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アルクス・ピアノフォルテ(琴子)

*    *    *

そうして仮面劇は無事に幕を閉じ、二人は着替える為に、ロッカールームに揃っていた。まだ舐め回すように頭の先からつま先まで、しげしげと眺めてくるエリックに、アランはくすりと漏らして、少女のようにスカートを摘んでくるりと一回転してみせる。

「どう?エリック」

「…ああ、綺麗だ。似合いすぎだろお前…」

「ふふ、嬉しいな」

アランは、悪戯っぽく笑う。そして、紅い舌が僅かに覗き、チロリと下唇を舐めた。

「でもそんな事言われたら、夜まで我慢出来ない…俺たち『結婚式』したんだから、今日は『初夜』だよな。…エリック…」

「ア、アラン」

背伸びしてエリックのブロンドを両手でわし掴み、アランはやや強引に口付けた。一瞬、逡巡して半歩下がったエリックだったが、その近付いてくるアランの、メイクを施されたあでやかな貌に魅入られてしまい、大人しく受ける。後ずさった事で、背が壁に着いた。

「んっ…」

口内で、アランの舌が巧みに遊ぶ。最初は何もかもが拙かったアランだが、エリックに悦を与えたいという欲求で、彼に「何処をどうしたらイイのか、俺に教えて」とねだり、毎夜のレッスンの結果、今ではエリックを凌駕する程のテクニシャンになっていた。何しろ『優等生』のお墨付きだ、のみ込みは早い。

「ふ…ん……ぁっ、ちょ…アラっ…」

『我慢出来ない』の言葉は、どうやら冗談ではなかったらしく、ロンググローブを嵌めた掌がブロンドから降りると、エリックの身体を余す所なく這い回り始める。やがて行き着く先は、彼の下肢で。

「んぁっ…アラン、馬鹿やめろ、これから着替えに、みんな来るって…」

慌てて、顔を上げてエリックは拒もうとするが、アランは片手でベルトを素早く外しながら、片手では布越しに彼の大きなそれをぎゅっと握って強く刺激する。

「ぁっ…アラン!やめ、ろって…!」

「だって、エリックが、綺麗とか言うから…」

「っ…やっ…!」

くつろげたズボンの中へと、アランは性急に侵入した。いつもの革手袋の感触とはまた違った、サテン地の滑らかな質感が、拒んでいる筈のエリックを興奮させる。

「アラン、この、アホ、駄目、だって…!」

だがエリックが質量を増しているのは明らかで、アランはその快感に歪む顔を見上げ、ふふ、と笑っただけだった。いや、だけではなく笑みの後、エリックのボクサーパンツの中では、更にめくるめく指技が彼を弄ぶ。緩急を付けて扱き上げられ、エリックは思わずのけ反った。

「ぁんっ…っあ、ぅあっ…。や…やだ、アラ、ンっ…!」

「でも、もう『我慢出来ない』だろ…?エリックも」

「は、あっ、んんっ…!」

言葉に合わせ、拳の速度が増す。軽くひねりも加えたその動きに、もはやエリックはハスキーに喘ぐしかなくなった。最後の哀願として、瞳をつむり唇を噛みしめ後頭部を壁に押し付けながら、不明瞭に言い募る。

「や、アラっ…出、るっ…!」

「出して良いよ…エリック。いっぱい出して…」

うっとりと、その乱れる様を間近に見つめながら、アランが囁く。今度は、アランがエリックを観察する番だった。

「ん、んーっ、あ、やぁっ…!!」

ドクン、と脈打って、エリックは欲望を、まだ布に包まれたその中に吐き出した。崩れそうになる身体を支える為に後ろ手に壁に付いていた素手が、思わずコンクリートに爪を立て、ガリ、と囁かな音を立てた。

「ふぁっ…ぁ、あ…ん!」

しかし、ひどく敏感になっているそこへの止まない指技に、エリックは若干暴れた。じっとしていられない程の激しい悦が、エリックを襲う。
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