【2018・年賀状企画】
ゆっくりとソファの上に押し倒されて、アランのブラウンの髪がサラサラと、オフホワイトの座面に鮮やかに散る。エリックは、触れていない所が一つもないようにとでもいうように、アランの顔中を唇で愛おしんだ。快感に掠れた声が上がる。
「エリッ、クさん……知ってたんですか?」
「ああ。『愛の告白』、な。お前は俺のついだポートワインを呑んだ。俺たちはもう、恋人だ」
「う……っく」
アランが声を詰まらせる。
「わっ。馬鹿、何泣いてんだ」
「嬉しく、て……」
エリックが僅かに笑みながら、心底困ったような顔をする。
「そんな可愛い事言うな。今襲ったら、明日お前が出勤出来ねぇから、何とか理性で我慢してるんだ」
熱い素手の親指で、涙を拭う。アランの涙も、同じくらい熱かった。
「好き、です。エリックさん」
「ああ、愛してる……アラン。だけど」
「……ん?」
「次にお前が休みの日まで、これ以上は自粛する。だから、アランも俺を煽らないでくれ」
涙が乗って煌めく睫毛をしばたたかせて、アランは言葉の意味を考えたが、味わった事のない快感に蕩けた意識では答えは出なかった。素直に疑問を口にする。
「具体的に、どうすれば良いんですか……?」
「だから、今みたいに、好きとか言うな。その日が来るまで、俺たちの関係は『友情』だ」
派遣協会は、常に人員不足の、人間界で言うなればブラック企業だ。次にアランが休みになるのは、三日後か、はたまた二週間後か、全く予想がつかなかった。
「……うん。『友情』、ですね。エリックさん」
「ああ。起きられるか?」
「何か……力抜けちゃった」
エリックは、テーブルにチラと視線を送る。
「料理……胸がいっぱいで食えそうもねぇ」
「ごめん、俺も……」
その同意に、エリックが思いがけず破顔した。四十年間パートナーを組んでいたが、こんな笑顔を見るのは初めてだと、アランは密かにふっくらと口角を上げた。
「冷蔵庫にしまって、明日の朝、食べよう」
「そうだな。しまってくる」
エリックが立ち上がって、先に言った通り器用に大皿を三枚同時に、キッチンに運んでいった。
アランはソファに横たわったまま、これが夢で、今にも目が覚めてしまうのではないかと危惧していた。だが一向に目は覚めず、冷蔵庫のドアが開閉される音の後、エリックが戻ってきてアランを抱き起こした。そのまま横抱きにして、ベッドに運ぶ。
「シングルじゃ狭いな。俺が責任取って、キングサイズのベッド、買ってやる」
「え……うん」
その意味を考えて、今度は正しく理解して、アランは耳の先まで紅くなった。エリックが微かに首を振る。
「ああ、だから、いちいちそういう可愛い反応をするな」
「だって……俺の意思じゃ、どうにもならない」
区切りをつけるように、エリックが一つ、大きく息を吐いた。
「俺はソファで寝る。これは、『友情』のおやすみのキスだ」
額に一度きり、だが長く口付けが落とされた。唇が離れると、アランが瞑っていた仄紅い瞼を開く。
「うん。今は、『友情』でいい」
「おやすみ、アラン」
「おやすみなさい、エリック……あ」
「ん?」
「ハッピーニューイヤー」
律儀なその言葉に、エリックは片頬を上げた。アランの好きな笑みだった。
「ああ。今年もよろしく、アラン」
「うん。ずっと、ずうっと、よろしく」
図らずも二人はこの時、同じ事を考えていた。ずっと、そう──永遠に。
End.
「エリッ、クさん……知ってたんですか?」
「ああ。『愛の告白』、な。お前は俺のついだポートワインを呑んだ。俺たちはもう、恋人だ」
「う……っく」
アランが声を詰まらせる。
「わっ。馬鹿、何泣いてんだ」
「嬉しく、て……」
エリックが僅かに笑みながら、心底困ったような顔をする。
「そんな可愛い事言うな。今襲ったら、明日お前が出勤出来ねぇから、何とか理性で我慢してるんだ」
熱い素手の親指で、涙を拭う。アランの涙も、同じくらい熱かった。
「好き、です。エリックさん」
「ああ、愛してる……アラン。だけど」
「……ん?」
「次にお前が休みの日まで、これ以上は自粛する。だから、アランも俺を煽らないでくれ」
涙が乗って煌めく睫毛をしばたたかせて、アランは言葉の意味を考えたが、味わった事のない快感に蕩けた意識では答えは出なかった。素直に疑問を口にする。
「具体的に、どうすれば良いんですか……?」
「だから、今みたいに、好きとか言うな。その日が来るまで、俺たちの関係は『友情』だ」
派遣協会は、常に人員不足の、人間界で言うなればブラック企業だ。次にアランが休みになるのは、三日後か、はたまた二週間後か、全く予想がつかなかった。
「……うん。『友情』、ですね。エリックさん」
「ああ。起きられるか?」
「何か……力抜けちゃった」
エリックは、テーブルにチラと視線を送る。
「料理……胸がいっぱいで食えそうもねぇ」
「ごめん、俺も……」
その同意に、エリックが思いがけず破顔した。四十年間パートナーを組んでいたが、こんな笑顔を見るのは初めてだと、アランは密かにふっくらと口角を上げた。
「冷蔵庫にしまって、明日の朝、食べよう」
「そうだな。しまってくる」
エリックが立ち上がって、先に言った通り器用に大皿を三枚同時に、キッチンに運んでいった。
アランはソファに横たわったまま、これが夢で、今にも目が覚めてしまうのではないかと危惧していた。だが一向に目は覚めず、冷蔵庫のドアが開閉される音の後、エリックが戻ってきてアランを抱き起こした。そのまま横抱きにして、ベッドに運ぶ。
「シングルじゃ狭いな。俺が責任取って、キングサイズのベッド、買ってやる」
「え……うん」
その意味を考えて、今度は正しく理解して、アランは耳の先まで紅くなった。エリックが微かに首を振る。
「ああ、だから、いちいちそういう可愛い反応をするな」
「だって……俺の意思じゃ、どうにもならない」
区切りをつけるように、エリックが一つ、大きく息を吐いた。
「俺はソファで寝る。これは、『友情』のおやすみのキスだ」
額に一度きり、だが長く口付けが落とされた。唇が離れると、アランが瞑っていた仄紅い瞼を開く。
「うん。今は、『友情』でいい」
「おやすみ、アラン」
「おやすみなさい、エリック……あ」
「ん?」
「ハッピーニューイヤー」
律儀なその言葉に、エリックは片頬を上げた。アランの好きな笑みだった。
「ああ。今年もよろしく、アラン」
「うん。ずっと、ずうっと、よろしく」
図らずも二人はこの時、同じ事を考えていた。ずっと、そう──永遠に。
End.