Happy Valentine♪
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「こんにちは~……あれ?」
夕方になり、仕事も一段落した頃──私は事前に準備していたバレンタインチョコを配布するため、真っ先にニューディの事務所に顔を出した。
けど、いつも出迎えてくれるつむぎ先輩が一向に来る気配がない。
「留守かな?……つむぎ先輩〜?あんずです~」
声をかけながら中に入っていくと、子猫ちゃん、と逆に私が声をかけられた。
「夏目くん。つむぎ先輩は?」
「センパイなら今はソファーで眠ってるヨ。実はここ最近、溜まってた雑務の処理に追われて徹夜が続いていたらしくてネ。倒れられたら困るかラ、少しは休むようにって言ったばかりなんだヨ」
「あっ、そうなんだ。じゃあ静かにしないとだね」
「うン、そうしてくれると助かるヨ。ところで子猫ちゃんハ、センパイに何の用でニューディに来たのかナ?」
そう聞かれ、私は持ってきていた紙袋を夏目くんに見せながら「実は──」と説明する。
「なるほド、バレンタインチョコの配布……ということハ、他の事務所も周るんだよネ?子猫ちゃん一人じゃ大変じゃなイ?」
「うん。だから、つむぎ先輩に手伝ってもらいたかったんだけど……でも、さっきの話を聞いて今はゆっくり休んで欲しいって思うし……」
「ごめんネ。ボクも手伝ってあげたかったケド、これから仕事だからラ」
「ん、大丈夫。一人でも頑張ってみるよ。夏目くんはお仕事がんばってきて」
「ありがとウ。子猫ちゃんも無理したらいけないヨ。センパイみたいになっちゃうからネ」
冗談めかして言うと、夏目くんは仕事に向かうため事務所を出ていく。
「…………よし!」
私も気を取り直してチョコの配布を始め、そして一時間もしないうちにニューディに戻ってきた。
「思ったよりすんなり終わったなぁ……っと、つむぎ先輩は……」
「…………すぅ……」
「まだ寝てる……仕方ない。起きたら渡そうと思ってたけど、テーブルに置いて──あ」
その時ふと先輩が眼鏡を掛けたまま寝ていることに気付き、私はちょっとした好奇心に駆られソファーの側で膝をつき手を伸ばす。
(外すの忘れるくらい限界だったのかな……うっかりにも程が──っ!?)
そ〜っと眼鏡を外した瞬間、ガシッ!と寝てるはずの先輩に手首を掴まれた。
「ん〜……、ん?」
まだ眠たそうな声と共に、つむぎ先輩の目がゆっくり開いて寝ぼけ眼のまま私を捉える。
「……………………?」
「あ、お、おはよう、ございます……?」
とりあえず挨拶してみるけど、先輩は私が見えていないのか、何も言わずにただ此方を見つめるだけで……。
(こ、これ以上はムリ……!心臓が保たない……!)
そう思って顔を逸らした私の髪に、つむぎ先輩の手が伸びてきて優しく撫でられる。
「〜~っ!?」
ビックリして再びつむぎ先輩の方に顔を戻すと、先輩はいつもの優しい笑顔で私を見ていた……ていうか。
「…………先輩。もう起きてますよね?」
「あ、バレましたか?ふふ、すみません。あんずちゃんの反応が可愛かったので、つい意地悪をしてしまいました」
言いながら起き上がったつむぎ先輩は、私から眼鏡を取り戻す。
「あ……」
「?どうしました?」
「……いえ、何でも」
眼鏡なしバージョンのつむぎ先輩なんて滅多に拝めないから、もう少し堪能したかった……。
(なんて、本人を前に言える訳ないよね!)
そう思って内心で悶ていると、そういえば、と先輩が話しかけてくる。
「あんずちゃん、俺に用事があったみたいですけど……何だったんですか?寝入る前に夏目くんと話してる声が聞こえた気がするんですが……」
「あ、それはですね──」
私はつむぎ先輩の隣に座ると、バレンタインチョコの配布の為に各事務所を周ってきたことと、その前に先輩にお手伝いをお願いしたかったことを話した。
「そうだったんですね……すみません、力になれなくて」
「いえ、先輩も徹夜続きで疲れてたみたいですし……ということで、チョコ食べます?」
「はい?」
ここぞとばかりに、私は先輩の分のアソート系チョコを紙袋から出して見せる。
「疲れた時には甘い物です。それに、つむぎ先輩で最後なので。私のノルマもこれで達成できます」
「ああ、なるほど。それなら……あんずちゃん。ひとつだけ、俺の提案を聞いてもらえますか?」
「提案……ですか?」
その『つむぎ先輩からの提案』とやらを耳打ちで聞かされた瞬間に私は、ぼんっ!と頭から煙が出るほどに赤面したのが自分でも分かるほど顔が熱くなった。
だって「仕事で疲れているのは同じだから、お互いにチョコを食べさせてあげるのはどうです?」なんて言われたら……!
「〜~っ、き、今日のつむぎ先輩は……意地悪です……」
「それを言うならあんずちゃんだって、俺が寝てる隙に眼鏡を外してましたよね?お互い様ですよ」
そう言われ『ぐぅの音』も出なくなった私は観念して、つむぎ先輩の提案を飲み二人でチョコをひとつずつ摘んで、お互いの口元に持っていく。
「ん。…………うん、甘くて美味しいですね〜♪」
満足そうというか、嬉しそうな笑顔を浮かべる先輩を直視できず、私は自分が持っているチョコの箱に視線を落とした。
「……どうやら十分に糖分補給できたみたいだネ」
「!!?」
「おや、夏目くん。お仕事終わったんですね」
不意に後ろから聞こえた声に驚く私とは対照的に、つむぎ先輩は平然とその声の主──夏目くんにそう話しかける。
「まあネ。戻ってきたらセンパイが子猫ちゃんとイチャついてるかラ、呪ってやろうかと思ったヨ」
「い、イチャ……!?」
「あ〜……見られてたみたいですよ、あんずちゃん。どうします?」
と、つむぎ先輩からまたしても意地悪な問いかけをされた私はもう「お願いだから記憶から抹消してください……」と両手で顔を覆って懇願するしかなかったのだった……。
やさしい悪魔
(意地悪してしまうのは、あなたが可愛いからですよ)
Happy Valentine♪
2022.02.14
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