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サシー・バウンダリー(月読様)

「…アラン」

気付くと、アランはエリックに抱きすくめられていた。

「エリックさん…?!」

「俺もだ」

「で、でも、サシー先生と恋人なんじゃ…」

サシーが茫洋と笑う。

「ほっほっほ。あと何百年か、若かったらねぇ」

死神は、見た目で年齢が分からない。その言葉に、アランは疑問符を瞬かせた。

「えっ?」

「私は、グレルのお婆さんのまたいとこだよ」

「あっ…だからそんなに…」

「似てるだろう。エリック・スリングビーはそうさね、私の孫みたいなものさ。闇の中で怯える子供には、膝枕して髪を撫でてやるのが、一番の薬なんだ」

まだ泣き止まぬグレルの髪を撫で下ろしながら、微笑む。言われてみれば、そこには歳ふりた死神にみられる威厳があった。エリックの事で頭がいっぱいで、気付かなかった。

「アラン」

ハッとして振り仰ぐ。

「じゃあ、今日は二人でグッスリ眠ろうぜ」

「えっ」

身を硬くすると、エリックが笑った。

「安心しろ、添い寝するだけだから」

アランはエリックの広い胸の中で、頬を染めて俯く。

「でも…エリックさんが横になんかいたら、余計眠れない」

「その時は、ちょっと軽めの運動してゆっくり眠りゃ良い」

その言葉に含まれた色には気付かず、アランは素直に顔を上げた。

「そ、そう?」

「ちょーっと!」

二人の甘い雰囲気を、グレルがぶち壊した。

「何でアンタたちだけ幸せなのヨ!アタシだってウィルと眠りたいんだからー!」

「よしよし、グレル・サトクリフ。貴方はまだカウンセリングが必要だね」

グレルを抱きしめるサシーに、エリックがニヒルな笑顔を見せて言い置いた。

「さんきゅ、サシー。じゃあ悩みが解消した俺たちは出て行くわ」

「ああ、もう同じ悩みで来るんじゃないよ」

グレルと同じだが母性の強い笑顔を見て、アランはハッと気付かされる。エリックはアランの掌を握って、廊下に連れ出した。

「エリックさん、サシー先生って…お婆ちゃん?」

少し振り返って、エリックは片頬を上げる。

「おう。よく気付いたな。荒れてた頃の俺の、婆ちゃんみたいなものだ。いつも髪を撫でてくれた」

「そうだったんですか…」

「ちなみに、俺の本当のカウンセラーは、お前だけどな、アラン」

「えっ?」

「こうしてるだけで、幸せになれる」

指を絡めて握った手に、軽く力が加わる。まるで夢の中のように。ようやく気付いて、アランは途端に真っ赤になった。

「エリックさん…」

「今夜はグッスリ眠ろうぜ、アラン」

困ったように黄緑の瞳を泳がせた後、覚悟を決めて小さく頷いた。今朝の夢が、正夢になるのは、きっと近い内の事──。

End?
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