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DC夢 降谷ver

お前にまだ教えていない事があった




私は公務員である。

警視庁の公安部で働いている。風見さんという大変頼りになる先輩の補助をしながら日々職務に邁進している。

風見さんは『ゼロ』という公安でも特別な機関とのパイプ役を担っている。そんな風見さんが別の任務で離れなければいけなくなった時、私がその後任に選ばれた。
実力からいえばまだまだ未熟な私だが、風見さんの推薦で決まったのだという。

そしてその任務に当たった時、上司となったのがこの、今私の膝の上で仮眠している(金髪サラサラで気持ちいい髪!)降谷さんである。

「……」

警察庁でも屈指のエリート、私とは階級も役職も立場も全然違う人だが部下となってから色々あってクリスマスの日に晴れて恋人となった。
恋人になったものの、年を越してからは年度末に向けて一番忙しい時期である。通常でも異動や昇任、退任や諸々の引き継ぎや準備に追われる時期だ。
それに加えて(通常とは言い難い)危険で緊急な任務などがあり、気がつけばもう3月も半ばを過ぎた。

という訳で、年末に恋人になったもののそれらしい関係を築く暇も時間もないまま3ヶ月が経とうとしていた。

私は時々こうして降谷さんの休憩に付き合う事しか出来ていなかった。
激務の降谷さんにプライベートまで無理をさせる訳にはいかないからだ。
そうして今、降谷さんは私の膝枕で仮眠を取っている。

はっきり言おう、激萌えである。

(あの!降谷さんが!私の!膝の上で寝てる!)

徹夜が続いて何日目かという所で風見先輩からお声がかかった。
“降谷さんを休ませるのも部下であるお前の仕事だ”
という指示で。それは私と降谷さんの関係を唯一知っていた先輩からの指示でありアドバイスでもあった。

恋人なんて言い切れる?という位の距離感だし庁舎の中では上司と部下だ。勤務時間以外は休みが被る事さえない。
何それ、本当に付き合ってるの?

うん、私もそう思い始めてた。確かに忙しいしプライベートだって忙殺されてる。
でもたった一つ、私が降谷さんの恋人かもしれないと思い直した切っ掛けはこれだった。






「矢吹、ちょっといいか」

「はい」

ある日降谷さんに呼ばれて小規模な会議室に二人で入った時の事だった。
ドアの表には“空室”から“使用中”という赤いプレートに変えられて中に入った。

そして降谷さんにこう言われたのだ。

「そこに座れ」

「はい」

降谷さんが指し示すパイプ椅子に座った。すると降谷さんはそれ以外のパイプ椅子を私の横に幾つか並べて、これでよしと言った。

私がどうしたのかと尋ねる前に降谷さんは私の隣に座ったかと思うと頭を私の膝の上に乗せてきた。

「…えっ!?」

「なんだ」

「えっ、だって…」

これって膝枕だよね?と私は自問自答する。すると降谷さんはあろうことか私の膝まで撫でている。

「降谷さん!」

「さっきからなんだ」

「あの、これ、どう…」

どういう事なんですか?と聞きたいが聞けない。あまりにも当たり前のように膝枕されているからだ。

「俺は三徹目だ」

「知ってます」

「だから眠い」

「分かります」

「だからお前の膝で寝る、以上だ」

すみません、途中が省かれ過ぎて私には分かりませんでした。

「でも仮眠ならちゃんとベッドで横になった方が休めるんじゃないですか?」

「お前は俺の恋人だよな?」

「は、はい。恐れ多くも…」

「恋人とベッドに行って休めると思うか?」

「休…めると思いますが、私がいない方が休めると思います」

「!?……お前、いや、…そうきたか」

降谷さんは一瞬すごく驚いた顔をしたがその後妙に納得していた。私は何か答えを間違ってしまったらしい。

「仮眠室は駄目だ、落ち着かない」

「困りましたね…」

「20分したら起こしてくれ。その間はお前の好きにしてていい」

「す、好きに!?」

本当ですか!?と思わず食い付き気味に返してしまったのは仕方ないだろう。
だってあの(雲の上の人の)降谷さんを好きにしてていいと言われたんだから。

どうしよう、何しよう。
どこからがセクハラかな?
何て考えてると降谷さんは完全に切り替えたのか、目を閉じて眠りに入ってしまった。

っていうか睫毛長っ!
ビューラーで巻いてるの?ってくらい綺麗な目元だ。それにリップグロスはどこのものをお使いですか?というくらい艶やかな唇だ。
髪は綺麗な金糸でサラサラ。どこの美容室に通ってるんですか?なんて次から次へと観察してしまう。

ただしどこを見ても完璧な造形なのだ。

勿論庁舎内にもファンはいる。当然モテるし恋人にだって困った事はないだろう。
仕事だって出来るし頭もいい、スポーツも万能で料理も上手いらしい。
そんなパーフェクトな降谷さんが私の膝枕で眠っている。

何これ、最高……………。

私は本人の合意のもとと判断してそっと柔らかそうな髪に触れてみた。
初めはそっと、少ししてから触れるように、気付かれないように前髪を指で動かしてみた。

「ふふ」

耳にかかる髪に触ってみたり、額を手の平で撫でてみたりした。

「…かわいい」

思わず呟いてしまった本音を降谷さんに聴かれてしまっただろうか?かわいいなんて言ったらすごい顔で“は!?”と返されそうだ。

たった20分の癒しを満喫すると降谷さんは時間通りに目を覚ました。私は何事もなかった顔で対応した。
そんな事があって、降谷さんは私の膝枕(と膝)が気に入ったらしく小まめに呼び出されるようになったのだ。

そして今日、今に至る。

今もいつものように膝枕をしていた。ただ今日がいつもと違うのはその時間帯だ。
いつもならお昼から夕方にかけてが多かったのに今日はもう夜になっていた。外も暗いし辺りは静かになっていた。

降谷さんと私はやっと仕事の山場を越えて少しホッとしていた。明日からはもう少し余裕も出てくるだろう、今日まで本当に忙しかったから。

「…お疲れ様です」

私は少し緩んだ降谷さんのネクタイを触れた。ボタンが外されていて、隙間から鎖骨がチラリと見えた。

(すごくエッチなんですが!!)

目のやり場に困るとはこういう事だった。
見ちゃダメ、見ちゃダメ、危険物につき取り扱い注意だ。
私は遊ばせていた手を引っ込めようとした、その時…


「おい」

「はっ!、はい!?」

降谷さんの手が私の腕を掴んだ。そしていつの間にかパッチリと目を開けている。私の眼下で。

ヤバい、セクハラだと怒られる。

「今、何考えてた?」

「すみません!出来心でした!降谷さんにそんなこと…」

「そんなこと?どんなことだ」

「そんなの無理です言えません!」

「口には出来ないようなことなんだな」

あああああ、どうしようご立腹だ。セクハラで訴えられる、絶対私が有罪だ。
私は顔を両手で覆って空に向かって祈りを捧げたい、いやもう捧げている。

「…お前さ」

降谷さんは起き上がって私を間近で見ている。やめて見ないで、そんなパーフェクトな顔をして近づくなんて卑怯である。

「俺の寝てる間、何してた?」

「だってネクタイが…」

緩んでるから気になりました、と正直に白状した。すると降谷さんは面白そうにクックッと笑った。

「わざとだよ」

「えっ!?」

「お前の反応が見たかっただけ。毎回色々やってくれてたみたいだけどな」

「ええっ!?起きてたんですか!?」

嘘でしょ!!と思わず言ってしまった。
髪とか頭とか耳とか触りまくってたんですけど!全部バレてたんですか!

「あれだけ触られて寝てられる訳ないだろ」

「す…………すみませんでした!!」

安眠の妨害なんて!降谷さんに休んでもらうつもりだったのに。私のせいで眠れなかったなんて。どうしよう、安眠妨害の上にセクハラしてたなんて…。猛省している私とは対照的に降谷さんは満足そうに笑っていた。

「お前がいつ仕掛けてくるかと思って待ってたが…」

「??」

何ですか、何でそんなに楽しそうなんですか降谷さん。
ふ、と降谷さんは笑みを深くして私のすぐそばまで来る。そして私の耳元でこう囁いた。




「お前にまだ教えていないことがあった」




耳元から這い上がるようなその声に私は全身に電流が流れた。十分なほどに色を含んだそれは私の身体をピシッと硬直させ、でも顔はこれ以上なく赤く熱を持った。

動けない、たった一言囁かれただけなのに。

「お前が望むなら俺に触れてもいいんだぞ。俺が教えてやろうか?」

降谷さんは私がそうして触れたように私の髪に触れた。
耳に触れた。
首に触れた。

そして最後に____

「お前の好きにしてていいと言った。だから俺もお前が寝てる間は好きにしていいよな?」

私は明日休みなのだ。
勿論降谷さんはそれを知っている。
そして休みなのは私だけじゃない。

「これからお前の家でじっくり指導だな」

「えっ、えっ、…えっ?」

「帰るぞ」

降谷さんは元気に立ち上がると私の手を引いて立たせた。私がその勢いによろめくとそれも計算だったのか腕を引いて私を抱き止めた。

「今日まで我慢したんだ、ご褒美が欲しくないか?」

ご褒美?それはどんなもの?

「とっておきの極上なものだ。俺から恋人おまえに」

欲しくないか?と降谷さんは私に聞く。
それはそれはとろけそうな声色で。




「___欲しいです」




私はただただ素直に答えた。

それ以外の答えはもう選べるはずもなかった。だって私も___。















翌朝、恋人による教育的指導の成果により私はベッドの中で過ごすことになりました。






終わり



*続きは降谷さんがシュレッダーにかけてしまいましたので続きません。
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