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レイラ・ローズ(レイラ・ローズ様)

「おい、レイラ、出て来い」

そこへ、先の男の声がかかる。ビクリとレイラは怖気づいた。だがそれも一瞬で、一度潜入捜査を経験しているレイラは、腹をくくってサッとテントを出て行った。アランも慌てて後に続く。

「良い度胸だな。男たちはお前を気に入ったようだ。歌を聞かせろと言っている」

「…ええ。分かったわ。私、歌います」

レイラはしゃんと胸を張って、男の後をついていった。手織りの絨毯が敷かれただけの簡素なステージに立ち、男が前口上を述べると、あちこちから口笛が飛ぶ。男が退場すると、レイラが口を開くまでの何秒かは、風の音だけがびゅうびゅうと鳴っていた。


 あの人が呼んでいる
 そうあの雲の晴れ間から
 あの太陽の向こうから

 私を愛してくれたあの人は
 今も青い空から見てるのかしら

 あの人の声が聞こえるの
 優しく囁く甘い声
 儚く哀しい笑い声

 あの人の笑顔をけして忘れる事はない
 ああ グランパ
 ああ グランパ
 私を虹の彼方へ導いて

音楽もなく、風の音だけを伴奏に紡がれたレイラの歌声だったが、パラパラと手が打ち合わされると、やがて先ほど酒を干した時の二倍以上の拍手が巻き起こった。その澄んだ歌声は、男たちが今まで想像もした事がないほど、美しく力強いものだった。

レイラの名が男たちの口から叫ばれる中、初めて彼女はニッコリと笑ってみせた。そして、テントの外で見守っていた遠くのアランと視線を合わせると、目配せをする。アランも頷き返し、人目を避けるようにして、テント村の裏側へと歩を進めていった。

「何処へ行く」

程なくして、声がかかった。振り向いて、アランは若干ショックを隠せなかった。鋭い声音でアランの脚を止めさせたのは、一番初めにテントへ案内してくれた、十歳ほどの少年だった。アランは、用心深く周囲を見回して他に人間がいない事を確認してから、口にする。

「…『グランパ』の所へ」

「お前は、『グランパ』の孫か?」

「違う。俺は『グランパ』の三男だ」

それが合い言葉だった。少年は左手で首をかき切る動作をし、

「同志よ」

と畏敬の念を込めて言った。

「ああ」

アランも左手で首をかき切ってから、こんな子供が『連絡役』をしている現実への悲しみが顔に表れないように努めて、言った。

「『グランパ』からの、次の作戦指示を預かろう」

少年は首から提げていた守り袋をシャツの中から引っ張り出すと、細かい文字がびっしりと書き込まれたクシャクシャの羊皮紙をアランに手渡した。

「あんたたちは目立っちまった。宴が終わるまでは、移動しないで貰いたい」

「分かった。早朝、テントを抜け出すよ」

そう言って、アランは少年と時間差をつけて宴の中へと戻っていった。
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