愛すべきおバカに5題
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放課後になって部活の時間が来ると、私は5組の教室に行って蛍と山口くんと合流し部室までの道のりを三人で歩く。
「今日の昼休み、そっちの教室がなんか騒がしかったんだけど?」
「あ、やっぱり聞こえてた?日向くんが『勉強教えて!』って来たから、教えてあげてたの」
「ふーん……どうせまた小テストか何かで赤点だったんでしょ」
「当たり。アレは本当にヒドかったよ。抜き打ちだったみたいだから余計にね……」
言いながら私は昼休みに見た日向くんの散々なテスト結果を思い出し、盛大な溜め息を吐いた。
「来週の期末テストが心配でならないね、うん」
「そう言う凛は大丈夫なわけ?」
「え?……テスト対策なら万全だけど?」
首をかしげながらそう答えると蛍は「そっちじゃないし」と、どこか呆れたような溜め息を吐いて言葉を続ける。
「日向に勉強教えるのは別にいいけど、イライラしない?バカすぎて」
「あ~……でも、それも含めて『日向くん』でしょ?イライラはしないよ。呆れはするけど」
本人がいないのをいいことに、好き勝手なことを言っていると山口くんが話に加わってきた。
「なんていうか、凛ちゃんって本当に寛大だよね。ツッキーと双子とは思えないくらい」
「んー……まあ、双子だからって何でも同じなワケじゃないからね」
「そもそも性別からして違うしね」
「それな。あ、じゃあ私はこっちだから。またあとでー」
そう言って一旦、二人と別れた私は女子更衣室に向かう。
それから部活が始まり体育館に入るとほぼ同時、凛さーん!と日向くんに大きい声で呼び止められ、ビックリした私は一瞬だけど固まってしまった。
そしてまた私と日向くんに集まるみんなの視線……今度は先輩たちもいるから余計に気恥ずかしかった。
(今日だけで注目浴びたの何回目かな……ていうか日向くんは学習能力皆無ですか?私あんまり目立ちたくないんだけど)
なんて内心で文句を言っていると日向くんから、部活のあと時間ある?と聞かれた私は蛍を見る──と、呆れた顔で何も言わずに一つ息を吐いていた。
それだけで私は、日向くんがまた勉強を教えて欲しがっていることを悟る。
「……今度は何の教科?」
「えっ、なんで分かったの!?凛さんエスパー!?かっけぇ!」
言ってキラキラした純粋な目を向けてきた日向くんに私は、いやいや、と多少タジタジになりながらも『エスパー』を否定し口を開いた。
「蛍の顔を見れば大体は分かるってだけだから。じゃあ終わったら、テキトーにどっか寄ってプチ勉強会やろうか」
「おぉーっす!」
そう言って練習に戻る日向くんを見送って、私は清水先輩とマネージャーの仕事に専念する。
そして、あっという間に部活が終わり約束していた『プチ勉強会』の時間がきた。
「さて日向くん。教科書とノートを開こうか」
宣言通り帰り道でテキトーに寄った飲食店で、私は日向くんと向かい合って座りそう促す。
「まずは……どの教科からやる?」
「英語!明日小テストがあるから、教えて!」
「英語ね。了解。確か今日そっち授業あったよね?どの辺りまで習ったの?」
「えーと…………、…………忘れた」
「はあっ!?」
日向くんの、ある意味『爆弾』とも言える発言に思わず大声を上げてしまった私は、慌てて自分の口を塞いだ。
「……こほん。日向くん。なんで今日習ったばかりの内容を覚えてないの」
「いや、あの、ちゃんとノートは取ったんだけどよく分かんなかったっていうか……!」
少しだけ怒気を含んだ私の声に焦ったように、日向くんはそう言いながら両手をわたわたと上下に振る。
「先生の話は右から左ですか。それで後から『分かんないから勉強教えて』とか……分かんないのは聞いてなかった君が悪いんでしょ。自業自得」
「ぐっ……凛さんってたまに月島そっくりなしゃべり方するから、ちょっとムカつく……」
「そりゃ双子だからね。あと私が蛍みたいな話し方になるのは、日向くんの学習能力の無さに呆れてるからだよ」
「ごめんなさい……でも、おれは凛さんに勉強教えてもらうの好きだけどなー」
「えっ……」
ぼそっと呟くように、しかも唐突にそんなことを言われて動揺しないワケがなかった……きっと日向くんのことだから、そんなに深い意味はないんだろうけど。
でも私は蛍みたいなポーカーフェイスなんて得意じゃないから、感情がもろに顔に出てしまう。
「あれ、凛さん顔が真っ赤……あっ!もしかして今の聞こえた!?わ、忘れて!忘れてください!」
「なぜ敬語……?あぁもう、分かったから落ち着いて。とりあえず英語の勉強、進めようか」
「は、はい……」
そうして少しだけ気まずい空気の中で、私は日向くんに勉強を教えざるを得なくなってしまったのだった……。
2019.03.15