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【へし切長谷部】特別

遠征から帰還した長谷部が本丸に到着したのは、真夜中だった。
本丸の刀達はとっくに寝静まっている。
「お前達はもういい、戻れ。主には俺から報告しておく。」
長谷部は部隊の刀達にそう言い放つと一人、主の部屋へと向かった。
────こんな時間に主の部屋に入ることが出来るのは、俺だけだろうな。
ぼんやりと長谷部はそんな事を思う。
結果報告などは基本的に職務室で行うため、刀達が主の部屋に立ち入ることは滅多にない。
ましてや、こんな時間だ。
いくら多忙な主といえど、浴衣に着替え、寝る支度をしている頃だろう。
────やはり主にとって俺は特別か。


長谷部が手入れ部屋を通りすぎようとした、その時だった。
「青江…っ!」
紛れもなく、主の声だった。
長谷部は思わず目を見開いた。
反射的に、物音を立てぬよう壁に張り付く。
手入れ部屋は体の大きな刀剣男士が怪我をしても入りやすいよう、縁側に面する部分は全て障子で出来ている。
もし、長谷部が部屋の前を通りすぎれば、姿は見えずとも足音や気配で気付かれてしまうだろう。
ましてや、中に居るのは偵察値の高い脇差、にっかり青江。
さっきの間に長谷部の存在に気付いていたとしても不思議ではない。
長谷部は身を固くしてその場にしゃがみこむと、中の様子を伺った。

幸か不幸か、中にいる青江には長谷部の存在に気付く程の余裕は無いようだった。
──二人の吐息が重なり合う。
すると、すぐに青江が肩で息をする主に何か語りかけているのが聞こえた。
と同時に、中の小さな明かりも消える。
「…どうして。」と小さく主が呟く声が聞こえたが、それ以降、何の物音もしなくなった。
チッ、と長谷部の口から舌打ちがこぼれる。
青江に気付かれたな、と思った。
そして、すぐに立ち上がると、長谷部はその場を後にした。

────どうして…どうして主は俺以外の男と………
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