終の船
なまえの変更
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「なァ、フィリィ。おれにも昼飯つくってくれねェ?」
そういって自分を指さす船員を見たまま、フィリィは水道から注いでいた水をコップから溢れさせる。じゃばじゃばと音を立てながらシンクの中に落ちて行く水の音が誰も喋らない空間に響く。隣にいたペンギンに素早く顔を向けると綺麗に反対方向に顔を逸らされた。
「水かけるよ」
「ごめんなさい。口滑らせました」
すぐに白状したペンギンに手に付いた水を飛ばしながら水道の蛇口を捻る。ペンギンを含む数名の船員に一度だけ料理を作ったことがある。どうしても。と縋りつかれて断り切れなかったが、あの時に約束をしたはずだった。絶対に誰にも言わないと。
何かまずかっただろうかと困惑する船員には少しだけ待ってもらう事にして、まずはペンギンを問い詰める。
「……ローにはバレてないよね」
「うん。この前皆で飲みに行った時だから、キャプテンはいなかった」
「それ誰と行ったの?! まさか行った全員知ってるわけじゃないよね?!」
胸ぐらを掴めば「アッ、ゴメンナサイッ」と謝るペンギンに呆れて何も言えなくなる。ペンギンの方からまた食事を作って欲しいと言ってきたと思ったらこれだ。こうなったら匂いを嗅ぎつけられた瞬間に事情を知っている船員たちがキッチンに集まる可能性もある。
「痴話喧嘩か? キャプテンが妬くぞ」
「違う! とにかくもう作らないから!」
「え~! なんでだよ!」
怒らないで。と機嫌を取ってくるペンギンと作って欲しい。と泣きついて来る船員に挟まれて怒っているとローがキッチンに入ってきて全員の口が閉じる。今は昼食時で島に停泊をしている間は昼食は各自で取るように指示されているのでローがキッチンに来ることはおかしなことではない。
「何の争いだ」
「フィリィが飯を……」
「ちょっと!」
いっそ言ってしまえと口を開いたペンギンの口をフィリィが塞ぐ。その様子を見ながらローがぐっと眉を寄せたのを立ち尽くしていたクルーは見逃さなかった。ローと喧嘩する二人を交互に見ていると、ローとばっちり目が合う。
「で?」
「……フィリィが、昼飯作ってくれるって聞きまして」
圧に負けて白状したクルーにフィリィとペンギンの視線が向く。こっそり親指を立ててくるペンギンとは違いフィリィからの視線は痛い。ただ作った物が美味しいと聞いてたまたまキッチンに居たから飛びついただけなのに、どうしてこんなことになってしまったんだろう。
「ちょうどいい。おれにも作れ」
「え?」
「四人分は面倒か?」
「大丈夫、だけど……」
本当にいいのかと困惑するフィリィを置いてローは食堂の方へ行く。ここまで一緒に過ごしてきて、今更毒物の混入を疑うほどキャプテンが変人ではない事は居合わせてしまったクルーにも分かる。フィリィは少し納得いかない表情でペンギンから手を離すと「作るの手伝って」と言ってから大人しく料理を作り始めた。
***
バイト終わりの帰り道、フィリィはローに遭遇することが増えていた。たまたまなのか、わざとなのかは分からないがローが町に出る理由も知っているし、路地で追いかけて来る視線を自分で振り切る必要がないので助かっている。並んで歩く時も会話は少ないが前程に何か話さなければと必要に迫られる事も無かった。
「お花、いりませんか」
目の前に急に飛び出して来た少女に二人で驚きながら足を止める。綺麗にまとめられた花束を持った姿にフィリィは視線を合わせると緩く微笑んだ。
「いくら?」
「えーっと……」
少女は困ったように視線をさ迷わせた後、通りの端で花を売っているワゴンの方を見た。少女の視線に気づいたのか、母親らしき人物が慌てて駆け寄ってくる。
「す、すいません! ご迷惑を」
「いいえ。綺麗だから買おうかなって思って」
値段を聞けば隣で黙って見ていたローが少女にお金を渡す。少女は嬉しそうに目を輝かせた後、フィリィに花束を渡すとぎゅっと母親の足にしがみついた。可愛さに顔を緩ませていると「すいません。ありがとうございます」と頭を下げながら母親は店の方に戻っていく。手を引かれながら恥ずかしそうに小さく手を振る少女に微笑んでから歩き出したローを追った。
「ローって花好きなの?」
「おれはいい。おまえが貰っとけ」
それっきり口を閉じたローを一度見上げてから、綺麗にまとめられた花を見る。確か船の倉庫に置き去りにされていた花瓶があったはずだ。許可だけ取って使わせてもらおう。フィリィは花の香りを楽しみながら、ローが少女に向けた懐かしむような視線が少し、胸に引っかかっていた。
そういって自分を指さす船員を見たまま、フィリィは水道から注いでいた水をコップから溢れさせる。じゃばじゃばと音を立てながらシンクの中に落ちて行く水の音が誰も喋らない空間に響く。隣にいたペンギンに素早く顔を向けると綺麗に反対方向に顔を逸らされた。
「水かけるよ」
「ごめんなさい。口滑らせました」
すぐに白状したペンギンに手に付いた水を飛ばしながら水道の蛇口を捻る。ペンギンを含む数名の船員に一度だけ料理を作ったことがある。どうしても。と縋りつかれて断り切れなかったが、あの時に約束をしたはずだった。絶対に誰にも言わないと。
何かまずかっただろうかと困惑する船員には少しだけ待ってもらう事にして、まずはペンギンを問い詰める。
「……ローにはバレてないよね」
「うん。この前皆で飲みに行った時だから、キャプテンはいなかった」
「それ誰と行ったの?! まさか行った全員知ってるわけじゃないよね?!」
胸ぐらを掴めば「アッ、ゴメンナサイッ」と謝るペンギンに呆れて何も言えなくなる。ペンギンの方からまた食事を作って欲しいと言ってきたと思ったらこれだ。こうなったら匂いを嗅ぎつけられた瞬間に事情を知っている船員たちがキッチンに集まる可能性もある。
「痴話喧嘩か? キャプテンが妬くぞ」
「違う! とにかくもう作らないから!」
「え~! なんでだよ!」
怒らないで。と機嫌を取ってくるペンギンと作って欲しい。と泣きついて来る船員に挟まれて怒っているとローがキッチンに入ってきて全員の口が閉じる。今は昼食時で島に停泊をしている間は昼食は各自で取るように指示されているのでローがキッチンに来ることはおかしなことではない。
「何の争いだ」
「フィリィが飯を……」
「ちょっと!」
いっそ言ってしまえと口を開いたペンギンの口をフィリィが塞ぐ。その様子を見ながらローがぐっと眉を寄せたのを立ち尽くしていたクルーは見逃さなかった。ローと喧嘩する二人を交互に見ていると、ローとばっちり目が合う。
「で?」
「……フィリィが、昼飯作ってくれるって聞きまして」
圧に負けて白状したクルーにフィリィとペンギンの視線が向く。こっそり親指を立ててくるペンギンとは違いフィリィからの視線は痛い。ただ作った物が美味しいと聞いてたまたまキッチンに居たから飛びついただけなのに、どうしてこんなことになってしまったんだろう。
「ちょうどいい。おれにも作れ」
「え?」
「四人分は面倒か?」
「大丈夫、だけど……」
本当にいいのかと困惑するフィリィを置いてローは食堂の方へ行く。ここまで一緒に過ごしてきて、今更毒物の混入を疑うほどキャプテンが変人ではない事は居合わせてしまったクルーにも分かる。フィリィは少し納得いかない表情でペンギンから手を離すと「作るの手伝って」と言ってから大人しく料理を作り始めた。
***
バイト終わりの帰り道、フィリィはローに遭遇することが増えていた。たまたまなのか、わざとなのかは分からないがローが町に出る理由も知っているし、路地で追いかけて来る視線を自分で振り切る必要がないので助かっている。並んで歩く時も会話は少ないが前程に何か話さなければと必要に迫られる事も無かった。
「お花、いりませんか」
目の前に急に飛び出して来た少女に二人で驚きながら足を止める。綺麗にまとめられた花束を持った姿にフィリィは視線を合わせると緩く微笑んだ。
「いくら?」
「えーっと……」
少女は困ったように視線をさ迷わせた後、通りの端で花を売っているワゴンの方を見た。少女の視線に気づいたのか、母親らしき人物が慌てて駆け寄ってくる。
「す、すいません! ご迷惑を」
「いいえ。綺麗だから買おうかなって思って」
値段を聞けば隣で黙って見ていたローが少女にお金を渡す。少女は嬉しそうに目を輝かせた後、フィリィに花束を渡すとぎゅっと母親の足にしがみついた。可愛さに顔を緩ませていると「すいません。ありがとうございます」と頭を下げながら母親は店の方に戻っていく。手を引かれながら恥ずかしそうに小さく手を振る少女に微笑んでから歩き出したローを追った。
「ローって花好きなの?」
「おれはいい。おまえが貰っとけ」
それっきり口を閉じたローを一度見上げてから、綺麗にまとめられた花を見る。確か船の倉庫に置き去りにされていた花瓶があったはずだ。許可だけ取って使わせてもらおう。フィリィは花の香りを楽しみながら、ローが少女に向けた懐かしむような視線が少し、胸に引っかかっていた。