愛すべきおバカに5題
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昼休み──お弁当を食べようと包みの結び目をほどいていたら、日向くんが4組の教室までダッシュでやってきた。
なんでも現国の授業で抜き打ちテストがあったらしく、日向くんは赤点を取ってしまって宿題を多めに出されたんだという。
「凛さん、いる!?勉強教えて!」
「え、なんで私?蛍の方が頭いいのに」
「アイツはムカつくからやだ。凛さんの方が教えるの上手だし、それに月島と違って優しいから」
面と向かってそう言って褒めてもらえるのは嬉しいんだけど、私も一応『月島』なんですが?
双子だし、私の方がお姉ちゃんだし。
なんて思ってる間にも、日向くんは私の前の人の席に座って教科書を広げ教えてもらう気満々のようだった。
「私お昼まだなんだけど……まぁ良いか。それで?その抜き打ちテストってどんなだったの?」
「えっと……ことわざの穴埋めしろとか、なんかそんな感じ」
「待って。今その用紙ある?ちょっと見せて」
そう言って催促すると、日向くんはノートに挟んでいたテスト用紙を見せてくれた。
だけど想像以上にヒドい出来映えと点数を見た途端、私はスーっと脳内が冷却されていくような感覚に陥り黙ってしまう。
「あっ、今バカだと思ったろ!」
「え!?あ、いやいや!そんなことないよ?ただ今まで見たことない点数だったからビックリしたってだけで……」
「やっぱバカにしてるじゃん!」
「ごめんって!と、とにかく勉強!始めようか!」
騒ぎだした日向くんに、何事かと教室に残ってた他のみんなの視線が集まってきたから、私は焦って話を進めた。
「えーと?『次のことわざの()内を埋めなさい。』……見事に全滅してるね」
「ぐっ……だって全然わかんなかったから……」
「はぁ~……」
思わず溜め息を吐いて頭を抱える──それほどまでにヒドかったのだ。
例えば『敵に塩を()』という問題では、正解は『送る』なのに日向くんの回答は『投げつける』だった。
お相撲さんか!?……あ、ちょっと違うな、相撲の場合は『塩を
「まずは、ことわざの意味を理解するところからだね……よし、日向くん。ここで問題です」
「は、はい!」
「『前門の虎、後門の狼』とは、どういう意味のことわざでしょうか?」
「えーと……動物園?」
「いや、狼のいる動物園とか聞いたことないから。怖いし。正解は、前にも後ろにも逃げ場がない、挟み撃ちにされた状態のことだよ」
そう言って私が正しい意味を教えてあげると、日向くんは「なるほど!」と言ってノートにメモを取る。
「……ん?」
ふと、ノートの端にバレーボールの落書きがあるのを見つけた私は「らしいな」と思って、つい笑みをこぼした。
「ん?なに、どうかした?」
「え、あー……うぅん、何でもな──」
ぐうぅ~……
言葉の途中で盛大にお腹が鳴ってしまい、絶対に日向くんや他のみんなにも聞こえたと思った私は、恥ずかしくなって何も言えなくなった。
「えーっと……もしかして凛さん、お昼まだだった?」
そう聞いてきた日向くんの言葉に、ただ黙って頷く……ていうか私、最初にそう言ったよね?聞いてなかったのかな?
「あ、じゃあ一緒に食べよう!実はおれもお昼まだなんだー」
「えっ、そうなの?」
「うん。凛さんとお昼一緒に食べようと思ってたから、弁当箱も持ってきてるし」
日向くんはそう言って教科書とノートを片付けると、ずっと膝の上に置いていたらしいお弁当箱を私の机に置いて見せた。
「あの~……日向くん。一緒に食べるつもりだったなら、先にお昼だよね?そのあとなら勉強も余裕を持って教えられたんだけど……」
「えっ……、あーーーっ!」
『今、気付いた』と言わんばかりの大声を上げ、またしても教室中から視線を集めてしまった日向くんに、私は「おバカ……」と一人言のように呟きながら再び頭を抱えるのだった。
2019.03.11
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