アルクス・ピアノフォルテ(琴子)
* * *
仮面劇当日。各自、衣装や小道具は経費では落ちるが自前な為、聖歌隊の制服も人それぞれ、という余り格式高いものとはならなかったが、『花嫁』に関しては、ひどくクオリティの高い仕上がりとなっていた。
「何か…ウェディングドレスまで用意して貰っちゃって悪いね。アルクス、ホープ」
「シッ。アランくん、今喋らないで。ルージュ引いてるトコだから」
「ん…」
純白の、スカートにボリュームのあるプリンセスタイプのドレスを着せ終えた後、アルクスは真っ剣にアランにメイクを施していた。目鼻立ちは元々華やかなので、敢えてアイメイクは淡く、だがルージュは明るいローズゴールドを選び、ブラシで丁寧に塗っている。
ホープは、大胆に肩を露出したビスチェタイプの胸元を飾る為、何処から持ち出してきたものか、大粒のダイアモンドが連なるネックレスとイヤリングを、アランに着けていた。
「やっぱり、アランくんは肌が白いから宝石が映えるな」
「あ、ありがとうホープ。でもこれ、本物じゃないの?」
「細かい事は気にしないで良いよ。善意の募金の賜物だから」
「ぼ、募金?何それ?」
戸惑うアランを余所に、二人は、ブラウンの髪には大輪の蒼薔薇の生花と繊細な総レースのヴェールを、常ならば協会の正装、黒革手袋に覆われている手には白いサテンのロンググローブとこれまた取り取りの色が揃う薔薇の生花の豪華なキャスケードタイプのブーケを握らせる。幸せを約束される花嫁の4つのジンクス、『何か新しいもの』『何か古いもの』『何か借りたもの』『何か青いもの』は、当然のように網羅してあった。
「出来たわ!」
「出来たな」
見事に、本物と見まごう美しい『花嫁』が誕生した。アランは、やはり少し戸惑いながらも、二人に尋ねてみる。同期なので、課が違うとはいえ、多少気心が知れているのもあった。
「…似合ってるかな?」
「ばっちりよ!」
「もうエリック先輩とホントに結婚しなよ」
その言葉に、アランは仄かに頬を染める。
「ホ、ホープ…。やめてくれよ、エリックさんとはパートナーってだけなんだから…」
「そうだったかしら?」
「まあ、そういう事にしとこうか」
その時、花嫁用に二人が確保した小会議室のドアノブが回った。貸衣装屋で適当にいい加減に選んできた、あまり上等ではない白いタキシードに身を包んだエリックが、ノックも無しにドアを開けようとしていた。だがエリックもブロンドにコーンロウの華やかさ、本来の苦み走った顔立ちのおかげで、随分と男前な『花婿』に仕上がっている。
「なぁ、アラン…」
と入って来ようとするのを、二人が同時に遮った。
「わっ、な、何だよ」
アルクスはエリックの身体を押しとどめ、長身のホープはそのサングラス越しの瞳を覆う。
「駄目!エリック先輩、結婚式の前に花嫁を見ちゃ!」
「幸せになれないよ!」
「何だそれ!モノホンの結婚式じゃあるまいし…」
エリックの台詞を遮って、二人は彼を小会議室から追い出した。
「とにかく、まだ駄目!」
「ヴァージンロードで見れるからさ!」
女性とはいえ二人がかりなのと、圧倒的な迫力に押され、エリックは渋々ドアを閉め始めた。
「何なんだよお前らいっつも…分かったよ、出てきゃ良いんだろ。アラン、じゃあ後でなー」
「はい、エリックさん!」
仮面劇当日。各自、衣装や小道具は経費では落ちるが自前な為、聖歌隊の制服も人それぞれ、という余り格式高いものとはならなかったが、『花嫁』に関しては、ひどくクオリティの高い仕上がりとなっていた。
「何か…ウェディングドレスまで用意して貰っちゃって悪いね。アルクス、ホープ」
「シッ。アランくん、今喋らないで。ルージュ引いてるトコだから」
「ん…」
純白の、スカートにボリュームのあるプリンセスタイプのドレスを着せ終えた後、アルクスは真っ剣にアランにメイクを施していた。目鼻立ちは元々華やかなので、敢えてアイメイクは淡く、だがルージュは明るいローズゴールドを選び、ブラシで丁寧に塗っている。
ホープは、大胆に肩を露出したビスチェタイプの胸元を飾る為、何処から持ち出してきたものか、大粒のダイアモンドが連なるネックレスとイヤリングを、アランに着けていた。
「やっぱり、アランくんは肌が白いから宝石が映えるな」
「あ、ありがとうホープ。でもこれ、本物じゃないの?」
「細かい事は気にしないで良いよ。善意の募金の賜物だから」
「ぼ、募金?何それ?」
戸惑うアランを余所に、二人は、ブラウンの髪には大輪の蒼薔薇の生花と繊細な総レースのヴェールを、常ならば協会の正装、黒革手袋に覆われている手には白いサテンのロンググローブとこれまた取り取りの色が揃う薔薇の生花の豪華なキャスケードタイプのブーケを握らせる。幸せを約束される花嫁の4つのジンクス、『何か新しいもの』『何か古いもの』『何か借りたもの』『何か青いもの』は、当然のように網羅してあった。
「出来たわ!」
「出来たな」
見事に、本物と見まごう美しい『花嫁』が誕生した。アランは、やはり少し戸惑いながらも、二人に尋ねてみる。同期なので、課が違うとはいえ、多少気心が知れているのもあった。
「…似合ってるかな?」
「ばっちりよ!」
「もうエリック先輩とホントに結婚しなよ」
その言葉に、アランは仄かに頬を染める。
「ホ、ホープ…。やめてくれよ、エリックさんとはパートナーってだけなんだから…」
「そうだったかしら?」
「まあ、そういう事にしとこうか」
その時、花嫁用に二人が確保した小会議室のドアノブが回った。貸衣装屋で適当にいい加減に選んできた、あまり上等ではない白いタキシードに身を包んだエリックが、ノックも無しにドアを開けようとしていた。だがエリックもブロンドにコーンロウの華やかさ、本来の苦み走った顔立ちのおかげで、随分と男前な『花婿』に仕上がっている。
「なぁ、アラン…」
と入って来ようとするのを、二人が同時に遮った。
「わっ、な、何だよ」
アルクスはエリックの身体を押しとどめ、長身のホープはそのサングラス越しの瞳を覆う。
「駄目!エリック先輩、結婚式の前に花嫁を見ちゃ!」
「幸せになれないよ!」
「何だそれ!モノホンの結婚式じゃあるまいし…」
エリックの台詞を遮って、二人は彼を小会議室から追い出した。
「とにかく、まだ駄目!」
「ヴァージンロードで見れるからさ!」
女性とはいえ二人がかりなのと、圧倒的な迫力に押され、エリックは渋々ドアを閉め始めた。
「何なんだよお前らいっつも…分かったよ、出てきゃ良いんだろ。アラン、じゃあ後でなー」
「はい、エリックさん!」