レイラ・ローズ(レイラ・ローズ様)
* * *
先に回収課に戻ってファイリングの作業を行っていたウィリアム・グレル・ロナルドと合流し、回収課員が全員集合する。ウィリアムのように、回収課ではないが実技評価が高いものも狩り出された、大規模回収になったのは、年の初めからざわつく回収課の眺めで、それと知れた。
「怪我人はいませんか、エリック・スリングビー。リリス・ヴァイオレットが医務室にいます」
「ああ、レイラが転んでちょっと擦りむいてたな。アランが念の為、って医務室に連れていった。大きな怪我人はいねぇよ、ウィリアムさん」
高枝切り鋏型のデスサイズで眼鏡のフレームを押し上げ、ウィリアムは、言葉に反して淡々と坦々と呟いた。
「そうですか。新年早々、全く…。人間とは愚かなものですね」
両手をポケットに突っ込み、エリックは珍しくウィリアムに同意した。
「違いねぇ」
だがそんな、何処か哀れみめいたやり取りの間に、全く違うテンションの声音が割って入る。
「アラ~、エリック!HAPPY NEW YEAR!!」
抱きつこうとしてくるその額を片手でむんずとわし掴んで止め、エリックは呆れ顔でがなる。未明の電話の事もあった。
「何が『HAPPY』だ。目出度くもねぇ新年だろうが」
「アンタ、スタミナあるから、まだ『最中』だったでショ。ウィルは淡白だから、もう済んでて…」
「「グレル!」・サトクリフ!」
「グフェッ!」
同時に、エリックから顔面パンチを、ウィリアムからデスサイズの一撃をくらい、グレルが回収課の床に崩れ落ちた。やはり珍しく、ウィリアムと意見が一致を見たのだった。
「スピアーズ先輩!」
そこへ、小柄なブロンドの姿が入り口から小走りで入ってくる。
「キュウ…」
「わっ。サトクリフ先輩、幾ら疲れたからって、床で寝ないでくださいよ!」
グレルの腹を踏んずけたのは、ロナルドだった。ちょっと脚に力を込めては緩める、を繰り返すと。
「キュッ、キュ」
とグレルは鳴いた。
「あはは、面白いっスね、サトクリフ先輩」
呑気に笑うロナルドを、ウィリアムが一喝した。
「ロナルド・ノックス!何か私に用があったんじゃないんですか」
「あ、はい!『上』からスピアーズ先輩宛ての辞令、預かったっス。人事におりてきた辞令みたいで、ラウンドカラーズ先輩から預かりました」
『上』の言葉を聞くと、途端にウィリアムは元より姿勢の良い襟を更に正した。
「こちらへ」
三つ折りにされて封筒に収まった辞令を厳かに読みきって、ウィリアムは一度、瞑目した。酷な辞令でも、『上』には従わねばならない。そんな無機質さが窺える表情だった。
「エリック・スリングビー」
「え?俺ですか」
何処か他人事として眺めていたエリックは、重量を伴なって下される命令口調が自分にかけられた事に、ひどく驚いた。だが確かに、ウィリアムの切れ長の瞳は、彼をジッと見据えていた。
「『上』からの辞令です。今回のような緊急事態が起きないよう、人間界に潜入捜査を命じます」
「潜入…捜査?」
稀にある事だと聞いてはいたが、まさか自分に降ってくるとは思わず、エリックは開いた口が塞がらなかった。だがすぐに、大事なパートナーの事を思い出す。
「じゃ、アランも一緒に?」
「事は急を要します。アラン・ハンフリーズは後で、レイラ・ローズと共に人間界に降りる事になります。エリック・スリングビーは、今すぐA国の軍部に潜入してください」
「今…すぐ?」
再び、エリックの口が開いた。『姫初め』も中途だというのに、アランと分かれなければならない。しかもアランは、エリックの後輩でアランの先輩、かばった事からも仲が良い、レイラと一緒に来るという。
「潜入に必要な資料です。衣服などは、庶務課に寄ってください。準備は調っています」
ウィリアムのポーカーフェイスを見ては、嘘だろ、という愚痴さえ零れなかった。絶望的な気分と昂ぶる身体を抱えたまま、エリックは庶務課に寄って人間界に降りていった。
Continued!
先に回収課に戻ってファイリングの作業を行っていたウィリアム・グレル・ロナルドと合流し、回収課員が全員集合する。ウィリアムのように、回収課ではないが実技評価が高いものも狩り出された、大規模回収になったのは、年の初めからざわつく回収課の眺めで、それと知れた。
「怪我人はいませんか、エリック・スリングビー。リリス・ヴァイオレットが医務室にいます」
「ああ、レイラが転んでちょっと擦りむいてたな。アランが念の為、って医務室に連れていった。大きな怪我人はいねぇよ、ウィリアムさん」
高枝切り鋏型のデスサイズで眼鏡のフレームを押し上げ、ウィリアムは、言葉に反して淡々と坦々と呟いた。
「そうですか。新年早々、全く…。人間とは愚かなものですね」
両手をポケットに突っ込み、エリックは珍しくウィリアムに同意した。
「違いねぇ」
だがそんな、何処か哀れみめいたやり取りの間に、全く違うテンションの声音が割って入る。
「アラ~、エリック!HAPPY NEW YEAR!!」
抱きつこうとしてくるその額を片手でむんずとわし掴んで止め、エリックは呆れ顔でがなる。未明の電話の事もあった。
「何が『HAPPY』だ。目出度くもねぇ新年だろうが」
「アンタ、スタミナあるから、まだ『最中』だったでショ。ウィルは淡白だから、もう済んでて…」
「「グレル!」・サトクリフ!」
「グフェッ!」
同時に、エリックから顔面パンチを、ウィリアムからデスサイズの一撃をくらい、グレルが回収課の床に崩れ落ちた。やはり珍しく、ウィリアムと意見が一致を見たのだった。
「スピアーズ先輩!」
そこへ、小柄なブロンドの姿が入り口から小走りで入ってくる。
「キュウ…」
「わっ。サトクリフ先輩、幾ら疲れたからって、床で寝ないでくださいよ!」
グレルの腹を踏んずけたのは、ロナルドだった。ちょっと脚に力を込めては緩める、を繰り返すと。
「キュッ、キュ」
とグレルは鳴いた。
「あはは、面白いっスね、サトクリフ先輩」
呑気に笑うロナルドを、ウィリアムが一喝した。
「ロナルド・ノックス!何か私に用があったんじゃないんですか」
「あ、はい!『上』からスピアーズ先輩宛ての辞令、預かったっス。人事におりてきた辞令みたいで、ラウンドカラーズ先輩から預かりました」
『上』の言葉を聞くと、途端にウィリアムは元より姿勢の良い襟を更に正した。
「こちらへ」
三つ折りにされて封筒に収まった辞令を厳かに読みきって、ウィリアムは一度、瞑目した。酷な辞令でも、『上』には従わねばならない。そんな無機質さが窺える表情だった。
「エリック・スリングビー」
「え?俺ですか」
何処か他人事として眺めていたエリックは、重量を伴なって下される命令口調が自分にかけられた事に、ひどく驚いた。だが確かに、ウィリアムの切れ長の瞳は、彼をジッと見据えていた。
「『上』からの辞令です。今回のような緊急事態が起きないよう、人間界に潜入捜査を命じます」
「潜入…捜査?」
稀にある事だと聞いてはいたが、まさか自分に降ってくるとは思わず、エリックは開いた口が塞がらなかった。だがすぐに、大事なパートナーの事を思い出す。
「じゃ、アランも一緒に?」
「事は急を要します。アラン・ハンフリーズは後で、レイラ・ローズと共に人間界に降りる事になります。エリック・スリングビーは、今すぐA国の軍部に潜入してください」
「今…すぐ?」
再び、エリックの口が開いた。『姫初め』も中途だというのに、アランと分かれなければならない。しかもアランは、エリックの後輩でアランの先輩、かばった事からも仲が良い、レイラと一緒に来るという。
「潜入に必要な資料です。衣服などは、庶務課に寄ってください。準備は調っています」
ウィリアムのポーカーフェイスを見ては、嘘だろ、という愚痴さえ零れなかった。絶望的な気分と昂ぶる身体を抱えたまま、エリックは庶務課に寄って人間界に降りていった。
Continued!