「だって私、グレルさんの破天荒さに憧れてジャパンのキモノなんか着てますけど、実際に食文化に触れるのって、初めてなんだものー」

「何でアタシで、キモノなのヨ」

「えー、まずは形からーと思いましてー」

"あの"グレルが、珍しく頭を抱えた。

「ウィルじゃないけど、全く…って言いたくなるワネ」

普段は諭される側のグレルの困窮に、アランは微笑ましくクスクスと笑っていたが、ふと、足元に食べかけの団子が落ちているのを見付けて、指摘した。

「あれ？誰か落としてますよ」

「え？」

「誰も落としてねぇぞ」

「みんな持ってるじゃない」

「じゃあこれは…」

アランはそれを拾い上げると、注意深く自分が持っていたみたらし団子と見比べる。すると、ふっくらとした自分のそれと比べて、冷め切ってしぼみ、鮮度が落ちているのが分かった。単に落としてそのままにしたのかもしれないが、まるで、食べていた人間が忽然と消えてしまったようにも思える。

「神隠し…」

ルーナの小さな呟きに、グレルが反応した。

「え？」

「ジャパンではよくあるそうです…。ある日突然、人が消えてしまうって…」

「どうやら、それのようネ。そういうの、ただの『イレギュラー』って呼んでたけど」

すると、あんなに楽しそうだったルーナの頬に、不意に涙が落ちた。突然の事に、みんな驚いてルーナを囲む。

「どうしたんですか、ルーナさん？」

アランの問いに、しゃくり上げながら言葉を搾り出す。

「魂が回収されない、と、生まれ変われない…」

「そう…ですね…」

「可哀想、です」

次から次へと涙が溢れ、ルーナはしゃがみ込んで本格的に泣き出した。グレルが膝を折って同じように、ルーナの横にしゃがむ。

「仕方ないコねェ…。気がすむまで泣きなさい？」

困ったように微笑みながら、ルーナのショートカットをゆるりと撫でると、表情を引き締めて、エリックとアランを振り返った。

「アタシが着いてるワ。アンタたちは報告に帰って」