【2018・年賀状企画】
死神派遣協会に、正月休みはない。年末年始もクリスマスも、夏休みや冬休みだってない。それは死神が人間の『死』を管理する職業で、『死』には決まった休みなどないからだ。
逆に、年末年始の寒い時期には自ら命を絶つ人間が増えるというデータさえあって、今日も派遣協会は平常運転で大忙しなのだった。
「今日、何日だったカシラ……二日? 三日?」
グレルが真っ赤な長髪をデスクに散らせて、突っ伏しながらぼんやりと訊く。
「さあ? そんな事知って、どうするんスか」
緩慢にタイピングしていた手を休め、ロナルドがグレルの方を向く。
「どうだって良いだろ……。大晦日だろうが元旦だろうが、俺たちにゃ関係ねぇ……」
エリックはデスクに肘をついて顎を支え、瞼を閉じて今にも寝入ってしまいそうな吐息で呟いた。
「皆さん、ちょっと休憩しませんか? コーヒー淹れてきました。濃いめのヤツ」
そこへアランが、紙コップの四つ乗ったトレイを持って声を掛ける。三人分の嬉しい溜め息が上がった。
「グレルさんは砂糖二杯、ロナルドはミルクだけだったな」
「アラン先輩! ありがとうございます!」
「いつも淹れてる訳じゃないのに、よく覚えてるワネ、アンタ。戴くワ」
「エリックさんは、特別濃いめのブラックにしてあります」
「アラン~、お前、男にしとくのが勿体ないな。女なら、確実に口説いてる。愛してるぞアラン~」
エリックが両の拳を思い切り上げて欠伸しながら、間延びした声を出す。アランはそれぞれのデスクにそれぞれの好みのコーヒーを置きながら、頬を淡く染め上げた。
「よしてください、エリックさん。冗談でも、何だか照れ臭いです……」
最後に、自分の分のカフェオレをデスクに置いて座り、アランはモゴモゴと口篭もる。
「旨い!!」
極めつきのブラックコーヒーを一口含んで、エリックはすっかり目が冴えたようだった。
「良かったです」
まだほんのりと上気しながらも、アランが笑顔を見せる。
「サボリ……ではないようですね。アラン・ハンフリーズも居るという事は。皆さん、休憩中ですか」
その時ふいに、硬質な声が降ってきた。アラン以外の三人が、思わずギクリと肩を竦める。
先ほどまでの惨状を見られていたら、間違いなく説教コースだっただろう。アランの気遣いによって、三人はピンチを免れたのだった。
「はい、ウィリアムさん。ちょうど今、コーヒーを淹れてきた所です。よろしかったら、ウィリアムさんもどうですか?」
朗らかに言うアランに、だがウィリアムは神経質に眼鏡を押し上げて、慇懃無礼にも聞こえる台詞を返す。
「いえ。お気遣いは感謝します、アラン・ハンフリーズ。仕事が溜まっていますので」
「そうですか。でも、休憩はとってくださいね」
「ありがとうございます」
だがウィリアムがこの調子なのはいつもの事なので、アランは笑顔を崩す事もなく、分け隔てなく気遣う。
アランに注がれていた黄緑の眼差しが、今度はグレルの方を向いた。
「は、ウィル、何っ?」
ウィリアムが用件を伝える前から、グレルは同じ黄緑の瞳をハートマークにして両手を胸の前で握り合わせた。手にしていた数枚の書類を差し出し、ウィリアムは長身から冷ややかに見下す。
「グレル・サトクリフ。始末書と報告書のやり直し分です。赤ペンが入れてありますから、今日中に提出してください」
「今日中!? ただでさえ残業確実なのに!?」
「貴方がギリギリに提出したからでしょう。自業自得です」
「分かったワ、ウィル……一緒に愛の残業しまショ」
頬を赤らめて小指を噛むグレルを華麗に無視して、ウィリアムは食い気味に視線を動かした。
「ロナルド・ノックスは、帰る前に管理課に寄ってください」
「へーい」
ウィリアムに呼び出されると言ったら、昔で言えばリーゼントの不良グループに体育館裏に呼び出されるも同義だったが、何故かロナルドはウィリアムにとびきりの笑顔を向けて軽快な返事をした。
「エリック・スリングビーとアラン・ハンフリーズは、七連勤でしたから、今日は定時で上がって頂いて結構です」
「やりぃ!」
「ありがとうございます!」
エリックとアランは、ウィリアムにおのおの個性の表れた礼を述べた後、顔を見合わせて微笑み合った。
逆に、年末年始の寒い時期には自ら命を絶つ人間が増えるというデータさえあって、今日も派遣協会は平常運転で大忙しなのだった。
「今日、何日だったカシラ……二日? 三日?」
グレルが真っ赤な長髪をデスクに散らせて、突っ伏しながらぼんやりと訊く。
「さあ? そんな事知って、どうするんスか」
緩慢にタイピングしていた手を休め、ロナルドがグレルの方を向く。
「どうだって良いだろ……。大晦日だろうが元旦だろうが、俺たちにゃ関係ねぇ……」
エリックはデスクに肘をついて顎を支え、瞼を閉じて今にも寝入ってしまいそうな吐息で呟いた。
「皆さん、ちょっと休憩しませんか? コーヒー淹れてきました。濃いめのヤツ」
そこへアランが、紙コップの四つ乗ったトレイを持って声を掛ける。三人分の嬉しい溜め息が上がった。
「グレルさんは砂糖二杯、ロナルドはミルクだけだったな」
「アラン先輩! ありがとうございます!」
「いつも淹れてる訳じゃないのに、よく覚えてるワネ、アンタ。戴くワ」
「エリックさんは、特別濃いめのブラックにしてあります」
「アラン~、お前、男にしとくのが勿体ないな。女なら、確実に口説いてる。愛してるぞアラン~」
エリックが両の拳を思い切り上げて欠伸しながら、間延びした声を出す。アランはそれぞれのデスクにそれぞれの好みのコーヒーを置きながら、頬を淡く染め上げた。
「よしてください、エリックさん。冗談でも、何だか照れ臭いです……」
最後に、自分の分のカフェオレをデスクに置いて座り、アランはモゴモゴと口篭もる。
「旨い!!」
極めつきのブラックコーヒーを一口含んで、エリックはすっかり目が冴えたようだった。
「良かったです」
まだほんのりと上気しながらも、アランが笑顔を見せる。
「サボリ……ではないようですね。アラン・ハンフリーズも居るという事は。皆さん、休憩中ですか」
その時ふいに、硬質な声が降ってきた。アラン以外の三人が、思わずギクリと肩を竦める。
先ほどまでの惨状を見られていたら、間違いなく説教コースだっただろう。アランの気遣いによって、三人はピンチを免れたのだった。
「はい、ウィリアムさん。ちょうど今、コーヒーを淹れてきた所です。よろしかったら、ウィリアムさんもどうですか?」
朗らかに言うアランに、だがウィリアムは神経質に眼鏡を押し上げて、慇懃無礼にも聞こえる台詞を返す。
「いえ。お気遣いは感謝します、アラン・ハンフリーズ。仕事が溜まっていますので」
「そうですか。でも、休憩はとってくださいね」
「ありがとうございます」
だがウィリアムがこの調子なのはいつもの事なので、アランは笑顔を崩す事もなく、分け隔てなく気遣う。
アランに注がれていた黄緑の眼差しが、今度はグレルの方を向いた。
「は、ウィル、何っ?」
ウィリアムが用件を伝える前から、グレルは同じ黄緑の瞳をハートマークにして両手を胸の前で握り合わせた。手にしていた数枚の書類を差し出し、ウィリアムは長身から冷ややかに見下す。
「グレル・サトクリフ。始末書と報告書のやり直し分です。赤ペンが入れてありますから、今日中に提出してください」
「今日中!? ただでさえ残業確実なのに!?」
「貴方がギリギリに提出したからでしょう。自業自得です」
「分かったワ、ウィル……一緒に愛の残業しまショ」
頬を赤らめて小指を噛むグレルを華麗に無視して、ウィリアムは食い気味に視線を動かした。
「ロナルド・ノックスは、帰る前に管理課に寄ってください」
「へーい」
ウィリアムに呼び出されると言ったら、昔で言えばリーゼントの不良グループに体育館裏に呼び出されるも同義だったが、何故かロナルドはウィリアムにとびきりの笑顔を向けて軽快な返事をした。
「エリック・スリングビーとアラン・ハンフリーズは、七連勤でしたから、今日は定時で上がって頂いて結構です」
「やりぃ!」
「ありがとうございます!」
エリックとアランは、ウィリアムにおのおの個性の表れた礼を述べた後、顔を見合わせて微笑み合った。