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ルーナ・ヴェルディ(月椿様)

*    *    *

エリック・アラン・ルーナ・グレルの4人が、ウィリアムの前に整列していた。朝礼はすでに終わり、後は庶務課に寄ってデスサイズを受け取り回収に出るだけだったので、何か常ならぬ面倒ごとが起こったのだろう、と推測出来る。

独り言は多いが、懐くまで時間のかかるルーナは、ウィリアムが少々苦手だった。声をかけようにも、取り付く島がないからだ。オドオドと落ち着きなく黒革手袋の掌を組み替える。やがてウィリアムが、持っていた『死亡予定者リスト』を全員に見えるように示しながら、話し出した。

「死亡予定者が失踪しました。特殊なケースの為、2組に調査に向かって貰います」

「えっ?!」

人見知りも忘れ、思わずルーナは声を上げた。エリックとアランは永いことパートナーを組んでいる。という事は、自分がグレルのパートナーとして赴くのだ。

「どうかしましたか、ルーナ・ヴェルディ」

しかしウィリアムの鋼の声に遮られ、残りは心の中だけで飛び跳ねた。

「いえ、何でもありません…」

(やった!いつかこんな日が来ると思ってたわ!)

「すぐに現地へ向かってください。場所は──」

*    *    *

花びらの散る桜並木を、4人は揃って歩いていた。季節は春、花なら桜、ジャパンだ。同じように桜を見上げながら歩くジャパニーズが、彼らの出で立ちに気付くと、不可思議そうな顔をしてヒソヒソと囁きあった。

「死亡予定者が消えたのは、この辺ですね」

「たま~にあるのヨネ、こういうイレギュラーが。そう、そういう時はよく…」

「あっ、ワンちゃんだ!こんにチワワ★」

ルーナは憧れのグレルと、憧れのジャパンでの仕事に浮かれて、肝心の『仕事』だという事を忘れかけていた。通りすがりに大好きな犬を見つけ、さっそく手を出している。

「ちょっと聞きなさいヨ!」

──がぶり。

「痛ーいっ、離してー」

植物ともうひとつ、ルーナが嫌われているものがあった。犬だ。本人は犬好きなのだが何故かいつも噛まれる羽目になる。気の強いチワワにがっしり噛み付かれ、それでも涙目で懸命に撫でようとしているルーナを見かね、アランが横から手を出した。するとチワワはすぐにルーナから離れ、アランには尻尾をぶんぶん振っている。

「ルーナさん、大丈夫?」

「血ィ出てるじゃねぇか」

その台詞と共に、ここでスッとハンカチでも取り出せばエリックの株も上がるだろうが、レディの嗜みとしてハンカチを欠かさないグレルが代わりに差し出し、ますますルーナの中での彼女(?)の株は急上昇なのだった。
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