終の船
なまえの変更
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吐き出した煙がゆっくりと目の前で空気と混ざって消えていく。同時に漂う重ための煙草の香りにシャチはサングラス越しに隣を見た。キャプテンに見つかったらすぐにでも没収されそうな煙草の箱は買ったわけではないのでさすがに船に持ち帰る気はないのか、二人で腰かけている木箱の上で歪んでいる。シャチも煙草は吸わないわけではないが、好む物でもない。ペンギンも特別好きなわけではないだろうけど、こういった時に見つけるとすぐに手を出し火を点ける。
「おれ、ペンギンはフィリィのこと好きなのかなって思ってたんだけど」
「おいおいおい、お前までそれ言うか?」
「まあ聞けって」
思ってた、といっただろ。と話を遮る。ペンギンはどことなく納得のいかなさそうな顔をしながら煙草を口元に戻す。帽子のせいで目が見えないが、長い付き合いだ。仕草や少ししか見えない表情でどう思ってるかは大体わかる。
フィリィに関してはシャチも色々と思う所がある。子供の頃に大人という名の強者に虐げられてきた事、それすらも今はどうってことないと思っている事、不思議な出生と人工的な不思議な力。まあ、キャプテンが多少なりとも興味を持って船に乗せることを許可したのも納得がいくとも思う。本人から色々と聞いて面食らったが、今となっては良く話す仲であり、すっかり船に馴染んだなと感じることも多々ある。
そうして関係を構築していく中で、やはり異性として見る瞬間は出てくるのだ。どうしたって性別も違えば、シャチはペンギンと違って体の関係には積極的な方だ。あの体をいいなと見つめていた事がないと言えば噓になる。それでもシャチがフィリィに触らなかったのはどことなく感じる崩れやすさにあると思う。内面の脆さ、性格の未熟さ、妙に人との間に感じる割り切った感情。キャプテンとは違う人を惹きつける魅力がある。そう思ったが最後、妹の様に構って可愛がるのを止められなくなるのだ。
「だからさ、ペンギンが良く構うのも分かるなって話よ」
「あー…な。そうかもな」
「何照れてんだよ」
「言語化されると恥ずかしいなって」
片手で顔を覆うペンギンに何を今更。と顔を歪める。クルーたちも大方同じ感情で動いてるやつが多いだろう中で、ペンギンは一番態度に出ている。まさに今、目の前で広がっているこの状況だってその結果だろう。シャチだってついて来た時点でペンギンと同じぐらいの気持ちなのだと納得がいったから話したというのに。
照れながら煙草を地面で踏み消す相棒を見ながら呆れてしまう。木箱から腰を上げるとすぐ手の届く位置に置いていた刀を手に取った。ペンギンも槍を手に取ると「そろそろ帰るかァ」と立ち上がる。煙草の香りが移っていないかとつなぎの匂いを嗅ぐペンギンに何となく、匂いが取れないとイッカクにキレられる未来が見えた気がした。
「あれ、お前手の傷開いてね」
「うわっ ……キャプテン巻きなおしてくれるかな」
「…お、おい、おまえらっ」
「自分でやれって言われるかもな」
「あーあ、そうなったらフィリィにでも頼むかァ」
待てよ! と完全に背を向けた空間から聞こえた声に二人で振り返る。体が上手く動かないのか、痛みに耐えているのか、地面に突っ伏したまま話しかけて来る男に冷たい視線を投げかける。じっと言葉を待っているとペンギンが男に近づいていく。
「喧嘩に負けて、命見逃して貰っといてまだなんか言う事あんのか?」
「あの女、船員じゃないんだろ」
「だったらなんだよ」
「おれらに売ってくれ! 懸賞金から金は出す! 海賊だから海軍に引き渡しが出来ないんだろ! おれらが代わりに…」
早口で捲し立てるように喋っていた男の言葉はペンギンによって遮られた。正確にはペンギンの蹴りを食らった自分の呻き声で、だが。
内容が苛立ったのか命乞いの隙も与えずに蹴りを入れるペンギンに「あーあ」と呆れた声が漏れた。普段人当たりも良くって何にでも首を突っ込んで優しく接するのがペンギンだ。警戒心有るのか? とちょっと不安に思う時もあるが、それも含めて良いところだと思う。でも逆に怒らせたらとことん追い詰めるのもペンギンの方だ。シャチは逆に熱しやすく、冷めやすい。さっきまではシャチもペンギンと同じぐらい怒っていたが、今は痛そうだな。と思ってやる程度には冷静だ。
「悪いけどさァ、うちはそういう交渉船長に任せてるんだよね」
「あ゛、ぐ……ゆ、ゆるし……」
「だからさァ、おれらの前でそういう話しないでくんない? 悪いけど、話聞いてやれる程頭良くないからさ。何言ってんのかさっぱり分かんねェんだわ」
最後に腹に一発派手に蹴りを入れる。ちょっとやばそうな音がしたが、生きてはいるだろう。体に籠った怒りと熱を出す様に深々とため息を吐いたペンギンに「いくぞー」と声をかける。返事をしながらこちらに歩いて来る顔はすっかりいつも通りだった。
「おれ、ペンギンはフィリィのこと好きなのかなって思ってたんだけど」
「おいおいおい、お前までそれ言うか?」
「まあ聞けって」
思ってた、といっただろ。と話を遮る。ペンギンはどことなく納得のいかなさそうな顔をしながら煙草を口元に戻す。帽子のせいで目が見えないが、長い付き合いだ。仕草や少ししか見えない表情でどう思ってるかは大体わかる。
フィリィに関してはシャチも色々と思う所がある。子供の頃に大人という名の強者に虐げられてきた事、それすらも今はどうってことないと思っている事、不思議な出生と人工的な不思議な力。まあ、キャプテンが多少なりとも興味を持って船に乗せることを許可したのも納得がいくとも思う。本人から色々と聞いて面食らったが、今となっては良く話す仲であり、すっかり船に馴染んだなと感じることも多々ある。
そうして関係を構築していく中で、やはり異性として見る瞬間は出てくるのだ。どうしたって性別も違えば、シャチはペンギンと違って体の関係には積極的な方だ。あの体をいいなと見つめていた事がないと言えば噓になる。それでもシャチがフィリィに触らなかったのはどことなく感じる崩れやすさにあると思う。内面の脆さ、性格の未熟さ、妙に人との間に感じる割り切った感情。キャプテンとは違う人を惹きつける魅力がある。そう思ったが最後、妹の様に構って可愛がるのを止められなくなるのだ。
「だからさ、ペンギンが良く構うのも分かるなって話よ」
「あー…な。そうかもな」
「何照れてんだよ」
「言語化されると恥ずかしいなって」
片手で顔を覆うペンギンに何を今更。と顔を歪める。クルーたちも大方同じ感情で動いてるやつが多いだろう中で、ペンギンは一番態度に出ている。まさに今、目の前で広がっているこの状況だってその結果だろう。シャチだってついて来た時点でペンギンと同じぐらいの気持ちなのだと納得がいったから話したというのに。
照れながら煙草を地面で踏み消す相棒を見ながら呆れてしまう。木箱から腰を上げるとすぐ手の届く位置に置いていた刀を手に取った。ペンギンも槍を手に取ると「そろそろ帰るかァ」と立ち上がる。煙草の香りが移っていないかとつなぎの匂いを嗅ぐペンギンに何となく、匂いが取れないとイッカクにキレられる未来が見えた気がした。
「あれ、お前手の傷開いてね」
「うわっ ……キャプテン巻きなおしてくれるかな」
「…お、おい、おまえらっ」
「自分でやれって言われるかもな」
「あーあ、そうなったらフィリィにでも頼むかァ」
待てよ! と完全に背を向けた空間から聞こえた声に二人で振り返る。体が上手く動かないのか、痛みに耐えているのか、地面に突っ伏したまま話しかけて来る男に冷たい視線を投げかける。じっと言葉を待っているとペンギンが男に近づいていく。
「喧嘩に負けて、命見逃して貰っといてまだなんか言う事あんのか?」
「あの女、船員じゃないんだろ」
「だったらなんだよ」
「おれらに売ってくれ! 懸賞金から金は出す! 海賊だから海軍に引き渡しが出来ないんだろ! おれらが代わりに…」
早口で捲し立てるように喋っていた男の言葉はペンギンによって遮られた。正確にはペンギンの蹴りを食らった自分の呻き声で、だが。
内容が苛立ったのか命乞いの隙も与えずに蹴りを入れるペンギンに「あーあ」と呆れた声が漏れた。普段人当たりも良くって何にでも首を突っ込んで優しく接するのがペンギンだ。警戒心有るのか? とちょっと不安に思う時もあるが、それも含めて良いところだと思う。でも逆に怒らせたらとことん追い詰めるのもペンギンの方だ。シャチは逆に熱しやすく、冷めやすい。さっきまではシャチもペンギンと同じぐらい怒っていたが、今は痛そうだな。と思ってやる程度には冷静だ。
「悪いけどさァ、うちはそういう交渉船長に任せてるんだよね」
「あ゛、ぐ……ゆ、ゆるし……」
「だからさァ、おれらの前でそういう話しないでくんない? 悪いけど、話聞いてやれる程頭良くないからさ。何言ってんのかさっぱり分かんねェんだわ」
最後に腹に一発派手に蹴りを入れる。ちょっとやばそうな音がしたが、生きてはいるだろう。体に籠った怒りと熱を出す様に深々とため息を吐いたペンギンに「いくぞー」と声をかける。返事をしながらこちらに歩いて来る顔はすっかりいつも通りだった。