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研磨くんからのリクエストでアップルパイを作ったは良いものの、いかんせん作りすぎてしまって、私は軽く途方に暮れる。
(さすがに研磨くん、こんなに食べないよね……)
そう思って本人に話したら、みんなにも分けようということになったので他校の皆さんにも振る舞ったところ、意外にも大好評だった。
(でもまさか梟谷の
あれには驚かされたし、烏野のみんなもビックリしてたなぁ……。
それからまた2~3日が経って、夏休み合宿もついに最終日を迎えた。
「今日は烏野は梟谷と当たるんだっけ?」
朝ご飯の時間、私は窓側にいたノヤっさんの隣に座ってそう話しかける。
「おう!最後くらいは勝たねーとな!今日こそ完璧なトスを上げてやるぜ!」
「あ、ライン手前でジャンプして上げるやつ?リベロもトス上げられるんだ?」
「青城の渡っつーリベロが試合でやっててな、それ見て『俺も負けてらんねー』って思ったんだ」
そんで練習しまくった!と、そう言って自信ありげに笑ったノヤっさんに私は「がんばれー」と声援を送った。
「そこの席一帯はチビッ子同盟か何かですか?」
不意に私たちの席の近くを通りがかった月島くんが一言そう口にした瞬間、ビシッ!と周りの空気に亀裂が走ったような音が聞こえた気がする。
そういえばノヤっさんの向かい側には夜久先輩、私の逆隣に研磨くん、そしてその向かい側(つまり先輩の隣)には翔陽くんが座っていたんだった。
(ていうか月島くん、今の一言は自殺行為に等しいよ!?)
恐る恐る夜久先輩を見ると案の定、月島くんに容赦ないチョップをかましてた……自業自得だね、うん。
それから数時間後、合宿最後の練習試合が始まってスパイクの音やボールが強く床に打ち付けられる音が、体育館中に無数に響く。
(う~ん……結局、梟谷には一回も勝てなかったなぁ……)
音駒の練習試合が終わったあと、芝山くんがまとめたという他校の勝敗記録を見せてもらって書いたノートを見ながら、私は改めて梟谷のスゴさを実感していた。
「烏野、勝てるのかな」
「……舞花、翔陽たちが心配?」
「え?いや、そういうワケじゃないけど。強いて言うならノヤっさんが……あ、トス上げた!」
食堂での宣言通りノヤっさんはトスを上げることに成功して、それを旭さん(ノヤっさんがよく名前を呼んでるから覚えた)が強く打ち抜く。
でもコートの外に出てしまって、アウトになってしまったようだ。
「っあ~!惜しい~!」
「フツーに観戦して楽しんでるよね、舞花。……バレー面白い?」
「え?うん。前はあんまり興味なかったけど、今は結構いいなって思うよ」
もっと身長があれば挑戦したいくらい、と私がそう言うと研磨くんは「ふーん……」と、またどこか素っ気ない相槌を打つ。
「でも、おれは……舞花が小さくて良かったと思う」
「え、なんで?」
「もし、舞花の身長が高くて女子バレー部に行っちゃってたら、おれたち……今みたいな、トモダチにもなれてないと思うんだよね」
その言葉を聞いた私は、ハッとして息を飲む。
思えば今こうして、私が男子バレー部のマネージャーを自分から進んでやっているのは、些細なものでもキッカケを作ってくれた研磨くんのおかげだ。
「……ありがと」
「え、なに急に」
「んー、何となく……あ、終わったみたいだね。烏野は結局、負けちゃったかぁ……」
フライング1周ー!という澤村さんの声が私と研磨くんがいる体育館の端まで聞こえて、これで全部の練習試合が終わった。
そして数十分後──部員みんなが待ちに待ったバーベキューの時間がやってくる。
でも私はなるべくデカい人たちに囲まれたくはないから、研磨くんと一緒に体育館の階段辺りに避難してゲーム対戦してた。
「っあー!また負けたー!研磨くん強すぎー!」
「ゲームでは手加減しないからね、おれ」
「ぶー……よーし、もう一回!」
そう言って改めてスマホに向き直った私に研磨くんが「何回やるの」と聞いてきたから、私が勝つまで!と返すと「えー……」と若干嫌そうな声を上げる。
「そろそろ別のゲームやりたいんだけど」
「ダメ。勝つまでとことん付き合っ」
「研磨ー!桜野ちゃんもゲームばっかやってねーでちゃんと食えー!」
「「っ!!」」
いきなり黒尾先輩に声をかけられてビックリした……しかも山盛りのお肉や野菜が乗った紙皿を持って来てたから余計に。
「桜野ちゃんの分も取ってきてやったからな。ちゃんと食べないとデカくなれねーぞ?……いろいろと」
「……先輩なにが言いたいんですか。でもありがとーございます。いただきます」
含みのある最後の一言には深くツッコまないようにして、私は黒尾先輩から紙皿を受け取りバーベキューを楽しむ。
その間に研磨くんが逃げるように斜面の方に移動して、別のゲームをやり始めていたことは多分、言うまでもない。
2019.03.04
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