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クロダ・ブラウン(あいみ様)

*    *    *

 次の日、エリックとアランは初めて、手を取り合わずにやってきた。他に変わった事といえば、アランの顔色が良くなった事だ。寝不足が解消したらしい。オセロはちゃんとセックスしたかどうか訊きたがっていたが、あらかじめその事には触れるなと、ブラウンが釘を刺していたのだった。血液を採取し、物言いたそうなオセロを警戒して、ブラウンがその日は二人をすぐに帰す。

 その翌日になって、ようやくオセロが発言を許されたのだった。

「無敵ワクチンが出来たよ」

「ワクチン? 治るのか!?」

 エリックが我が事のように身を乗り出す。オセロはゴムの蓋がされた小瓶を白衣のポケットから取り出して、得意げに軽く振って見せた。

「うん。感染のメカニズムはまだ解明されていないけど、『死の棘』を引き起こすウイルスの存在は明らかになっていた。そこに大量のオキシトシンが加わると、何らかの反応でワクチンが出来た。何故そうなるのかは分からないけど、採取済みの『死の棘』ウイルスに混ぜたら、死滅したよ。ひとまずはこれで、充分だろう?」

「ああ! 礼を言う、オセロさん!」

「ありがとうございます……!」

「こちらこそ協力に感謝する、アランチャン、エリックチャン。君たちの事は報告書から除外するけど、ワクチンが出来た事は、管理課に報告させて貰うよ。原因不明の発作がおきたら、病院じゃなくすぐ派遣協会に来る事、っていう広報が出回るだろう」

 言いながら、オセロは注射器を小瓶の蓋に刺し、透明な中身を吸い上げる。中指で弾いて空気を抜いた後、喜びに涙ぐむアランの腕にワクチンを投与した。

「これでよし! ……あ、エリックチャン。ちょっと二人だけで話あるんだけど」

「俺に? アランじゃなくて?」

「あー、いや。二人に訊いた方が良いのかな。悪いけどブラウンチャン、ちょっと出てくれる?」

「あ、はい」

 ブラウンは何故自分が退出させられるのか若干謎だったが、こんな事は初めてだったから、素直に従って科学捜査課のデスクに移動した。いつも好奇心にキラキラ輝いているオセロの黄緑の瞳が、やや陰っている事に、ブラウンは気付けなかった。彼が出て行ったのを確認して、オセロはあっけらかんと訊く。

「ねえ、二人はどうやって恋人になったの? 俺、いつもオキシトシンを分泌したいってアピールしてるのに、全然そういう雰囲気にならなくて」

「「えっ」」

 その意外過ぎるオセロの恋愛相談に、二人は声を揃えて驚いた。エリックが笑い、アランが赤面する。

「相手は、ブラウンさんか?」

「えっ。何で分かったの?」

「そりゃ、ブラウンさんを追い出したから」

「なるほど。頭良いね、エリックチャン。やっぱ俺、魅力ないのかなあ」

「まさかあんた、俺たちに言ったみたいに、キスだのセックスだの言ってんのか?」

「うん。言ってる」

 まさか本当にそうだとは思っていなかったエリックは、呆れて変な声を出す。

「理系を絵に描いたような死神だな。そんなのいつも言ってたら、冗談か、誰でも良いとしか思わねぇだろ。心を言葉にして口説くんだよ」

「口説く?」

「好きだ、恋人になって欲しいって」

「す……き?」

 オセロは一瞬キョトンと目を見張った後、やっと言葉の意味が分かったように、真っ赤に上気して革手袋で半顔を覆って恥じらった。

End?
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