愛すべきおバカに5題
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期末テストが終わって部活も再開したけれど、その直前に訳も分からず日向くんに拒絶されたことにショックを受けた私は、一人で帰路についていた。
「はぁ……」
いつになく自分の足が重いような気がして、真っ直ぐ家に帰る気力も徐々に削れてきたから、テキトーな場所を見つけて腰を下ろす。
何気なく空を見上げると、茜色に染まった太陽がゆっくりと沈んでいくのが見えた。
「……何を期待してたんだろ、私」
ふ、と冷静になり客観的に自分を見据えた瞬間、なんだかバカみたいに思えて自嘲気味に笑う。
「私ってば、バカじゃないの?」
「凛さんはバカじゃないじゃん!」
「!?」
不意に聞こえた言葉に驚いて振り向くと、走ってきたのか、肩で息をしている日向くんがいた。
「日向くん……え、なんで?まだ部活やってる時間じゃ……」
「月島に聞いて連れ戻しに来ました!あとキャプテンから許可はもらってます!」
何故か敬語でそう言って謎の敬礼までした日向くんに、私はポカンとする他なかった。
「あー、えーと……別に連れ戻しに来なくても良かったんだけど。休むって言ったでしょ?」
「それはダメ!凛さんに今日の部活休まれたら、おれが困るんだってば!」
「え?」
日向くんの言葉に私は、どういう意味だろう、と思い首をかしげる。
「とにかく戻って!早く早く!」
そう言って日向くんが腕を掴んで引っ張るものだから、私は一緒になって走らざるを得なかった。
そして学校に戻ると、そのまま体育館に行くのかと思ったけど……何故か日向くんはスルーして部室棟に向かう。
(何かあるの……?)
不思議に思いながらも同行していると、日向くんは扉の前で立ち止まった。
「ちょっと待ってて!着替えてくる!」
「う、うん……分かった」
そうして日向くんが部室に入っていったのを見届けた私は、柵にもたれ掛かって着替え終わるのを待つ。
「ごめん、お待たせ」
数分後にそう言って出てきた日向くんは、誰が見ても分かるくらいソワソワしていて、しかも後ろ手に何かを隠しているようだった。
「……日向くん?どうかしたの?」
「えっ!?あ、えーと……凛さん、これ!あげる!」
言って勢いに任せて日向くんが差し出してきたのは、小さな星があしらわれた可愛いヘアピンのセットで。
「えへへ、今まで勉強教えてもらったお礼!」
「お礼……?え、何なに、どーゆーこと?日向くん、期末テスト失敗したワケじゃないの?」
「なんで?凛さんのおかげで赤点ゼロだったし!」
それを聞いた私は、頭の中で今日あったことを整理する。
(部活の前に日向くんが逃げたのって……私にお礼がしたかったけど、緊張してそれどころじゃなくなったってこと?)
そう考えると、スーっと気持ちが一気に軽くなるのを感じた。
「なんだ、そうだったんだ……良かったぁ~……嫌われたワケじゃなかった……」
「え?凛さんのこと嫌いになるわけないって。テストの時とか頼りになるし!」
言いながら日向くんは、いつもの太陽みたいな笑顔を浮かべる。
私はというと、彼の素直な言葉を受け照れくさくなって「ありがと……」と、ただ一言だけしか返せなかった。
その後──テストが近づく度に日向くんが私を頼ってくるのが、4組での名物みたいになったことは……言うまでもない。
2019.08.25
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