ルーア・Я・クールブリーズ(Я様)
【ハートのクイーンは誰の手に?】⚠葬グレ⚠
死神派遣協会、死神図書館。ルーア・Я(ヤー)・クールブリーズは、今日も嗜好の書物に囲まれて、至福の時を過ごしていた。司書という仕事柄、脚立を上り下りして、返却された本を所定の場所に戻している。古い書物のすえたような匂いが、ルーアのお気に入りだった。
「ルーア先輩」
ふと、脚立の足元から声がする。エリックと同期の後輩、ノイン・ユイメールだった。フリルのスカートに三つ編み、どう見ても未成年にしか見えないのだが、これでも新人研修でエリックとパートナーを組んだ、実技評価Aの持ち主なのだった。
ノインはと言えば、正面きってはなかなか見付けられないが、脚立のてっぺんに危なげなく佇んだロングタイトスカートと長い黒髪を目印にして、ルーアに声をかけたのだった。もう出会ってから何十年も経つというのに、分厚いレンズ越しの顔の印象は希薄で、後姿の方がしっくりくる。
「なんだい」
声でそれと知れたのか、ルーアは手を休めずに応える。
「先輩のお勧めの本、返しにきましたー」
一冊の本を胸に抱え、上を見上げる。そのタイトルは、『生物骨格標本図鑑』と記されていた。
「でも、どのあたりがお勧めなのか、イマイチ分かんなかったですー」
キラリと眼鏡のレンズに光を反射させ、初めてルーアは振り返った。
「おや、つまらなかったかい。慣れれば、頭蓋骨の形で人を判別できるようになるんだけどねぇ」
「はぁ…」
医学の知識も豊富で、何かあった時には不在の勤務医の代わりを勤める事もあるルーアは、小刻みに笑った。
と、静謐だった図書館の扉を、場違いに勢いよく音を立てて入ってくる紅い姿があった。グレルだ。ノインを見付けると、安堵したような表情を浮かべ寄って来た。
「グレルさん」
「ちょっとノイン、聞いて頂戴~」
聞き上手なノインとマシンガントークのグレル、先輩後輩であったが、妙にウマが合って女子会仲間なのだった。
「またアリス先輩ですか」
「ンマッ。何で分かったの?」
「アリス先輩に追われてる時のグレルさんって、ハンターに追われてる兎みたいな顔してますから」
「そうなのヨ。アタシの事が好きって、女同士、何考えてんのカシラ」
厳密には女子会でも女同士でもないのだが、グレルが言ってため息をついた。そこへ、駆けてくる足音が近付いてくる。小休憩していたグレルは、パッと顔をあげて慌てた。
「アタシは来なかったって言って頂戴!」
踵を返しかけ、慌しくノインに向かい、
「また女子会しまショ、ノイン」
「はい!」
彼女がその慌てように微笑みながら答えると、グレルはメイクの施された大きな黄緑の瞳で、ばちっとウィンクを決めて入ってきたのとは別の入り口から出て行った。
その途端、正面入り口が再び開く。くだんのアリス・カミューズが、肩で息をつきながら立ちはだかっていた。しばしあちこちに首を巡らせるが、やがてそっぽを向いていたノインの三つ編みを見付けると、足音高く歩み寄った。
「ノイン!」
「アリスせんぱぁい」
ややわざとらしく、ノインが驚く。アリスが、そのベリーショートの金髪のように刺々しい調子で聞いた。
「グレル、見なかった?…あ、ルーアも!」
「知りません」
「グレルなら、もう回収に出かけたよぅ」
「いつの間に!」
血眼になって、アリスは回収課へ向かった。もはや『追っかけ』の域を超えて、『ストーカー』だ。
「…あれだけしつこくしちゃあ、逃げられるよねぇ」
「そうですね」
アリスを馬鹿にした風はなく、ノインは穏やかに笑った。こういう所が、グレルにウケているのかもしれない。
死神派遣協会、死神図書館。ルーア・Я(ヤー)・クールブリーズは、今日も嗜好の書物に囲まれて、至福の時を過ごしていた。司書という仕事柄、脚立を上り下りして、返却された本を所定の場所に戻している。古い書物のすえたような匂いが、ルーアのお気に入りだった。
「ルーア先輩」
ふと、脚立の足元から声がする。エリックと同期の後輩、ノイン・ユイメールだった。フリルのスカートに三つ編み、どう見ても未成年にしか見えないのだが、これでも新人研修でエリックとパートナーを組んだ、実技評価Aの持ち主なのだった。
ノインはと言えば、正面きってはなかなか見付けられないが、脚立のてっぺんに危なげなく佇んだロングタイトスカートと長い黒髪を目印にして、ルーアに声をかけたのだった。もう出会ってから何十年も経つというのに、分厚いレンズ越しの顔の印象は希薄で、後姿の方がしっくりくる。
「なんだい」
声でそれと知れたのか、ルーアは手を休めずに応える。
「先輩のお勧めの本、返しにきましたー」
一冊の本を胸に抱え、上を見上げる。そのタイトルは、『生物骨格標本図鑑』と記されていた。
「でも、どのあたりがお勧めなのか、イマイチ分かんなかったですー」
キラリと眼鏡のレンズに光を反射させ、初めてルーアは振り返った。
「おや、つまらなかったかい。慣れれば、頭蓋骨の形で人を判別できるようになるんだけどねぇ」
「はぁ…」
医学の知識も豊富で、何かあった時には不在の勤務医の代わりを勤める事もあるルーアは、小刻みに笑った。
と、静謐だった図書館の扉を、場違いに勢いよく音を立てて入ってくる紅い姿があった。グレルだ。ノインを見付けると、安堵したような表情を浮かべ寄って来た。
「グレルさん」
「ちょっとノイン、聞いて頂戴~」
聞き上手なノインとマシンガントークのグレル、先輩後輩であったが、妙にウマが合って女子会仲間なのだった。
「またアリス先輩ですか」
「ンマッ。何で分かったの?」
「アリス先輩に追われてる時のグレルさんって、ハンターに追われてる兎みたいな顔してますから」
「そうなのヨ。アタシの事が好きって、女同士、何考えてんのカシラ」
厳密には女子会でも女同士でもないのだが、グレルが言ってため息をついた。そこへ、駆けてくる足音が近付いてくる。小休憩していたグレルは、パッと顔をあげて慌てた。
「アタシは来なかったって言って頂戴!」
踵を返しかけ、慌しくノインに向かい、
「また女子会しまショ、ノイン」
「はい!」
彼女がその慌てように微笑みながら答えると、グレルはメイクの施された大きな黄緑の瞳で、ばちっとウィンクを決めて入ってきたのとは別の入り口から出て行った。
その途端、正面入り口が再び開く。くだんのアリス・カミューズが、肩で息をつきながら立ちはだかっていた。しばしあちこちに首を巡らせるが、やがてそっぽを向いていたノインの三つ編みを見付けると、足音高く歩み寄った。
「ノイン!」
「アリスせんぱぁい」
ややわざとらしく、ノインが驚く。アリスが、そのベリーショートの金髪のように刺々しい調子で聞いた。
「グレル、見なかった?…あ、ルーアも!」
「知りません」
「グレルなら、もう回収に出かけたよぅ」
「いつの間に!」
血眼になって、アリスは回収課へ向かった。もはや『追っかけ』の域を超えて、『ストーカー』だ。
「…あれだけしつこくしちゃあ、逃げられるよねぇ」
「そうですね」
アリスを馬鹿にした風はなく、ノインは穏やかに笑った。こういう所が、グレルにウケているのかもしれない。