ルーナ・ヴェルディ(月椿様)
【東方花見異聞】
鼻歌と独り言を響かせて、ルーナ・ヴェルディは今日も協会裏に勝手に作った花壇に水をやる。
「お花さん、おはヨークシャテリア★ 綺麗に咲いてくださいな」
世話をしている割にはしおれ気味の青葉に、懸命に水をやり、その横に立っている木にも、ついでにと残りの水をかけてやるのが、彼女の日課だった。だが幾ら世話しても、今まで一度も花が咲いた事はなかったが。目下の悩みだが、持ち前の根気強さで、陽気に鼻歌を歌う。
回収課のルーナは、これから外仕事が待っているので、そろそろ切り上げて仕事に向かうつもりだった。だが、青葉と枯れてしまった茶褐色しか目にした事のない花壇で、異質な色が目に飛び込んできて、数瞬レンズ越しの大きな瞳をぱちくりさせた。紅色が、頭上からはらりと落ちてきたのだ。見上げると。
いつもついでに水をやっている、名も知らぬ木──これも花をつけた事がない──が、艶やかな紅の花を咲かせていた。
「…キャ──!!」
思わずルーナは、嬉しさの余り悲鳴を上げ、花を愛でるのもそこそこに誰かに知らせたいという思いで、駆け出した。だが黒い着物を着ているせいもあるが、そう早くは走れない。倒けつ転びつして協会の正面玄関に辿り付く前に、角を曲がった所で、出会いがしらにアランとぶつかった。
「おっ…と!ルーナさん」
「ア、アランくん!」
「危ねぇな、ルーナ。どうした?」
「悲鳴が聞こえたんで、様子を見にきたんだけど…」
「そう!そうなのよ!聞いて、エリック、アランくん」
花好きが高じて勝手に花壇を作るまでに至ったのだが、1度も花を咲かせることなく枯らす一方のルーナを笑う者もいた為、誇らしげに彼女は小柄な身体を精一杯反らして胸を張った。
「花が!咲いたの!!」
「…えっ?花って、鼻じゃなくて、咲く方の花?」
アランまでこの調子だ。
「そうなの!」
「まさか」
エリックは一蹴したが、ルーナは、腹を立てることもなく幸せいっぱいに胸の前で掌を合わせた。
「赤いお花が、たーくさん。そうよね、やっぱり赤よね、グレルさんに見せたいわぁ」
ルーナがグレルに心酔して、わざわざジャパンのキモノを着ているのは、割と有名な話である。その様子を見て、アランが微笑んだ。
「おめでとう、ルーナさん。じゃあ、グレルさん呼んできて、みんなで見ようか」
妙案を思いついたように、ルーナが小さくピョンと跳ねた。
「ええ、そうしましょう!『お花見』が良いわ!何のお花か分からないけど、今日の終業後、『夜桜見物』しましょう」
聞きなれない言葉に、エリックとアランは顔を見合わせた。キモノを着ているだけあって、ジャパン贔屓のルーナは説明する。
「ジャパンでは、桜が咲くと、夜その下で宴会をするの。花にも命があって…ええと…花の精が喜ぶ、っていう、とっても風流な習慣なのよ」
「へ~え、外で?」
エリックが『酒』と聞いて興味を示した。しかしもうルーナは、空想の世界に飛んでいる。
「赤いお花の下のグレル様…きっと綺麗だわ♪」
「ルーナ!」
「そう、きっとグレル様は喜んでくれるわ♪」
「ルーナったら」
「キャ、嬉しさの余り幻聴が…♪」
「ルーナ、聞こえないの?!」
耳を引っ張られ大音量で間近に叫ばれ、やっとルーナは現実に立ち返った。
「グ、グレルさん?!」
「ウィルが呼んでるの。一緒に来て頂戴。ちょうど良かったワ。エリックとアランも」
鼻歌と独り言を響かせて、ルーナ・ヴェルディは今日も協会裏に勝手に作った花壇に水をやる。
「お花さん、おはヨークシャテリア★ 綺麗に咲いてくださいな」
世話をしている割にはしおれ気味の青葉に、懸命に水をやり、その横に立っている木にも、ついでにと残りの水をかけてやるのが、彼女の日課だった。だが幾ら世話しても、今まで一度も花が咲いた事はなかったが。目下の悩みだが、持ち前の根気強さで、陽気に鼻歌を歌う。
回収課のルーナは、これから外仕事が待っているので、そろそろ切り上げて仕事に向かうつもりだった。だが、青葉と枯れてしまった茶褐色しか目にした事のない花壇で、異質な色が目に飛び込んできて、数瞬レンズ越しの大きな瞳をぱちくりさせた。紅色が、頭上からはらりと落ちてきたのだ。見上げると。
いつもついでに水をやっている、名も知らぬ木──これも花をつけた事がない──が、艶やかな紅の花を咲かせていた。
「…キャ──!!」
思わずルーナは、嬉しさの余り悲鳴を上げ、花を愛でるのもそこそこに誰かに知らせたいという思いで、駆け出した。だが黒い着物を着ているせいもあるが、そう早くは走れない。倒けつ転びつして協会の正面玄関に辿り付く前に、角を曲がった所で、出会いがしらにアランとぶつかった。
「おっ…と!ルーナさん」
「ア、アランくん!」
「危ねぇな、ルーナ。どうした?」
「悲鳴が聞こえたんで、様子を見にきたんだけど…」
「そう!そうなのよ!聞いて、エリック、アランくん」
花好きが高じて勝手に花壇を作るまでに至ったのだが、1度も花を咲かせることなく枯らす一方のルーナを笑う者もいた為、誇らしげに彼女は小柄な身体を精一杯反らして胸を張った。
「花が!咲いたの!!」
「…えっ?花って、鼻じゃなくて、咲く方の花?」
アランまでこの調子だ。
「そうなの!」
「まさか」
エリックは一蹴したが、ルーナは、腹を立てることもなく幸せいっぱいに胸の前で掌を合わせた。
「赤いお花が、たーくさん。そうよね、やっぱり赤よね、グレルさんに見せたいわぁ」
ルーナがグレルに心酔して、わざわざジャパンのキモノを着ているのは、割と有名な話である。その様子を見て、アランが微笑んだ。
「おめでとう、ルーナさん。じゃあ、グレルさん呼んできて、みんなで見ようか」
妙案を思いついたように、ルーナが小さくピョンと跳ねた。
「ええ、そうしましょう!『お花見』が良いわ!何のお花か分からないけど、今日の終業後、『夜桜見物』しましょう」
聞きなれない言葉に、エリックとアランは顔を見合わせた。キモノを着ているだけあって、ジャパン贔屓のルーナは説明する。
「ジャパンでは、桜が咲くと、夜その下で宴会をするの。花にも命があって…ええと…花の精が喜ぶ、っていう、とっても風流な習慣なのよ」
「へ~え、外で?」
エリックが『酒』と聞いて興味を示した。しかしもうルーナは、空想の世界に飛んでいる。
「赤いお花の下のグレル様…きっと綺麗だわ♪」
「ルーナ!」
「そう、きっとグレル様は喜んでくれるわ♪」
「ルーナったら」
「キャ、嬉しさの余り幻聴が…♪」
「ルーナ、聞こえないの?!」
耳を引っ張られ大音量で間近に叫ばれ、やっとルーナは現実に立ち返った。
「グ、グレルさん?!」
「ウィルが呼んでるの。一緒に来て頂戴。ちょうど良かったワ。エリックとアランも」