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レイラ・ローズ(レイラ・ローズ様)

【BARN/後】※R18※

「え…?エリックさんが人間界へ?」

新年の大回収で膝を擦りむいた先輩、レイラ・ローズを医務室に送っている間に、エリックは潜入捜査に行ったという。おまけにこの後、レイラと組んで自分も潜入捜査だとウィリアムに聞かされて、アランは尋ねずにはいられなかった。

「あの…!エリックさんと次に会えるのは…!!」

「潜入捜査が終わってからです。貴方がたは、人事の指令に従ってから、Bという旅団に加わってください」

「は…はい…」

エリックとは、『姫初め』の中途で分かれてしまい、まだ身体が疼いている。堪えられるだろうか…。そんな風に思って返事に溜め息が混じるアランを、レイラが心配そうに覗き込んだ。身長は同じくらいだから、自然と距離は近くなる。

「大丈夫?アラン」

「あっ…はい!エ、エリックさんが心配で…」

頬を染めて口篭るアランを、レイラは内心微笑ましく見守った。

レイラは歌う事が大好きで、カラオケボックスでひとカラ中にグレルとばったり会って以来、カラオケ友達としてフランクな付き合いをしている。当然、ガールズトークは惚れた腫れたに行きつき、ウィリアムとの仲や、エリックとアランの事も知っていた。

もとより可愛い後輩と思っていたアランが、道ならぬ恋に身を焦がしていると思っては、自然と応援する気持ちにも熱が入った。

「潜入捜査なら、私一回やった事あるから大丈夫。あとエリック先輩だって、頭の回転が速いからきっと上手くこなすわ。早く終わらせれば良い事だから、人事課に行きましょ」

「はい、よろしくお願いします、レイラさん!」

必死に頭を下げるアランが、どんなにかエリックを案じているかよく分かって、レイラは安心させるように微笑んだ。

「大丈夫よ」

*    *    *

その後。グレルとレイラとアランは、カラオケボックスに来ていた。遊んでいる訳ではない。あのあと二人で人事課に行った所、旅芸人のBという旅団に潜入する為、何か『一芸』を身につけておくように言われたからだ。レイラは元々『歌』に秀でていたからアランもと、試しに連れてきたのだった。

しかしカラオケに初めて来たというアランの歌声を聞いて、グレルとレイラは、腕を組んでしばし黙りこくってしまった。アランは、そんな二人には気付かずに、一生懸命歌っている。斜め四十五度を行く音程で。

「これじゃ駄目ネ…」

「まさかアランが、音痴だったなんて」

「あ、あの、どうですか、グレルさん、レイラさん!」

感想を求められ、若干考えたグレルだったが、やがてニイと鮫歯を見せた。

「そうヨ!アラン、実技はAヨネ!」

「え、はい」

「運動神経は悪くないノヨ。協会に戻りまショ?」

「グレル先輩、どうするんですか?」

レイラの疑問に、グレルが人差し指をピンと立てた。

「ダンス!」

*    *    *

そこから先はトントン拍子だった。協会の実技トレーニングルームに入り、二人はデスサイズを顕現させた。アランは長柄のナタ型、レイラはこだわりの青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)型だった。

青龍偃月刀とはチャイナにおける大刀の一種で、名に「青龍」を冠するのは、刃の部分にドラゴンの装飾が施されている為だ。長柄の先端に流線型を描く刃と房飾りが付いていて、一見アランのものと似ているように思えるが、決定的に違うのは、その重さだった。八十二斤──実に18キロ余りの重量が、華奢なレイラの両腕にかかっているとは、誰も与り知らぬ事だろう。

レイラがこのデスサイズにこだわったのは、彼女の出生にあった。先々代がチャイナ支部の回収課で、これを使っていたという。キャラメルブラウンの三編みを後頭部でひとつに纏めたリボンも、光の加減によって上品な玉虫色に輝く、チャイナ製の生地だった。

「レッツダンス!ヨ!アラン!」

「えぇっと…」

心細げにレイラを見るアランに、彼女は優しく言った。

「大丈夫よ、アラン。『手合わせ』だと思えば良いのよ」

「はい、わん・つー・さん・しー!」

グレルの手拍子に合わせ、レイラがデスサイズの重さを感じさせず、上段からふわりと舞う。それをさっとかわし、アランも中段から下段へデスサイズを薙いだ。トン、と一度片足を地についたレイラが再び舞ってそれをかわし、下段を突く。それを繰り返すうち、自然と手拍子に呼吸が合い始め、バク宙や側転の入り混じった『演舞』になってきた。

「オーケイ!ばっちグーよ!レイラの一芸は歌、アランの一芸は演舞、二人は姉弟(きょうだい)って事で決まりね!」

「えっ…姉弟?」

「人事からの指令にあったデショ、夫婦にしろって。でもアラン、絶対それじゃバレるから、姉弟って苦肉の策ヨ」

「ええ、そっちの方が自然ね。良いでしょう?アラン」

「はい、レイラさん!」

ホッとしたように綻ぶアランの言葉を、柔らかくレイラが嗜めた。

「姉弟で『レイラさん』じゃおかしいわ。レイラ、って呼ぶのよ、アラン」

「はい、レイラさ…じゃない、レイラ…か」

申し訳なさそうに呼ぶアランのチョコレートブラウンの頭を、レイラがポンポンと撫でた。

「ふふ、よろしくね、アラン」

「はい…うん、レイラ」

そうして微笑み合っていると、髪の色や瞳の色、まるで二人は本当の姉弟のようだった。グレルの発案は、たいていが却下される事が多かったが、今回に関してはピタリと目的の為の手段に当てはまったのだった。
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