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リリス・ヴァイオレット(紫音様)

*    *    *

今日付けの報告書をかろうじて仕上げ、残りは未処理の引き出しに放り込み、エリックは医務室へと急いだ。まさかとは思うが、アランが、エリック以外にも迫りかねない痴態だったからだ。医務室のドアを開けると、ベッドの上で半身を起こして座っていたアランと目が合った。

「「あ」」

同時に呟き、エリックが物言いたげに口を開いたが、アランはぷいとそっぽを向いてしまう。その時、リリスが医務室へ入ってきた。エリックが獰猛に唸る。

「リリスてめぇ、アランに何か盛っただろ!」

だがリリスは、春風駘蕩だ。

「あら、何の事かしら?パートナーを裏切るような死神は…」

ソバージュヘアをかきあげたリリスの手が、何気なく懐に入った。

「お黙り!」

そこからメス型のデスサイズを取り出したリリスは、鋭くそれを投じる。それは、エリックの眉間をポイントしていた。だが、エリックの実力なら、簡単にかわせる速度だ。ところが、それを見たアランが、

「エリック!」

と庇うように抱きついてきたから、避ける訳にはいかなくなった。一瞬の判断力で、エリックは鋭い刃のデスサイズを、アランの後頭部で掴み取った。アランの髪が一筋、ハラリと落ちる。エリックは、それをリリスに向かって瞬時に投げ返した。狙いの逸れているデスサイズを、リリスは避けようともしない。顔の真横の壁に、メス型のデスサイズは、ビィィン…と刺さって止まった。

「何考えてんだ、今本気だっただろ!」

「あらごめんなさい、手が滑ってぇ」

アランは血の滴るエリックの掌を握り、気遣った。

「エリック大丈夫?!」

「俺は大丈夫だ」

「あ…」

我を忘れていたが、リリスが見ている事に今更気付き、慌てて身を離す。リリスは、睨めつけているエリックと動揺しているアランの肩に手を当て、回れ右させた。

「さ、具合が治ったんなら定時でお上がりなさい」

そして医務室から二人を追い出す間際、にっこりと笑みを見せた。

「エリックくん、ベッドの中以外でアランくんを泣かせたら、またお仕置きよぉ?」

ドアが閉まる。数瞬後、意味を理解したアランが真っ赤になった。

「バレてたんだ…」

エリックはアランの肩を抱くようにして、医務室の前から彼を遠ざけた。男子更衣室に向かって歩きながら、囁く。

「アラン、何か飲まされただろ。辛そうだったから抱いちまったが、順序が逆だったな…すまねぇ」

「それより、手は大丈夫?」

「ああ、こんなもん怪我の内に入んねぇよ」

「でも血が出て…」

執拗にエリックを心配するアランに、エリックが目を合わせて言った。

「許してくれたか?」

反対に、エリックの顔を窺っていたアランは、気恥ずかしさに俯いた。

「…うん。もう嘘吐かないなら…」

「もう懲りたよ。女の嘘泣きにゃのらねぇ」

しばらく、ひと気のない廊下を歩く革靴の音だけが木霊した。やがておずおずと、アランが頬を染めながら呟く。

「俺…エリックが恋人じゃない生活なんて、考えられない」

「俺もだ」

辿り着いた男子更衣室の奥で、二人はそっと、仲直りのキスを交わした。薬の効果はまだ幾分か残っているようで、アランが乱れてエリックを慌てさせる。急いで帰路に着いたアランのアパートで、二人はまた深夜まで愛し合い、幸せの内に眠りに落ちた。

End?
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