【2018・年賀状企画】
* * *
酒と食材を買い込んで、二人はアランのアパートへとやってきた。忙しいながらも、一応年末に大掃除を済ませていたその部屋は、スッキリと片付いて快適な空間だった。
「凄げぇな、アランち。モデルルームみてぇだな」
「たまたま、年始だからですよ」
「俺、大掃除どころか小掃除もやってねぇ」
親父ギャグの香りがしたが、あばたもえくぼだ。アランはふふと笑って、エリックをキッチンへと案内した。
「じゃ、俺はつまみ作るから、アランは酒を用意してくれよ」
「はい!」
アランがリクエストしたのは、ポートワインだった。ブランデーがブレンドされた、甘口で呑みやすいワインだ。
調理をするエリックの後ろで、アランはワイングラスや皿の用意をする。アランの出した大皿に、魔法のように次々とつまみが盛り付けられていった。
スライスポテトのパルメザンチーズ焼き、エビのオイルソース和え、芽キャベツのソテー。どれもシンプルで簡単なのに、ワインとしっくりきそうなつまみだった。
「あ、俺も持っていきます!」
器用に三つの皿を腕にも乗せて運ぼうとしたエリックから、皿をひとつ受け取って、アランはそれをリビング兼ダイニングに運ぶ。1Kなのでダイニングテーブルを置く余裕はなく、シングルベッドと小さめの二人掛けソファと背の低いガラステーブルがインテリアの全てだった。
「エリックさん、器用ですね」
ガラステーブルに大皿を置いて言うと、エリックは意外な一面を見せた。
「ああ、学生の頃ずっと、レストランでバイトしてたからな。四皿までなら、一度に運べる」
「凄い……!」
その言葉と、良い香りのする出来たてのつまみに向けた感嘆だった。
「大袈裟だな」
「だって俺、トーストと目玉焼きくらいしか作れないですもん。絶対凄いです、エリックさん!」
妙に力説するアランに、エリックが小さく噴き出して、ブラウンの頭にポンポンと掌を置いた。機嫌の良い時のエリックがたまにする行為で、アランはこれも好きだった。
ソファは二人掛けだがガタイのいいエリックが座ると、二人の肩や太ももが触れ合ってしまい、アランはギクシャクと鼓動が早くなるのを意識する。
「あ! ワインつぎます!」
エリックがボトルに手を伸ばすのを見て、アランも慌てて掴もうとした。
「あっ……」
だが先にエリックの方がボトルを掴み、上からアランが掌を重ねる形になってしまう。アランは思わずパッと手を引いて、ますます早くなる鼓動が肩を伝って知られてしまうのではないかと恥じた。
「俺がつぐ」
エリックが言って、葡萄色の液体が、二つのワイングラスに満たされる。それをアランは、そわそわと視線を泳がせて見守っていた。
「ほらよ」
グラスが渡されて、アランは受け取った。受け取ってしまった。複雑な気持ちで、その初めて口にする事になる酒を見詰める。
(こんなに気軽につぐって事は、エリックさんはカクテル言葉を知らないんだな……)
ポートワインのカクテル言葉は、『愛の告白』だった。これを勧めて、相手が呑めばカップル成立となる。一抹の期待を込めてリクエストしたのだが、想いは伝わりそうにもなかった。
「乾杯しよう」
「何に?」
「ニューイヤーに」
(やっぱり、知らないんだな)
「……はい。ニューイヤーに」
グラスが軽く触れ合って、澄んだ音を立てた。
アランは落胆に眉尻を下げながら、一口含む。甘口で、下戸に誓いアランにも比較的呑みやすい味だったが、普通のワインよりもアルコール度数が高い事を知っていたから、俯いてそれ以上は呑まなかった。
「……クッ」
「え?」
ふいにエリックが我慢出来ないように噴き出して、アランは不思議に顔を上げた。エリックは片手にグラス、片手で額を押さえ、くつくつと笑いを噛み殺していた。触れ合った肩から、小刻みな震えが伝わってくる。
「エリックさん……?」
「お前、ホント分かり易いよな。俺みたいな不良死神に引っ掛からねぇよう、随分自重したんだぜ」
エリックはグラスをテーブルに置くと、アランの分のグラスも奪い取ってテーブルに置いた。
「だけどアラン……男を部屋に上げるのに、ポートワインは駄目だ。もう、逃がしてやれねぇ……」
「え、エリックさ……んんっ」
アランの頬を両掌で包み込み、角度をつけて唇を食む。調理の為に革手袋は外していたから、熱い体温がエリックからアランに分けられた。
「ん……ふ……」
アランは、こんなキスは知らなかった。舌が絡められ、引き出され、吸われ、甘噛みされる。上顎の奥を優しく舐めて探られると、きゅんと胸が締め付けられるような切なさに、息が乱れて苦しいのだった。
「はぁ……」
一分が、永遠にも思える瞬間だった。濡れて艶やかに光る唇から紅い舌をチロリと覗かせたまま、為す術もなく喘いでいると、一度離れた唇がもう一度、ちゅるりとそれを吸った。
「んっ……」
「アラン……」
酒と食材を買い込んで、二人はアランのアパートへとやってきた。忙しいながらも、一応年末に大掃除を済ませていたその部屋は、スッキリと片付いて快適な空間だった。
「凄げぇな、アランち。モデルルームみてぇだな」
「たまたま、年始だからですよ」
「俺、大掃除どころか小掃除もやってねぇ」
親父ギャグの香りがしたが、あばたもえくぼだ。アランはふふと笑って、エリックをキッチンへと案内した。
「じゃ、俺はつまみ作るから、アランは酒を用意してくれよ」
「はい!」
アランがリクエストしたのは、ポートワインだった。ブランデーがブレンドされた、甘口で呑みやすいワインだ。
調理をするエリックの後ろで、アランはワイングラスや皿の用意をする。アランの出した大皿に、魔法のように次々とつまみが盛り付けられていった。
スライスポテトのパルメザンチーズ焼き、エビのオイルソース和え、芽キャベツのソテー。どれもシンプルで簡単なのに、ワインとしっくりきそうなつまみだった。
「あ、俺も持っていきます!」
器用に三つの皿を腕にも乗せて運ぼうとしたエリックから、皿をひとつ受け取って、アランはそれをリビング兼ダイニングに運ぶ。1Kなのでダイニングテーブルを置く余裕はなく、シングルベッドと小さめの二人掛けソファと背の低いガラステーブルがインテリアの全てだった。
「エリックさん、器用ですね」
ガラステーブルに大皿を置いて言うと、エリックは意外な一面を見せた。
「ああ、学生の頃ずっと、レストランでバイトしてたからな。四皿までなら、一度に運べる」
「凄い……!」
その言葉と、良い香りのする出来たてのつまみに向けた感嘆だった。
「大袈裟だな」
「だって俺、トーストと目玉焼きくらいしか作れないですもん。絶対凄いです、エリックさん!」
妙に力説するアランに、エリックが小さく噴き出して、ブラウンの頭にポンポンと掌を置いた。機嫌の良い時のエリックがたまにする行為で、アランはこれも好きだった。
ソファは二人掛けだがガタイのいいエリックが座ると、二人の肩や太ももが触れ合ってしまい、アランはギクシャクと鼓動が早くなるのを意識する。
「あ! ワインつぎます!」
エリックがボトルに手を伸ばすのを見て、アランも慌てて掴もうとした。
「あっ……」
だが先にエリックの方がボトルを掴み、上からアランが掌を重ねる形になってしまう。アランは思わずパッと手を引いて、ますます早くなる鼓動が肩を伝って知られてしまうのではないかと恥じた。
「俺がつぐ」
エリックが言って、葡萄色の液体が、二つのワイングラスに満たされる。それをアランは、そわそわと視線を泳がせて見守っていた。
「ほらよ」
グラスが渡されて、アランは受け取った。受け取ってしまった。複雑な気持ちで、その初めて口にする事になる酒を見詰める。
(こんなに気軽につぐって事は、エリックさんはカクテル言葉を知らないんだな……)
ポートワインのカクテル言葉は、『愛の告白』だった。これを勧めて、相手が呑めばカップル成立となる。一抹の期待を込めてリクエストしたのだが、想いは伝わりそうにもなかった。
「乾杯しよう」
「何に?」
「ニューイヤーに」
(やっぱり、知らないんだな)
「……はい。ニューイヤーに」
グラスが軽く触れ合って、澄んだ音を立てた。
アランは落胆に眉尻を下げながら、一口含む。甘口で、下戸に誓いアランにも比較的呑みやすい味だったが、普通のワインよりもアルコール度数が高い事を知っていたから、俯いてそれ以上は呑まなかった。
「……クッ」
「え?」
ふいにエリックが我慢出来ないように噴き出して、アランは不思議に顔を上げた。エリックは片手にグラス、片手で額を押さえ、くつくつと笑いを噛み殺していた。触れ合った肩から、小刻みな震えが伝わってくる。
「エリックさん……?」
「お前、ホント分かり易いよな。俺みたいな不良死神に引っ掛からねぇよう、随分自重したんだぜ」
エリックはグラスをテーブルに置くと、アランの分のグラスも奪い取ってテーブルに置いた。
「だけどアラン……男を部屋に上げるのに、ポートワインは駄目だ。もう、逃がしてやれねぇ……」
「え、エリックさ……んんっ」
アランの頬を両掌で包み込み、角度をつけて唇を食む。調理の為に革手袋は外していたから、熱い体温がエリックからアランに分けられた。
「ん……ふ……」
アランは、こんなキスは知らなかった。舌が絡められ、引き出され、吸われ、甘噛みされる。上顎の奥を優しく舐めて探られると、きゅんと胸が締め付けられるような切なさに、息が乱れて苦しいのだった。
「はぁ……」
一分が、永遠にも思える瞬間だった。濡れて艶やかに光る唇から紅い舌をチロリと覗かせたまま、為す術もなく喘いでいると、一度離れた唇がもう一度、ちゅるりとそれを吸った。
「んっ……」
「アラン……」