすぐる。
「ん~……やっぱいい香り……」
「紗雨はホントにコーヒーの匂い好きだよねぇ……」
「はっ!す、すみません……つい……」
「いいっていいって。事務所でもコーヒーしか飲まないのは知ってるし」
それに……と隠神さんはそこで一度、言葉を切ってコーヒーを一口飲むと再び口を開いた。
「これと同じ匂いがすると、紗雨が来たってすぐに分かって事務所が華やぐしねぇ」
「あ……ありがとうございます……」
「礼を言うのはこっちだ。あんな男所帯で嫌な顔ひとつせず働いてくれてサンキューな」
「い、いえ……」
隠神さんに褒めてもらった上にお礼まで言われて照れくさくなってしまった私は、窓の方に顔を向ける。
「あ……雨が……」
「ん?……おっ、止んだみたいだな。じゃあ、そろそろ帰るか。あいつらも腹ペコだろうし……あ、コーヒーは俺の奢りな」
「えっ……!?」
「今日の仕事のご褒美ってことで」
そう言って隠神さんは、有無を言わさず二人分のコーヒー代を支払ってくれた。
それから隠神さんのちょっとレトロな車に乗り込み一緒に事務所に帰った私は、夕飯の間もそれが終わってからも、今度は晶くんからの質問攻めに頭を悩ますことになるのだった……。
雨の日コーヒーブレイク
(ゆったりした二人の時間も、悪くないね)
2021.03.22
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