愛すべきおバカに5題
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日向くんに英語を教えた翌日の昼休み──4組の教室に駆け込んできた本人から、いい点が取れた!という結果報告を受けた。
「おれ、小テストで2ケタの点数とか初めて見た!凛さんのおかげ!」
「良かったね。ところで日向くん」
「なに?」
「あんまり大きい声ではしゃがないでもらえる?クラス違うんだから、注目の的だよ?」
言って日向くんに周りを見るよう促すけど、彼はキョトンとして首をかしげるだけ。
「おれはそんな細かいこと気にしないけど」
「私が気にするんです。いいから落ち着こう」
そう言って今度は座るように促すと、日向くんは私の前の席の椅子を借りて腰を降ろす。
「あ、そうだ」
と、日向くんは何を思ったのか、くるっと私に背を向け黒板の方に体を向けた。
「日向くん?何して……」
「へぇー、後ろの席ってこんな感じなんだ。おれ前の方の席だから、なんか新鮮!黒板が遠く感じる!」
「ああ、うん……良かったね」
また嬉々としてはしゃぎ出した日向くんに呆れて、私は溜め息を吐く。
「いいなぁ、後ろの席。凛さんも身長高い方だからなぁ」
いいなぁ~、と繰り返し羨ましそうな声で言う日向くんに私は、少しばかりムッとした。
「あのさ、日向くん。身長のことは言わないでくれる?私としてはコンプレックスなんだけど」
私がそう言うと日向くんは、なんで?とこちらを振り返りながら聞いてくる。
「いや、なんでって……だって女子なのに身長高いなんて、男子からしたら複雑でしょ?」
「全然!」
キッパリ言われたことに驚いて、私は微かに目を見開いた。
「確かにちょっと悔しい気はするけど!でも、おれは凛さんのこと、すげーキレイでカッコいい人だなーって思ってるよ」
「え」
「だから細かいことは気にしなーい!」
言って日向くんは、えいやっ、と私の頭に軽いチョップを喰らわせる。
「あたっ!?何するの!」
「今のはネガティブをどっかにやるってやつ。この前の練習の時、菅原さんが旭さんにやってた」
「え?……ああ、アレか」
「どう?どう?効果あった?」
何故かワクワクした顔で聞いてくる日向くんを見て、私は自分の頭を撫でながら「あったかもね」と言って、フッと吹き出したのだった。
それから放課後になり、私はいつも通り蛍と山口くんと一緒に部室に向かう。
「なんか良いことでもあった?」
「え?」
唐突に蛍がそう切り出してきて、私は思わずその顔を見上げた。
「なんで分かったの?」
「……自覚なかったわけ?さっきから顔が緩みっぱなしなんだけど」
「うそっ!?」
蛍に指摘されて反射的に両手を頬に当てると、あはは!と明るい笑い声が上がる。
「凛ちゃんってホント、ツッキーと違って分かりやすいよね」
「む。山口くんには言われたくないなぁ?君だって顔に出るタイプでしょ?」
「う、まぁそうだけど。それで、何があったの?」
山口くんからもそう聞かれた私は、昼休みに日向くんが小テストの結果報告に教室まで来たことを話した。
「ふーん……また来たんだ、日向」
「うん。それで話してるうちに身長の話になって」
「その流れで煽てられて上機嫌ってわけ?今まで嫌がってたクセに……単純」
「うっさい。じゃあ、またあとで」
そう言って一旦、蛍たちと別れ更衣室に向かった私はこっそりと、自分の頭に触れる。
実は昼休みに日向くんから軽いチョップを喰らわされたあと、私が頭を擦っていたら……
「あ、ごめん!そんなに痛かった!?」
と、焦った日向くんが私の頭に触れて、懸命に撫でてくれたのだ。
(……やっぱり優しい子だなぁ、日向くんは)
改めてそう思うと自然と笑みが浮かんで、私は素早く着替えを済ませ、体育館に向かうのだった。
2019.05.16