終の船
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「何ッで無人島なのよー!!」
大きく吠えたイッカクの言葉はそのまま島のジャングルに吸い込まれ行く。クルーたちは皆慣れたもので、特に気にする事もなく野営の為の準備を進めていた。
この島は夏島なのだろうか。そうでなくても季節は確実に夏であろう暑さが体にまとわりつく。ほとんどのクルーがつなぎの上を脱いで腰に巻き付けて作業を進めていた。フィリィも着ていた上着は脱いで背中の開いたタンクトップ一枚だ。
「暑さも相まってイライラが限界だな」
「でも無人島だとログポースがどれぐらいで溜まるか分からないね」
ベポはポケットに入れていたログポースを取り出して針をじっと見つめる。この島の中心を指しているのは変わっていないので、すぐに溜まる訳でもないようだ。無人島に着いた時はとりあえず二日は様子を見て、それでも針が動かない様なら海に出るのがハートの海賊団での決まりだ。長居して食料の問題が出る方が困るし、もしもログが溜まるのが一ヶ月先なんてことになっても気付かないまま無人島に居座るのはリスクが高すぎる。
「実は原住民が~ とかないかな」
「うーん、獣の気配しかしないからそれは無いかも」
島の中を探るようにじっと見ていたフィリィがシャチの言葉に残念そうに返す。前の島でも見せていた観察するような視線は島の中の気配を探る動作だったようだ。覇気というものだろうか。新世界にいる海賊たちには当たり前に使いこなす能力らしいが、前半の海ではそうそう見れるものではない。
「それにしても……暑い……」
「いやぁ、さすがにきついね」
その場にへたり込むベポにフィリィも理解が出来るのか苦笑いを浮かべながら下ろしていた髪を一つにまとめ上げた。首の後ろに風が通って幾分かマシになるかと思ったが、あまり風が吹いていないので籠っていた熱気が若干解消された程度だった。こうなると普段は何とも思わない海風ですら少し不愉快に感じてしまう。ベポ程ではないが、体温が高いのもあって暑さは苦手だ。出来るだけ薄着で居たいところだが、男所帯なのでそうもいかない。
「島の中を散策するか」
「はいはい! 行きたいです!」
「おれも!」
「私も行きたい」
歩くことすらできないのか顔の前でバツ印を作るベポを木陰に移動させてから、ロー、ペンギン、シャチ、フィリィの四人で島の中に入る。他のクルー達にも野営の準備が終わり次第好きに行動するように伝えたので、散策したい者は好きにやるだろう。フィリィの言いぐさからして住んでいる獣に強い個体も存在しないようなので、怪我をするような事もなさそうだ。
ほとんど獣道のような森を入って行くと、所々に草が踏みつぶされきって道の様になっている場所を見つける。無人島にも種類は様々だ。元々人が住んでいて、何らかの理由で住民全員が移住した島。何百年という昔に住民が滅ぼされてしまった島。最初から人が居つく様な場所ではなかった島。
元々人が住んでいた島はどことなく道が整備された跡や民家が残っているし、壊れてしまっていても港があるので停泊もしやすい。だがこの島に港はなかったし、道も所々にしか存在しないので恐らくは何らかの形で過去の人々が滅ぼされたのだろう。住居らしき場所も今のところは見当たらないが、石が人工的に積み上げられたような跡はいくつか見つかった。
「何か不思議な島だなァ」
「遺跡があるとかだとロマンがあるんだけどなァ」
話しながら前を歩くペンギンとシャチは持っている武器で進みやすいように草を切りながら感覚のままに奥へと入って行く。隣にいるフィリィは呑気に歩いているようで一応の警戒は怠っていないらしく、物音に敏感に視線を向けている。タンクトップ越しに見える肌にはもう傷は一つも残っていない。抉るような深い傷は無かったとはいえ、傷跡も残らずに綺麗に治ったのを見るとやはり人間味が薄れて見える。ベガパンクは治癒力を高める薬や細胞を研究していたのだろうか。
「キャプテーン! こっちに洞窟がありますよ!」
前方で大きく手を振るシャチに顔を向ける。速度を少し早めて二人の所まで行けば、入り口がかなり大きい洞窟が見えた。当たり前だが中に太陽の光は届いておらず真っ暗だ。確実に人工的に掘られたであろう大きさに少しの警戒心が湧く。フィリィも同じなのか入口付近の岩壁をキョロキョロと確認していた。
「入ります? お宝があるかも」
「あぁ、そうだな。入口は問題なさそうだ」
自分でも確認を入れてから明らかにワクワクしながら待っていたペンギンとシャチに許可を出す。嬉しそうにしながら二人は少しだけ洞窟の中に踏み入れていたフィリィに松明を作ってもらおうと声を掛けた。
「フィリィ、火点けてくんね?」
「待って」
背を向けたまま手で入って来ない様に制するフィリィの鋭い言葉にすぐに緊張感が走る。人や獣の気配は感じないが、何か奥に見えたのだろうか。誰かが問いかけることもないままフィリィがまた口を開く。
「ガスの臭いがする。入らない方がいい」
「人口か?」
「ううん。自然発生のもの。奥で崩れて時間が経ってるのかも」
入らないで。と自分に寄ってきていたペンギンとシャチの体を押し返すと、違う所を探索しようとペンギンの腕を引いて一緒に歩き出した。ローとシャチは顔を見合わせると後ろをついて行きながら小声で話をする。
「おまえは臭ったか」
「いいえ、全く」
「そうか」
何気ない疑問として出した言葉だったが、ガスの臭いがしたところでそれが人口か自然発生かというのをこの場で答えるのは不可能だ。有害なものを避けられたのはいい事だが、それ以上に何とも言えない違和感がある。シャチもペンギンも恐らく同じだろう。だが、どうにも問いかけられる雰囲気ではない。早く離れたいのか声を掛ける隙も無くペンギンと話すフィリィの後姿にローはため息を吐いた。
探索を終えて野営の地点まで戻ってくると、昼食を作ろうとしているのかクルーが何人か集まって鍋を囲んでいた。何人かで探索に出ているクルーもいるのか見えない姿もあるが、もうすぐ昼の時間なのでそう遠くには行っていないだろう。ふと、鍋を囲んでいるクルーの姿にもう一度目を向けると作っているというよりは何かを観察しているような仕草に思わず足を向ける。近くまで行くと図鑑を見ながら野草やキノコを選別しているのだとやっと理解が出来た。
「ずいぶん取ってきたな」
「あ、キャプテン! おかえりなさい!」
取ってきたはいいが食べても大丈夫な物なのかを確認しているというクルーの言葉を聞いていると、隣から伸びてきた手が鍋に入っていたキノコを手に取る。クルー達の足元にある籠ではなくそっちに入っているという事は食べられるキノコだろう。
「これ、食べちゃダメなやつだけど」
「え?!」
「あ~ これと似てるんだよね」
そういって鍋の中を探ると似たような見た目のキノコをもう一つ手に取る。並べて見せられてもぱっと見では分からないが、確かに細部に違いがある。強い毒性はないが確実に全員で腹を壊していただろうとフィリィに説明されて取ってきたクルー達はパッと顔を見合わせた。
「鍋の中、全部確認してくれないか」
「いいよ。ついでにそれも見ようか」
籠の中を指さすフィリィに「助かる!」というと手伝いの一人以外は他の食材の下拵えに取り掛かり始めた。獣も多くない島では野草やキノコを採ってきて食べることは多々あったが、確かに腹を壊したりするリスクはも込みでの話だ。だが、無人島で無駄に食材を消費するよりはマシな手段でもある。今思えばフィリィが入ってから食べた後で腹を壊したり、不調を訴えるクルーが減った。それなりに慣れてきたのだと思っていたがローが知らないだけでこういう場面はあったのだろう。
「詳しいんだな」
「詳しいなんてもんじゃないですよ! 食べたら毒性も分かるみたいだし、頼りにしてるんです」
「は?」
思わぬ返答に小さく声が漏れる。当たり前のように言ってくるが全く認知していない情報だ。フィリィ自身、ローに言っていない自覚はあるのかすぐに隣にいるクルーを肘で小突いた。
「ちょっと、余計な事言わなくていいって」
「何言ってんだよ。おまえが毒見してくれるから野営の料理が安全になってんのに」
「分かる事だからやってるだけだよ」
言いながらまた一つキノコを鍋の中から地面に放り投げるフィリィをじっと見る。選別をしているという名目で逃げようとしているのか目を向けてくることは無いフィリィに軽くため息を吐くと諦めて隣にいるクルーを見た。この調子だと最初からフィリィを連れて行った方が良いのは明確だ。夕食も現地調達をするのなら一緒に行くように言ってからその場を離れた。
隠していた訳ではないことは分かっているが、認知していない情報がクルーから出てくるのは少し腹立たしい。何がかは分からないが納得がいかないままベポのいる木陰まで向かう。毛皮に覆われた体というのは常々苦労が多いとは思うが、その中でも暑さは特に大変そうだ。熱中症も引き起こしやすいので注意が必要になる。ペンギンとシャチに扇がれているベポの隣に座るとクルーと共に籠の中身を選別しているフィリィを見る。ベポ程ではないだろうがあっちも注意は必要だろう。
「おい」
「どうしました?」
「あいつの事で知ってることを全部教えろ」
ペンギンとシャチは顔を見合わせた後でキャプテンの視線の先を見る。ゆらゆら揺れるポニーテールに目をやった後、帽子を目深に被り直すローに少し頬が緩むがここで茶化すと機嫌を損ねるだろう。
「キャプテン、フィリィの事気になるの?」
「あ、おい!」
「バカベポ!」
わいわい騒いでベポの言葉を打ち消そうとする二人にため息を吐く。その行動だけで同じことを思っていたのは簡単に想像がつく。
元々興味がなかったわけじゃない。どうして海軍が追っているのか、何故逃げてきたのか、コラさんとの関係性は一体何なのか。疑問から興味になったことは大体がフィリィが話した中にヒントも答えもあった。ローに気を使って過ごすのも、すべて話すのも、最初の頃は当然の行動だと思っていた。なのに最近妙に距離があるのが気になるし、自分よりもクルーの方がもっとフィリィの本質の部分を知っているのかと思うと気に入らない。ベポの言う「気になる」がどういう意味かは分からないが、フィリィ自身に興味が湧いているのは確かだ。
「……だったらどうする」
「それなら、自分で聞いた方が良いんじゃないかな」
フィリィなら聞けば全部教えてくれるよ。と言うベポに視線を向ける。水分補給もしっかりしているし、木陰にいるだけで少し温度はマシになる。なるべく体を涼しく保とうとしているので熱中症の心配は無いだろう。近くにあった水の入った瓶を手に取るとローはゆっくりと腰を上げた。
「それなら、そうする」
言いながら食事作りを手伝っているフィリィの所に向かっていくローに三人は視線が釘付けになっていた。フィリィも暑さがキツイと言っていたし、能力の関係で体温が高い。ベポ程ではないにしても熱中症や暑さで倒れてしまう危険はあるだろう。そこを引っ掛かりにして話しかけて、そのまま二人でどこかに行くのだろうか。視線が三つ、見守っているとも知らないまま話かけたローは瓶を渡して一言、二言話しているようだ。だが、食事作りも手が離せない所なのか他のクルーに断られて仕方なく一人でその場を去って行く。
「うーん、キャプテンって意外と……」
「そもそもちょっと口下手だからなァ」
「タイミングが悪かっただけだよ」
去って行ったローを見送りながら三人はそれぞれ届かない励ましの言葉を呟く。
無自覚ながら確実にフィリィ自身を気に入っているのはいい事だ。この調子ならクルーとして迎え入れてもらえるのも近い気がする。ここまで旅をしてきて、すっかり溶け込んでみせたのだ。このまま一緒に旅をするものだと無意識に思っているクルーも多いだろう。何より戦闘面や危険な状況において確実にキャプテンの側に立てる人間は貴重だ。
「一肌脱ぐかァ?」
「いや、とりあえず様子見だろここは」
「夜は涼しくなるといいなァ」
ちょっとした作戦会議もしながら話していると、美味しい匂いが漂ってきて誰かの腹の虫が鳴いた。
+++
その日の夜、大きな焚火の周りを囲むようにそれぞれが今日島で見たことを酒のつまみにしていた。フィリィはその様子を少し遠巻きに大きな木の幹にもたれて樽型のジョッキに入った酒を飲む。日が落ちれば暑さも随分とマシになって、酒を飲んで体が温まるのが丁度いいぐらいだ。船員たちの楽しそうな様子に笑っていると隣に誰かが腰を下ろす音がしてハッとする。
「……昼間の事?」
「そうだ」
鬼哭を肩に引っかけてジョッキの酒を飲むローにどう話そうかと考える。キノコや野草の事もそうだが、ローが一番聞きたいのは洞窟での出来事だろう。自分でも怪しい行動だと分かってはいたが、どうしても冷静さに欠けてしまった。話すにしても長くなるだろう。ベガパンクの研究所に居た頃の事から話さないとどうにも辻褄が合わない話だ。
「そういう事が出来るんだって、だけじゃダメ?」
「全部話せ」
「長くなるよ」
「いい酒のつまみだ」
引く気はないのか、それとも最初からそのつもりだったのか。お互いの間に酒瓶を置かれて笑いが漏れた。
始まりは疫病を中心に研究をしていた一人の研究員だった。フィリィ自身に特殊な細胞や改造を施していないにも関わらず、その男はベガパンクならば何かしているだろうと踏んでフィリィに何度も自身の作った病や毒を飲ませた。命を落とすギリギリの研究に父親は気付いた時には守ってくれたが、そう何度も目が届くわけもなく、実験は繰り返された。
その内フィリィにはある程度の抗体ができたのか病や毒への耐性ができ、男の望む実験の姿を見せることが出来なくなった。そうして興味が薄れた頃にクローン人間に興味があった研究員に目を付けられた。男は何度も何度も、フィリィに獣との戦闘をさせてデータを取った。流れた血液は研究に、切られた髪はデータ収集に、割れた爪は合成獣の材料にされた。父親はフィリィを戦わせるために生んだ訳ではないと言ってくれたが、忙しくなる研究に守ってもらえる時間はどんどん短くなった。
男がフィリィは特別な人間ではないと研究を止めた頃、一人の能力者がフィリィの肩を叩いた。もうすっかり感情の抜け落ちていた顔の前にキャンディを差し出して来た研究員にフィリィはついて行ってしまったのだ。そこからが本当に地獄のような毎日だった。
「……まあ、そんなとこかな」
急に話を切ったフィリィにローはちらりと目を向ける。先程までとは違い自分の膝を抱えるようにして座っている姿に、先は聞かない方がいいと察しがついた。
度重なる実験の結果、フィリィ自身の体には毒と病への耐性が付き、傷の治りが早くなるような体の仕組みが出来上がり、舌で触れれば少量の毒でも感知できるようになった。洞窟でのガスの件も空気が体に入れば自然とそれが危険なものかどうかは分かる。体内に入ったものも胃の中の物であれば簡単に吐き出すことが出来るらしい。
「どおりで綺麗に治るわけだ」
「あはは。痕が残るとパパにバレちゃうからね」
おかげで解剖だけは絶対にされなかった。怪我をした箇所も絶対に痕跡を残さない様に彼らの技術力の全てを使って治された。壊す力も持っていれば、同じレベルの直す力を持っている彼らを奇妙だと思う事はあっても怖いと感じることはなかった。痛い、熱い、苦しい、そう言った感情の方が先に出すぎていておかしくなっていたのだろう。流石に大きな傷を負えば痕は残ってしまうかもしれないが、海軍を出てからも大きな傷は負っていないので未知数だ。
「他は」
「え?」
「他に、おれに話してない事は」
思わぬ質問に面食らってしまってぱちぱちと目を瞬かせる。特に顔色が変わるわけでもなく酒を飲むローに少しだけ、どうすればいいのか分からずにジョッキの中を見た。遠くにある焚火の光に照らされた自分の顔が映る。前に言っていた、他の船員たちと同じように。というやつだろうか。だとしたらもう話していないことはない。この話ばかりは自分の能力とも何ら関係がないし、傷が綺麗に治ることはローに怪我がバレないのもあって丁度いいとさえ思っていた。それにこれ以上、自分の身の上話をしても面白くは無い。
もうないけど。と零せば「ならいい」とだけいってローは少し満足そうに微笑む。ツボがよく分からないままジョッキの中身を飲み干す。折り曲げたままだった足を伸ばしていると瓶が近づいてきてジョッキの中に注がれる。
「もう少し何か話せ。おまえの話が聞きたい」
「え~? そんなこと言ってたらまた口説いてる~ってからかわれるよ」
あれは見間違えだったとはいえ中々驚いた。平然と装っていたつもりだったが上手く笑えていたかも定かではない。すぐに勘違いだと疑いを晴らせたのはいい事だったが。
「そうだったらどうする」
一応、これでも普通の人間の感覚は持ち合わせているつもりだ。顔の良い男に、いい声で、熱い視線を向けられたら気持ちが浮つくのは普通の感覚だろう。ローのジョッキの中身に目を向ける。あまり長々と話さない様にと思って端折った部分もあったはずだが。ボリュームのあったつまみと一緒にかなり酒を飲んだらしい。瓶の中身も良く見れば残りは少ない。つまりは、そういうことだ。
「ふっ、あはは。酔いすぎでしょ。水持って来ようか?」
「……いらねェよ」
フィリィの視線を見て、飲みすぎている事を自分でも察したのかローは残り少ない酒を自分のジョッキに注ぐ。真っ直ぐに焚火の周りで騒ぐクルー達の方を見る視線につられて、ローもそちらを見た。見ていて飽きないという感情はよく分かる。
「いい海賊団だね」
「まだ、乗りたいか」
「もちろん」
気持ちは変わるどころか、大きくなる一方だ。最初の目的は違えど、ここに居たいとしっかりと自分の意思でそう思っている。それに乗った結果、自分の目的も無事に達成されていると信じているからこそ、この船に乗りたいのだ。
「……。」
「あ、今は何も言わないでね。絶対酔ってるんだから」
「おまえもな」
「そりゃそうだ。酔っぱらいの言葉ほど信じられないものはないしね」
ジョッキの中で酒の揺れる音がする。しばらくじっとクルー達が騒ぐのを見ていたが、急に感じた寄りかかってくる重みに視線を落とした。相変わらず電池が切れたような眠り方をしたフィリィの手元から中身が零れそうなジョッキを取ろうと手を伸ばす。酒で温まった体同士が近づいて、触れている部分が更に熱を持った感覚がした。顔を覗き込めば瞼は綺麗に閉じられている。
「……なァ、本当に酔ってると思うか?」
誰からも返事の来ない疑問を零してから、ローはフィリィからジョッキを取りあげた。
大きく吠えたイッカクの言葉はそのまま島のジャングルに吸い込まれ行く。クルーたちは皆慣れたもので、特に気にする事もなく野営の為の準備を進めていた。
この島は夏島なのだろうか。そうでなくても季節は確実に夏であろう暑さが体にまとわりつく。ほとんどのクルーがつなぎの上を脱いで腰に巻き付けて作業を進めていた。フィリィも着ていた上着は脱いで背中の開いたタンクトップ一枚だ。
「暑さも相まってイライラが限界だな」
「でも無人島だとログポースがどれぐらいで溜まるか分からないね」
ベポはポケットに入れていたログポースを取り出して針をじっと見つめる。この島の中心を指しているのは変わっていないので、すぐに溜まる訳でもないようだ。無人島に着いた時はとりあえず二日は様子を見て、それでも針が動かない様なら海に出るのがハートの海賊団での決まりだ。長居して食料の問題が出る方が困るし、もしもログが溜まるのが一ヶ月先なんてことになっても気付かないまま無人島に居座るのはリスクが高すぎる。
「実は原住民が~ とかないかな」
「うーん、獣の気配しかしないからそれは無いかも」
島の中を探るようにじっと見ていたフィリィがシャチの言葉に残念そうに返す。前の島でも見せていた観察するような視線は島の中の気配を探る動作だったようだ。覇気というものだろうか。新世界にいる海賊たちには当たり前に使いこなす能力らしいが、前半の海ではそうそう見れるものではない。
「それにしても……暑い……」
「いやぁ、さすがにきついね」
その場にへたり込むベポにフィリィも理解が出来るのか苦笑いを浮かべながら下ろしていた髪を一つにまとめ上げた。首の後ろに風が通って幾分かマシになるかと思ったが、あまり風が吹いていないので籠っていた熱気が若干解消された程度だった。こうなると普段は何とも思わない海風ですら少し不愉快に感じてしまう。ベポ程ではないが、体温が高いのもあって暑さは苦手だ。出来るだけ薄着で居たいところだが、男所帯なのでそうもいかない。
「島の中を散策するか」
「はいはい! 行きたいです!」
「おれも!」
「私も行きたい」
歩くことすらできないのか顔の前でバツ印を作るベポを木陰に移動させてから、ロー、ペンギン、シャチ、フィリィの四人で島の中に入る。他のクルー達にも野営の準備が終わり次第好きに行動するように伝えたので、散策したい者は好きにやるだろう。フィリィの言いぐさからして住んでいる獣に強い個体も存在しないようなので、怪我をするような事もなさそうだ。
ほとんど獣道のような森を入って行くと、所々に草が踏みつぶされきって道の様になっている場所を見つける。無人島にも種類は様々だ。元々人が住んでいて、何らかの理由で住民全員が移住した島。何百年という昔に住民が滅ぼされてしまった島。最初から人が居つく様な場所ではなかった島。
元々人が住んでいた島はどことなく道が整備された跡や民家が残っているし、壊れてしまっていても港があるので停泊もしやすい。だがこの島に港はなかったし、道も所々にしか存在しないので恐らくは何らかの形で過去の人々が滅ぼされたのだろう。住居らしき場所も今のところは見当たらないが、石が人工的に積み上げられたような跡はいくつか見つかった。
「何か不思議な島だなァ」
「遺跡があるとかだとロマンがあるんだけどなァ」
話しながら前を歩くペンギンとシャチは持っている武器で進みやすいように草を切りながら感覚のままに奥へと入って行く。隣にいるフィリィは呑気に歩いているようで一応の警戒は怠っていないらしく、物音に敏感に視線を向けている。タンクトップ越しに見える肌にはもう傷は一つも残っていない。抉るような深い傷は無かったとはいえ、傷跡も残らずに綺麗に治ったのを見るとやはり人間味が薄れて見える。ベガパンクは治癒力を高める薬や細胞を研究していたのだろうか。
「キャプテーン! こっちに洞窟がありますよ!」
前方で大きく手を振るシャチに顔を向ける。速度を少し早めて二人の所まで行けば、入り口がかなり大きい洞窟が見えた。当たり前だが中に太陽の光は届いておらず真っ暗だ。確実に人工的に掘られたであろう大きさに少しの警戒心が湧く。フィリィも同じなのか入口付近の岩壁をキョロキョロと確認していた。
「入ります? お宝があるかも」
「あぁ、そうだな。入口は問題なさそうだ」
自分でも確認を入れてから明らかにワクワクしながら待っていたペンギンとシャチに許可を出す。嬉しそうにしながら二人は少しだけ洞窟の中に踏み入れていたフィリィに松明を作ってもらおうと声を掛けた。
「フィリィ、火点けてくんね?」
「待って」
背を向けたまま手で入って来ない様に制するフィリィの鋭い言葉にすぐに緊張感が走る。人や獣の気配は感じないが、何か奥に見えたのだろうか。誰かが問いかけることもないままフィリィがまた口を開く。
「ガスの臭いがする。入らない方がいい」
「人口か?」
「ううん。自然発生のもの。奥で崩れて時間が経ってるのかも」
入らないで。と自分に寄ってきていたペンギンとシャチの体を押し返すと、違う所を探索しようとペンギンの腕を引いて一緒に歩き出した。ローとシャチは顔を見合わせると後ろをついて行きながら小声で話をする。
「おまえは臭ったか」
「いいえ、全く」
「そうか」
何気ない疑問として出した言葉だったが、ガスの臭いがしたところでそれが人口か自然発生かというのをこの場で答えるのは不可能だ。有害なものを避けられたのはいい事だが、それ以上に何とも言えない違和感がある。シャチもペンギンも恐らく同じだろう。だが、どうにも問いかけられる雰囲気ではない。早く離れたいのか声を掛ける隙も無くペンギンと話すフィリィの後姿にローはため息を吐いた。
探索を終えて野営の地点まで戻ってくると、昼食を作ろうとしているのかクルーが何人か集まって鍋を囲んでいた。何人かで探索に出ているクルーもいるのか見えない姿もあるが、もうすぐ昼の時間なのでそう遠くには行っていないだろう。ふと、鍋を囲んでいるクルーの姿にもう一度目を向けると作っているというよりは何かを観察しているような仕草に思わず足を向ける。近くまで行くと図鑑を見ながら野草やキノコを選別しているのだとやっと理解が出来た。
「ずいぶん取ってきたな」
「あ、キャプテン! おかえりなさい!」
取ってきたはいいが食べても大丈夫な物なのかを確認しているというクルーの言葉を聞いていると、隣から伸びてきた手が鍋に入っていたキノコを手に取る。クルー達の足元にある籠ではなくそっちに入っているという事は食べられるキノコだろう。
「これ、食べちゃダメなやつだけど」
「え?!」
「あ~ これと似てるんだよね」
そういって鍋の中を探ると似たような見た目のキノコをもう一つ手に取る。並べて見せられてもぱっと見では分からないが、確かに細部に違いがある。強い毒性はないが確実に全員で腹を壊していただろうとフィリィに説明されて取ってきたクルー達はパッと顔を見合わせた。
「鍋の中、全部確認してくれないか」
「いいよ。ついでにそれも見ようか」
籠の中を指さすフィリィに「助かる!」というと手伝いの一人以外は他の食材の下拵えに取り掛かり始めた。獣も多くない島では野草やキノコを採ってきて食べることは多々あったが、確かに腹を壊したりするリスクはも込みでの話だ。だが、無人島で無駄に食材を消費するよりはマシな手段でもある。今思えばフィリィが入ってから食べた後で腹を壊したり、不調を訴えるクルーが減った。それなりに慣れてきたのだと思っていたがローが知らないだけでこういう場面はあったのだろう。
「詳しいんだな」
「詳しいなんてもんじゃないですよ! 食べたら毒性も分かるみたいだし、頼りにしてるんです」
「は?」
思わぬ返答に小さく声が漏れる。当たり前のように言ってくるが全く認知していない情報だ。フィリィ自身、ローに言っていない自覚はあるのかすぐに隣にいるクルーを肘で小突いた。
「ちょっと、余計な事言わなくていいって」
「何言ってんだよ。おまえが毒見してくれるから野営の料理が安全になってんのに」
「分かる事だからやってるだけだよ」
言いながらまた一つキノコを鍋の中から地面に放り投げるフィリィをじっと見る。選別をしているという名目で逃げようとしているのか目を向けてくることは無いフィリィに軽くため息を吐くと諦めて隣にいるクルーを見た。この調子だと最初からフィリィを連れて行った方が良いのは明確だ。夕食も現地調達をするのなら一緒に行くように言ってからその場を離れた。
隠していた訳ではないことは分かっているが、認知していない情報がクルーから出てくるのは少し腹立たしい。何がかは分からないが納得がいかないままベポのいる木陰まで向かう。毛皮に覆われた体というのは常々苦労が多いとは思うが、その中でも暑さは特に大変そうだ。熱中症も引き起こしやすいので注意が必要になる。ペンギンとシャチに扇がれているベポの隣に座るとクルーと共に籠の中身を選別しているフィリィを見る。ベポ程ではないだろうがあっちも注意は必要だろう。
「おい」
「どうしました?」
「あいつの事で知ってることを全部教えろ」
ペンギンとシャチは顔を見合わせた後でキャプテンの視線の先を見る。ゆらゆら揺れるポニーテールに目をやった後、帽子を目深に被り直すローに少し頬が緩むがここで茶化すと機嫌を損ねるだろう。
「キャプテン、フィリィの事気になるの?」
「あ、おい!」
「バカベポ!」
わいわい騒いでベポの言葉を打ち消そうとする二人にため息を吐く。その行動だけで同じことを思っていたのは簡単に想像がつく。
元々興味がなかったわけじゃない。どうして海軍が追っているのか、何故逃げてきたのか、コラさんとの関係性は一体何なのか。疑問から興味になったことは大体がフィリィが話した中にヒントも答えもあった。ローに気を使って過ごすのも、すべて話すのも、最初の頃は当然の行動だと思っていた。なのに最近妙に距離があるのが気になるし、自分よりもクルーの方がもっとフィリィの本質の部分を知っているのかと思うと気に入らない。ベポの言う「気になる」がどういう意味かは分からないが、フィリィ自身に興味が湧いているのは確かだ。
「……だったらどうする」
「それなら、自分で聞いた方が良いんじゃないかな」
フィリィなら聞けば全部教えてくれるよ。と言うベポに視線を向ける。水分補給もしっかりしているし、木陰にいるだけで少し温度はマシになる。なるべく体を涼しく保とうとしているので熱中症の心配は無いだろう。近くにあった水の入った瓶を手に取るとローはゆっくりと腰を上げた。
「それなら、そうする」
言いながら食事作りを手伝っているフィリィの所に向かっていくローに三人は視線が釘付けになっていた。フィリィも暑さがキツイと言っていたし、能力の関係で体温が高い。ベポ程ではないにしても熱中症や暑さで倒れてしまう危険はあるだろう。そこを引っ掛かりにして話しかけて、そのまま二人でどこかに行くのだろうか。視線が三つ、見守っているとも知らないまま話かけたローは瓶を渡して一言、二言話しているようだ。だが、食事作りも手が離せない所なのか他のクルーに断られて仕方なく一人でその場を去って行く。
「うーん、キャプテンって意外と……」
「そもそもちょっと口下手だからなァ」
「タイミングが悪かっただけだよ」
去って行ったローを見送りながら三人はそれぞれ届かない励ましの言葉を呟く。
無自覚ながら確実にフィリィ自身を気に入っているのはいい事だ。この調子ならクルーとして迎え入れてもらえるのも近い気がする。ここまで旅をしてきて、すっかり溶け込んでみせたのだ。このまま一緒に旅をするものだと無意識に思っているクルーも多いだろう。何より戦闘面や危険な状況において確実にキャプテンの側に立てる人間は貴重だ。
「一肌脱ぐかァ?」
「いや、とりあえず様子見だろここは」
「夜は涼しくなるといいなァ」
ちょっとした作戦会議もしながら話していると、美味しい匂いが漂ってきて誰かの腹の虫が鳴いた。
+++
その日の夜、大きな焚火の周りを囲むようにそれぞれが今日島で見たことを酒のつまみにしていた。フィリィはその様子を少し遠巻きに大きな木の幹にもたれて樽型のジョッキに入った酒を飲む。日が落ちれば暑さも随分とマシになって、酒を飲んで体が温まるのが丁度いいぐらいだ。船員たちの楽しそうな様子に笑っていると隣に誰かが腰を下ろす音がしてハッとする。
「……昼間の事?」
「そうだ」
鬼哭を肩に引っかけてジョッキの酒を飲むローにどう話そうかと考える。キノコや野草の事もそうだが、ローが一番聞きたいのは洞窟での出来事だろう。自分でも怪しい行動だと分かってはいたが、どうしても冷静さに欠けてしまった。話すにしても長くなるだろう。ベガパンクの研究所に居た頃の事から話さないとどうにも辻褄が合わない話だ。
「そういう事が出来るんだって、だけじゃダメ?」
「全部話せ」
「長くなるよ」
「いい酒のつまみだ」
引く気はないのか、それとも最初からそのつもりだったのか。お互いの間に酒瓶を置かれて笑いが漏れた。
始まりは疫病を中心に研究をしていた一人の研究員だった。フィリィ自身に特殊な細胞や改造を施していないにも関わらず、その男はベガパンクならば何かしているだろうと踏んでフィリィに何度も自身の作った病や毒を飲ませた。命を落とすギリギリの研究に父親は気付いた時には守ってくれたが、そう何度も目が届くわけもなく、実験は繰り返された。
その内フィリィにはある程度の抗体ができたのか病や毒への耐性ができ、男の望む実験の姿を見せることが出来なくなった。そうして興味が薄れた頃にクローン人間に興味があった研究員に目を付けられた。男は何度も何度も、フィリィに獣との戦闘をさせてデータを取った。流れた血液は研究に、切られた髪はデータ収集に、割れた爪は合成獣の材料にされた。父親はフィリィを戦わせるために生んだ訳ではないと言ってくれたが、忙しくなる研究に守ってもらえる時間はどんどん短くなった。
男がフィリィは特別な人間ではないと研究を止めた頃、一人の能力者がフィリィの肩を叩いた。もうすっかり感情の抜け落ちていた顔の前にキャンディを差し出して来た研究員にフィリィはついて行ってしまったのだ。そこからが本当に地獄のような毎日だった。
「……まあ、そんなとこかな」
急に話を切ったフィリィにローはちらりと目を向ける。先程までとは違い自分の膝を抱えるようにして座っている姿に、先は聞かない方がいいと察しがついた。
度重なる実験の結果、フィリィ自身の体には毒と病への耐性が付き、傷の治りが早くなるような体の仕組みが出来上がり、舌で触れれば少量の毒でも感知できるようになった。洞窟でのガスの件も空気が体に入れば自然とそれが危険なものかどうかは分かる。体内に入ったものも胃の中の物であれば簡単に吐き出すことが出来るらしい。
「どおりで綺麗に治るわけだ」
「あはは。痕が残るとパパにバレちゃうからね」
おかげで解剖だけは絶対にされなかった。怪我をした箇所も絶対に痕跡を残さない様に彼らの技術力の全てを使って治された。壊す力も持っていれば、同じレベルの直す力を持っている彼らを奇妙だと思う事はあっても怖いと感じることはなかった。痛い、熱い、苦しい、そう言った感情の方が先に出すぎていておかしくなっていたのだろう。流石に大きな傷を負えば痕は残ってしまうかもしれないが、海軍を出てからも大きな傷は負っていないので未知数だ。
「他は」
「え?」
「他に、おれに話してない事は」
思わぬ質問に面食らってしまってぱちぱちと目を瞬かせる。特に顔色が変わるわけでもなく酒を飲むローに少しだけ、どうすればいいのか分からずにジョッキの中を見た。遠くにある焚火の光に照らされた自分の顔が映る。前に言っていた、他の船員たちと同じように。というやつだろうか。だとしたらもう話していないことはない。この話ばかりは自分の能力とも何ら関係がないし、傷が綺麗に治ることはローに怪我がバレないのもあって丁度いいとさえ思っていた。それにこれ以上、自分の身の上話をしても面白くは無い。
もうないけど。と零せば「ならいい」とだけいってローは少し満足そうに微笑む。ツボがよく分からないままジョッキの中身を飲み干す。折り曲げたままだった足を伸ばしていると瓶が近づいてきてジョッキの中に注がれる。
「もう少し何か話せ。おまえの話が聞きたい」
「え~? そんなこと言ってたらまた口説いてる~ってからかわれるよ」
あれは見間違えだったとはいえ中々驚いた。平然と装っていたつもりだったが上手く笑えていたかも定かではない。すぐに勘違いだと疑いを晴らせたのはいい事だったが。
「そうだったらどうする」
一応、これでも普通の人間の感覚は持ち合わせているつもりだ。顔の良い男に、いい声で、熱い視線を向けられたら気持ちが浮つくのは普通の感覚だろう。ローのジョッキの中身に目を向ける。あまり長々と話さない様にと思って端折った部分もあったはずだが。ボリュームのあったつまみと一緒にかなり酒を飲んだらしい。瓶の中身も良く見れば残りは少ない。つまりは、そういうことだ。
「ふっ、あはは。酔いすぎでしょ。水持って来ようか?」
「……いらねェよ」
フィリィの視線を見て、飲みすぎている事を自分でも察したのかローは残り少ない酒を自分のジョッキに注ぐ。真っ直ぐに焚火の周りで騒ぐクルー達の方を見る視線につられて、ローもそちらを見た。見ていて飽きないという感情はよく分かる。
「いい海賊団だね」
「まだ、乗りたいか」
「もちろん」
気持ちは変わるどころか、大きくなる一方だ。最初の目的は違えど、ここに居たいとしっかりと自分の意思でそう思っている。それに乗った結果、自分の目的も無事に達成されていると信じているからこそ、この船に乗りたいのだ。
「……。」
「あ、今は何も言わないでね。絶対酔ってるんだから」
「おまえもな」
「そりゃそうだ。酔っぱらいの言葉ほど信じられないものはないしね」
ジョッキの中で酒の揺れる音がする。しばらくじっとクルー達が騒ぐのを見ていたが、急に感じた寄りかかってくる重みに視線を落とした。相変わらず電池が切れたような眠り方をしたフィリィの手元から中身が零れそうなジョッキを取ろうと手を伸ばす。酒で温まった体同士が近づいて、触れている部分が更に熱を持った感覚がした。顔を覗き込めば瞼は綺麗に閉じられている。
「……なァ、本当に酔ってると思うか?」
誰からも返事の来ない疑問を零してから、ローはフィリィからジョッキを取りあげた。