刀剣乱舞
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──とある冬の日の夜。
陽菜は本丸に来たばかりの三日月宗近を連れ、降り積もった雪の上をサクサクと音を立てて歩いていた。
「うぅ~……夜はホント冷え込んで寒いね…」
「うむ、すっかり遅くなってしまったな」
そんな話をしながら、よろず屋から本丸へと戻ってきた陽菜たちは、おーい!と不意に何処かから声をかけられ足を止める。
「えっ、あ、誰!?て言うか何処!?」
「主、上だ。屋根の上」
「上?」
三日月に言われて屋根を見上げると、そこには鶴丸国永が座っていて、陽菜たちを見下ろし手招きしていた。
「主も三日月も、月見酒といかんか?時期外れとは思うが、これもまた一興だろう」
「だそうだ、主。どうされる」
そう聞かれ、陽菜は少し考えたあとで鶴丸に向かって口を開く。
「じゃあ今からそっち行くから待っててー!」
「ああ、分かった!」
鶴丸からの返事を聞いたあと、陽菜と三日月は急ぎ足で屋根の上に登った。
と言っても……木登りすらやったことがなかった陽菜は鶴丸と、先に屋根に登った三日月に引っ張ってもらい、何とか上がることができたのだが。
そして陽菜を間に挟むようにして、二人は両側に腰を下ろす。
「それにしても……さっき主を引き上げた時は驚いたぞ。まるで氷のように冷たい手だったが……何かの病か?大丈夫か?」
「ああ、大丈夫。これは病とかじゃなくて、ただの冷え症だから。暖めてもすぐに冷たくなっちゃうんだよ」
鶴丸の言葉にそう答えながら陽菜は、自分の手に「はあ~……」と息を吹き掛け擦り合わせた。
すると、それを見た鶴丸は「?」と不思議そうに首をかしげる。
「……そうすると暖まるのか?」
「効果は薄いけどね。やらないよりはマシかなぁって」
「ふむ……主。外側からではなく、内側から暖めてはどうだろうか。今宵はこの面子で晩酌としよう」
三日月はそう言って、予め鶴丸が用意していたお酒をお猪口に注いだ。
「あ、お酌なら私が……」
「主にそんな事させられる訳ないだろう?知られたら煩い奴らがいるからな」
鶴丸の言葉に同意するように、はっはっは、と三日月が穏やかに笑って口を開く。
「さしずめ、小狐丸に加州清光、へし切り長谷部の辺りか。彼等は主のことをとても好いているからな」
「もちろん、俺たちだって主を好いているのは同じだぞ?それに今、本丸にいる皆も同じ気持ちの筈だ」
二人の言葉を聞いた陽菜は、嬉しいやら恥ずかしいやらで何も言えなくなり……代わりに、自然と笑みが浮かんできた。
「ふふ、ありがとう。……じゃあ、そろそろ乾杯といこうか」
言って陽菜がお猪口を掲げると、三日月と鶴丸も同じようにお猪口を掲げる。
「さて、掲げたは良いが……何に乾杯するか…」
「そうだな……主と共に飲むのも初だ。主に決めていただこう」
「えっ、私!?…あ…え、えーと…」
言いながら陽菜は、鶴丸と三日月からの期待の眼差しから逃れるように、夜空を見上げた。
そこには丸々とした満月が浮かんでおり、陽菜たち三人を煌々と照らしている。
「…じゃあ、その……今宵の満月に」
「「今宵の満月に」」
乾杯、と静かに声を合わせたあと、三人は『酒』を仰いだ。
「ん……?…あれ?なんか味が薄……って、これ水じゃん!」
「あっはっは!どうだ主、驚いたか!」
言って愉快そうに笑う鶴丸に陽菜は、もうっ!と怒ったようにその肩を叩く。
「いって!」
「はっはっは。仲が良いな、二人とも」
隣で賑やかにしている鶴丸と陽菜を見た三日月は、そう言ってまた穏やかに笑った。
(…明日も穏やかで楽しい一日になりそうだ。良きかな良きかな)
そんなことを思い微笑みながら、三日月は夜空に浮かぶ満月を見上げたのであった。
雪も凍える銀の月夜
(どんなに寒くとも、こうして集えば暖まるだろう?)
2016.12.15 初筆。
2017.07.30 加筆修正。
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