怪物事変
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今日は朝から晶のテンションがいつも以上に高い。
しかも早起きだし……何があるってんだ?
「ねぇねぇ隠神さん!紗雨さん来た?」
「まだ8時だぞ?あいつが来るのは昼前だろ」
「あっ、そっか。ボク会うの久しぶりだから楽しみ過ぎて、つい……」
えへへ~……と締まりのない顔で笑う晶と隠神さんの、何でもない日常的な会話。
だけど聞いたことのない名前が出てきて、俺も夏羽も頭に「?」が浮かんだ。
「なぁ隠神さん。その『紗雨さん』って誰だ?」
「ん?ああ、そうか。お前らは初めてだったな。あ~でも織は……いや、覚えてる訳ないわな……まぁ来たら分かるさ」
隠神さんにそう返され、ますます「?」だらけになった……夏羽が。
それからは特に
「こーんちわー!」
「!!紗雨さんだ!紗雨さーん!」
店じゃなく事務所の方からした声を聞いた途端、晶が一目散に駆け出していった。
慌てて夏羽と一緒に晶を追いかけて事務所に顔を出すと、黒髪ロングでカジュアルな格好をした女の人に、晶が嬉しそうな顔で抱きついてた。
「お、おい、晶!何やってんだお前……!?」
「……あら?初めて見る子たちだねぇ……えーと?」
俺たちを見て首をかしげたその人に自己紹介するべきか迷っていたら、夏羽が前に出て口を開く。
「あなたが紗雨さんですか?」
「そだよ。あ、自己紹介が遅れたね。私は
それを聞いた俺は思わず夏羽を引っ張りその後ろに避難した……最悪どころじゃねぇ。
隠神さんの知り合いだか何だか知らねーが、よりによって鳥だと!?
「安心しろ、織。紗雨は鳥の怪物だが、虫は食わない。何故なら──」
「えっ、“しき”?君もしかして、蓼丸織くん?組さんの息子の?……大きくなったねぇ。お母さん元気?」
「!?」
隠神さんの口から俺の名前を聞いた紗雨さんが、親しげに母ちゃんのことを聞いてきたもんだからビックリした。
「か、母ちゃんのこと、知ってんのか……?」
「知ってるよ。てか組さんと私のお母さんが幼馴染みだし。織くんとも一度だけ会ってるんだけどなぁ?あーでも、そっか……赤ん坊だったから覚えてる訳ないかぁ。私も気付けなかったし」
「えっ……?」
「君が産まれた時、取り上げたの私だから。まぁ私もその時まだ5歳の子どもだったんだけどね~」
「は……はあぁああ!?」
衝撃の事実を聞かされた俺は、驚きすぎてパニックを起こしかける……けど。
「それに私、ご飯はサラダチキンがあれば十分だし♪」
「それ共食いじゃね!?」
この発言で俺は正気を取り戻し、紗雨さんが夏羽や晶と同じボケ属性だということを理解した。
「あのー、そろそろ始めてくんない?俺もう腹ペコ限界なんだけど」
「あーハイハイ。んじゃキッチン借りるねー」
そう言ってキッチンに入った紗雨さんは冷蔵庫から手当たり次第に材料を出したあと、手際よく料理を始める。
それから一時間もしないうちに完成した料理が、事務所のテーブルに並んだ。
「久しぶりのまともなご飯だぁ~!やったー!あ、デザートもある!写真撮っていい!?」
晶のテンションが朝から高かった理由はこれか……まぁ気持ちは分かるけどさ。
「紗雨は時間がある日には、こうやって飯を作りに来てくれるんだ。忙しい奴だから、滅多に来られねぇけどな」
「何をしてる方なんですか?」
「食堂を切り盛りしてるの。お母さんと二人でね」
テーブルを五人で囲んで昼飯を食べながら、夏羽が興味本位で聞いた質問に紗雨さんがそう答える。
何てことない、人間と変わらない平和な光景……と思ったのも束の間で。
「あ~!シキ~!それボクのウサギさんリンゴ~!」
「うるせぇな!お前さっき写真撮ったあと食ってただろ!しかも三個!」
「こら二人とも、食事中にケンカしない。ほら晶ちゃん、私の分あげるから泣かないの。男の子でしょ?」
「う~……ありがと~……」
しゃくしゃくとリンゴを
「う……わ、悪かったよ……」
「はい。よく出来ました」
そう言ってわざわざ席を立ち、紗雨さんは俺の頭を撫でくる。
「っ!や、やめろよ!」
「やめな~い。だって織くん、なんか反抗期の弟みたいで可愛いんだも~ん♪」
「え~?シキ、可愛いかなぁ?夏羽クンどう思う?」
「紗雨さんが織を可愛いと思うなら、そうなんだと思う」
「否定しろよ!ったく……隠神さん、このヒトどうにかし──」
言いながら隠神さんに助けを求めて顔を向けるけど、俺と晶がケンカしてる間に食べ終わったのか……忽然と居なくなってた。
(タバコ吸いに行ったな、あの人!戻ってきたら絶対に文句言ってやる……!)
隠神さんへの恨み言と紗雨さんの『撫で』を防ぐのに精一杯になっていた俺は、夏羽と晶が後ろで話している内容が入ってこなかった……。
怪物屋さん家のおいしい時間
(別に、美味い飯でほだされた訳じゃねーからな!)
(ねぇねぇ夏羽クン。シキと紗雨さん、何だかんだで仲良くなれそうじゃない?)
(俺もそう思う。織はたまに本音とは違うことを言う時があるけど……でも、それが織だから)
(……今日も事務所は平和だねぇ)
(あ、隠神さん戻ってきた。おかえりなさ~い)
2021.03.15
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