Switch
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
8月に入り真夏の暑さが厳しくなってきたある日、私は夏目くんと宙くんに呼び出されレスティングルームで手渡された物を見てボーゼンとしていた。
「え〜と……あの、二人とも。これは、一体……?」
「見れば分かるデショ。遊園地のチケットだヨ」
「いや、うん。それは分かってるんだけど、なんで二枚とも私に?」
「HaHa〜♪あんずも知ってると思いますが、もうすぐセンパイの誕生日です!」
宙くんの言葉にハッとして、やっと二人の考えてることが理解できた。
「つまり、つむぎ先輩を連れ出して欲しいってこと?」
「それだけじゃないヨ。先輩ほどじゃないと思うケド、子猫ちゃんも働きすぎだからネ」
「HiHi〜♪宙たちはあんずにも思いきりリフレッシュして欲しいと思ってます!なので、センパイと一緒に楽しんできて欲しいな〜」
二人の気遣いに感謝しつつも、それはデートということになるのでは?という疑問が頭をよぎる──けど。
「つむぎ先輩と遊園地かぁ……」
ぽつり、と自分で呟いた瞬間ドッと心臓がうるさいくらいに騒ぎ出した。
(え、ま、待って何これ……大丈夫なの、私!?こんなんでちゃんとつむぎ先輩を誘えるの!?)
なんて私が自問自答している間に、夏目くんと宙くんは「じゃあ頑張ってネ(ください!)」と言って寮に戻っていく。
「あっ、ちょ、ちょっと待っ…………行っちゃった……」
どうやら迷っている時間なんてないらしい……私は意を決して『ニューディ』の事務所がある階に向かった。
「こんにちは〜……」
「あれ、あんずちゃんじゃないですか。どうしました?打ち合わせの予定はなかったと思いますけど?」
そう言って不思議そうに首をかしげるつむぎ先輩に、私は夏目くんから渡されたチケットの一枚を差し出す。
「あの、これ……夏目くんに貰ったんですけど、二枚あって。先輩、次の日曜日って大丈夫ですか?」
「日曜日って……明日ですよね?……はい、オフなので大丈夫ですよ」
待ち合わせは何時にしましょうか?とスマホを操作しながら予定を組むつむぎ先輩を見て、私はホッと胸を撫で下ろしたのだった。
そして、8月7日の日曜日──つむぎ先輩の誕生日当日。
「すみません、お待たせしました」
「大丈夫です。私も来たところで……あ、先輩その髪……」
「さすがに暑いので、俺も結ってきたんですよ。共有スペースで会った夏目くんにも『暑苦しいから切るか結ぶか選んデ』って、ハサミを手に言われましたからね」
そう言って苦笑を浮かべるつむぎ先輩の新鮮な髪結い姿に思わず見入ってしまうけれど、そんな場合ではないと我に返った私は頭を振って気を取り直す。
「あんずちゃん?どうかしました?」
「何でもないです。それより、どこから行きましょうか?」
言いながら入口付近で貰ったマップを開くと、つむぎ先輩は「そうですね……」と私の手元を覗き込むように距離を詰めてきた。
「そうだ、あんずちゃん。ひとつ確認なんですけど、着替えは持ってきました?」
「はい。水に濡れるアトラクションもあるから念の為に持ってくるようにって、先輩に言われましたから」
「さすがですね。じゃあ最初はその濡れるやつから行きましょうか」
そうして私達は『水』関連のアトラクションやお化け屋敷など、夏の暑さを吹っ飛ばすような施設を巡って遊園地を楽しんだ。
「……は〜、楽しかったー」
「珍しくはしゃいでましたね、あんずちゃん。あれが素なのかな~って思うくらい笑顔でしたよ?」
「うっ……忘れてください……」
「それは無理ですね~」
園内にあるベンチに座り二人して満足感に浸りながらそんな話をしていると、どこからかひそひそと話す声が聞こえてくる。
「ねぇ、あれ……『Switch』の青葉つむぎじゃない?」
「え〜?う〜ん、確かに似てるけど……仮に本物だとして、隣の子は何?まさか彼女?」
「!!!?」
このまま此処にいたらまずい……もしかしたら拡散されて先輩の誕生日を祝うどころじゃなくなるかも知れない!
そう思った私が隣を見るより先に、つむぎ先輩が手首を掴んできて「退散しましょう」と言わんばかりに走り出した。
そのまましばらく走って先輩が足を止めたのは、観覧車の前だった。
「ちょうど最後尾のお客さんが乗り込んだところみたいですね。俺たちも乗りましょうか」
「そ、そう、ですね……休憩、したい、です……」
ゼェ、ハァ、と肩で息をしながら私はつむぎ先輩に手を引かれるまま観覧車のゴンドラに乗り込む。
「それにしても、あそこでバレそうになるとは思いませんでしたね~」
「それだけ『Switch』も有名なんですよ。でも先輩、今日は髪を結ってるから……」
そのおかげで本物だと気付かれなかったのは、不幸中の幸いだったかも知れない。
「夏目くんに感謝ですね……」
「そうですね。……あんずちゃん。ありがとうございます」
「…………え?」
なぜ今の流れで私にお礼を言ったのか、意図が分からず先輩を見る。
「今日が俺の誕生日だって、知ってて誘ってくれたんですよね?きっと夏目くんや宙くんにお願いされたんでしょうけど……それでも、おかげで最高に楽しい誕生日になりましたよ」
だからありがとうございます、と二回目のお礼を口にして、つむぎ先輩は笑みを浮かべた。
「!!」
髪型が少し違うせいか、その笑顔がいつもと違って見えて思わずドキッとしてしまったのは、私だけの秘密だ。
Yellow apatite
(今、この時だけの『たわむれ』でも構わない)
Happy Birthday !! for TSUMUGI♪
2022.08.07