スノウ・ウィンターフォール(ゆき様)
* * *
翌日。死神派遣協会、喫煙室。ここにアランは近寄らない為、エリックは扉を閉めてしまうと、声を高くした。
「どういう事だ、スノウ!全部没収されたぞ!」
「俺もです、エリック先輩…」
「は?お前も?」
事の次第を話し終えると、エリックはへなへなと、テーブル一体型の空気清浄機に身体を預けた。脱力しきっている。それほどまでに、喫煙者にとって、煙草の存在は大きいのだ。
「あ、でも」
慌ててスノウは、ウールベストの下、Yシャツの胸ポケットから金色の長方形を取り出した。それは、機能的だが程ほどの高級感もある、薄めのシガレットケースだった。協会に出勤してすぐに、アランに机やポケットを洗いざらい身体検査され、煙草を取り上げられてしまったのだが、万一の為にと潜ませておいたそれには、アランも気付かなかったのだ。
「これ、ロナルドから誕生日に貰ったんです。ケースごと」
同期に誕生日プレゼントを欠かさないなど、マメなロナルドならではだ。果たしてスノウがそれを開けると、アルミチューブ入りの葉巻が3本、入っていた。エリックが口笛を飛ばす。
「葉巻じゃねぇか。いっぺん、吸ってみたかったんだ」
「ええ、1本二時間くらいもつそうです。ちびちび吸えば、しばらくは凌げますよ」
「ありがてぇ」
一瞬エリックは砕顔したが、すぐに眉根が曇った。
「あ…でも良いのか?元はと言えば俺のせいだしよ」
「良いんです。アラン先輩の頼みですし…」
明確に答えながら、スノウは小脇に抱えていたデスサイズの刃を、アルミチューブから取り出した葉巻の先に当てた。スノウのデスサイズは、剪定ばさみだ。持ち運びにも、こういった雑務にも都合が良い為、彼はメンテナンスの時くらいしかそれを庶務課には預けていなかった。
躊躇すると葉クズが口に入って味を損ねたりすると聞いていたので、スノウは思い切りよく吸い口を切る。チューブから出した時から仄かに香っていた葉巻のフレーバーが、一層濃くなった。
「はい、どうぞエリック先輩」
興味津々にそれを眺めていたエリックに差し出す。てっきりスノウが吸うのだとばかり思っていたエリックは、ややサングラス越しの瞳を見開いた。
「お、俺からか?」
「はい、もちろん。点けるのに、時間かかりますし…」
エリックが葉巻を銜え、背をかがめるといつものようにスノウがマッチを擦る。葉巻は、直ではなく遠火で火を点す為、たっぷりマッチ3本分、ふたりはボソボソと点き具合を確認し合いながら寄り添った。心の何処かで、こんな所アランに見せられないな、とエリックは、思わず小さく鼻で笑った。
「どうしました?旨くないですか?」
「いや」
通常の煙草よりやや太めのそれを一口味わい煙を吐き出してから、今度は再び砕顔した。
「ウマイ」
「良かった…!」
「次、お前」
今しがた口に含んだ葉巻を、スノウに差し出す。
「えっ」
もう1本点けるつもりでいたスノウは、思いもよらなかった言葉に、エリックを見上げ目を見張った。
「点けるのにこんな時間かかるんじゃ、いつウィリアムさんが『サボリだ』って走ってくるか分かんねぇぜ」
堅物の上司を揶揄し、顔を見合わせて肩で笑う。
(アラン先輩に怒られちゃいそうだけど…この場合、仕方ないか)
心の中で、アラン先輩ごめんなさい、と祈り、スノウは葉巻を受け取った。
翌日。死神派遣協会、喫煙室。ここにアランは近寄らない為、エリックは扉を閉めてしまうと、声を高くした。
「どういう事だ、スノウ!全部没収されたぞ!」
「俺もです、エリック先輩…」
「は?お前も?」
事の次第を話し終えると、エリックはへなへなと、テーブル一体型の空気清浄機に身体を預けた。脱力しきっている。それほどまでに、喫煙者にとって、煙草の存在は大きいのだ。
「あ、でも」
慌ててスノウは、ウールベストの下、Yシャツの胸ポケットから金色の長方形を取り出した。それは、機能的だが程ほどの高級感もある、薄めのシガレットケースだった。協会に出勤してすぐに、アランに机やポケットを洗いざらい身体検査され、煙草を取り上げられてしまったのだが、万一の為にと潜ませておいたそれには、アランも気付かなかったのだ。
「これ、ロナルドから誕生日に貰ったんです。ケースごと」
同期に誕生日プレゼントを欠かさないなど、マメなロナルドならではだ。果たしてスノウがそれを開けると、アルミチューブ入りの葉巻が3本、入っていた。エリックが口笛を飛ばす。
「葉巻じゃねぇか。いっぺん、吸ってみたかったんだ」
「ええ、1本二時間くらいもつそうです。ちびちび吸えば、しばらくは凌げますよ」
「ありがてぇ」
一瞬エリックは砕顔したが、すぐに眉根が曇った。
「あ…でも良いのか?元はと言えば俺のせいだしよ」
「良いんです。アラン先輩の頼みですし…」
明確に答えながら、スノウは小脇に抱えていたデスサイズの刃を、アルミチューブから取り出した葉巻の先に当てた。スノウのデスサイズは、剪定ばさみだ。持ち運びにも、こういった雑務にも都合が良い為、彼はメンテナンスの時くらいしかそれを庶務課には預けていなかった。
躊躇すると葉クズが口に入って味を損ねたりすると聞いていたので、スノウは思い切りよく吸い口を切る。チューブから出した時から仄かに香っていた葉巻のフレーバーが、一層濃くなった。
「はい、どうぞエリック先輩」
興味津々にそれを眺めていたエリックに差し出す。てっきりスノウが吸うのだとばかり思っていたエリックは、ややサングラス越しの瞳を見開いた。
「お、俺からか?」
「はい、もちろん。点けるのに、時間かかりますし…」
エリックが葉巻を銜え、背をかがめるといつものようにスノウがマッチを擦る。葉巻は、直ではなく遠火で火を点す為、たっぷりマッチ3本分、ふたりはボソボソと点き具合を確認し合いながら寄り添った。心の何処かで、こんな所アランに見せられないな、とエリックは、思わず小さく鼻で笑った。
「どうしました?旨くないですか?」
「いや」
通常の煙草よりやや太めのそれを一口味わい煙を吐き出してから、今度は再び砕顔した。
「ウマイ」
「良かった…!」
「次、お前」
今しがた口に含んだ葉巻を、スノウに差し出す。
「えっ」
もう1本点けるつもりでいたスノウは、思いもよらなかった言葉に、エリックを見上げ目を見張った。
「点けるのにこんな時間かかるんじゃ、いつウィリアムさんが『サボリだ』って走ってくるか分かんねぇぜ」
堅物の上司を揶揄し、顔を見合わせて肩で笑う。
(アラン先輩に怒られちゃいそうだけど…この場合、仕方ないか)
心の中で、アラン先輩ごめんなさい、と祈り、スノウは葉巻を受け取った。
5/5ページ