1st Anniversary!!
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昼休み──ガーデンテラスで空いている席を探していたら、ふと人混みに紛れるように座っている蓮巳先輩を見つけた。
彼以外にその席に座っている人はいなかったから、相席させてもらおうと思って動こうとしたら後ろから声をかけられ振り向く。
「やあ、涼ちゃん♪空いてる席を探してるなら、こっち来なよ。歓迎するよ」
「羽風先輩。あの、申し出はありがたいんですけど、私は……」
言いながら蓮巳先輩がいる席に顔を向けると、いつの間にか居なくなっていて落ち込んだ。
(仕方ない、か。ただでさえ生徒会って忙しいみたいだし、副会長ともなれば尚更だよね……)
そう思うようにして、私は「やっぱり同席させてもらいます」と羽風先輩の申し出を受けることにして、お昼を済ませた。
そのあと図書室に寄って人目につきにくい奥の棚で本を探していると、また後ろから声をかけられた。
「涼。少し時間をもらっていいか?」
「あ、蓮巳先輩。……よく私がここにいるって分かりましたね?」
「分かって当然だろう。貴様が図書室に来た時から見ていたからな。それに俺たちは、その、何というか……こ、……いや、何でもない。忘れろ」
言いながら明らかに照れた顔になった蓮巳先輩──うぅん、敬人は私から目を逸らして口元を手の甲で隠す。
普段はルールに厳しく堅物で取っ付きにくいイメージが強い敬人だけど、私と二人の時にだけ見せるこの貴重な照れ顔はちょっと可愛いなと思って、からかいたくなってしまう。
「……敬人?何を言おうとしてたの?」
「っ、な、何でもないと言っただろう。というか今、俺を名前で呼ぶな。ここでは誰が聞いているか分からない。……場所を改めよう。放課後、生徒会室まで来てくれ」
「はーい。分かりました」
そうして午後の授業が始まるチャイムが鳴って、私と蓮巳先輩はそれぞれの教室に戻っていった。
そして放課後──私は蓮巳先輩との約束通り、急ぎ足で生徒会室に向かう。
(6限目の調理実習で作ったカップケーキ、食べてくれるといいけど……)
そう思って生徒会室の扉を軽くノックしようとしたら、中から「お疲れ様でーす」という声と一緒に扉が開いてゴンッ!と額に打ち付けられた。
「うわっ、転校生!?悪い、大丈夫か!?」
「いたた……あぁ、衣更くん。私なら大丈夫だよ。ちょっと打っちゃっただけだから……」
そう言って答えると、奥から蓮巳先輩の声が飛んでくる。
「衣更。あとは任せて、貴様は帰って休め。俺が言うのも何だが、働きすぎは良くないからな。体調管理も仕事のうちだろう」
「、分かりました。じゃあ、お願いします」
先輩の有無を言わせない圧に一瞬だけど怯んだ衣更くんは、渋々といった感じで帰っていった。
それを見送ったあと、蓮巳先輩は私を生徒会室の中に引き入れ少し乱暴に前髪を上げて、額に
「……良かった。何ともないようだな」
ホッと一息ついたようにそう言った敬人は、ふと眼鏡の奥の瞳が真剣なものに変え私を見つめてきた。
「っ、敬人?」
「涼。貴様、昼休みに羽風と何か話していただろう?何を話していた?」
そう聞いてきた敬人の顔は、少しばかり苛立っているように見える。
(なんだ、気付いてたんだ。ていうかもしかして敬人……妬いてる?)
不謹慎だというのは分かっているけど、私はそれが嬉しくて、ついニヤけそうになる顔を隠すようにうつ向いて口を開いた。
「別に、大したことじゃないよ。次プロデュースする『ユニット』のことで相談に乗ってもらっただけ」
「それなら俺に相談すればいいだろう。何故よりによって羽風なんだ。まったく、度し難い」
言って今度は呆れたような溜め息を吐いた敬人は、私の背後にある資料の棚に手をついて距離を詰める。
「……貴様に俺の『恋人』である自覚がないようなら、教えてやるまでだ」
耳元で囁くようにそう言われ、私の心臓はもう爆発寸前だっていうのに……敬人はそんなこと構わず、額に、頬に、そして唇にとキスの雨を降らせてくる。
「んっ……敬、人……」
足の力が抜けていくのを感じて必死に名前を呼ぶと、敬人はハッとして我に返り、その胸に倒れ込んだ私を受け止めてくれた。
「す、すまない涼。俺としたことが……完全に我を忘れてしまっていた……」
申し訳なさそうに口にした敬人のその言葉が、私にはとても嬉しかった。
現状では夢ノ咲学院のトップアイドル『紅月』のリーダーである敬人が、今はファンの子たちじゃなくて、私に夢中になってくれている事を意味しているから。
「……ふ……ふふっ」
「な、なんだ?どうした」
「うぅん、何でもない。それより敬人。何か用事があったんじゃないの?」
「あぁ、そうだった。少し待っていろ」
言いながら敬人は私を資料の棚に寄りかからせ、いつも使っている副会長のデスクの引き出しから爽やかなスカイブルーの包装紙でラッピングされた、小さな箱を取り出した。
「本当は、これを貴様に渡すだけのつもりだったんだが……予定が狂ってしまった」
「貰って良いの?」
「いいに決まっている。今日は俺たちが交際を始めて、ちょうど一ヶ月だろう?だから何か記念になるような物を贈りたくてな」
だから受け取れ、とそう言って差し出された小箱を素直に受け取った私は、それを大事に胸に抱える。
「ふふっ、嬉しい……ありがとう、敬人」
「まだ中身を見ていないのに礼を言うとは……まったく。貴様も度し難い奴だな」
口ではそう言いつつも表情を和らげ微笑を浮かべた敬人に、私は『お返し』とばかりに背伸びして、彼の頬に軽く触れるだけのキスを贈った。
(そう思えるくらい、私の頭の中は貴方でいっぱいなの)
(そうだ。調理実習でカップケーキ作ったから食べて)
(あぁ、ありがたく頂くとしよう)
2019.03.14
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