シュリム・ブロッサム(春之様)
【Merry X'mas】エリアラ小話。
「アランが怪我したって?!」
死神派遣協会、医務室。真白い一室に、自慢の髪形も乱して、エリックが走り込んできた。ただでさえ『死の棘』の発作の心配があるのに、この上 怪我までしては、恋人としては気が気でいられない。
日ごろ、本来ならパートナーのエリックとアランがコンビを組んで回収に向かう所だが、やはりアランの身体を気遣って、エリックだけが回収に出、報告書をアランが仕上げる事が多かったのだ。しかしたまたまこの日は、午後から死亡予定者が相次いで増え、アランも回収に駆り出されたのだった。
携帯で一報を受け、やっつけ仕事で医務室に駆け込んだエリックだったが、ベッドに座りシュリムと談笑しているアランを見て、ホッと胸を撫で下ろした。
「アラン、大丈夫なのか?」
死神は元々頑丈で治療が必要なほどの怪我など滅多にしない為、勤務医は永く不在で、知識のある者がそれを兼ねて久しい。医務室には、エリックの後輩でアランの先輩、シュリム・ブロッサムが居た。
医学の知識に詳しいのは、司書課のルーア・Я・クールブリーズだ。彼女が居ないという事は、すでに適切な治療が終わっているか、軽傷だったという事だ。
シュリムと朗らかに話していたアランは、入ってきたエリックに顔を上げた。
「あれ、エリックさん。随分早いですね。…まさか、誰かエリックさんに電話しましたか?」
申し訳なさそうに見上げるアランに、エリックは勢い込んで頷いた。
「おう。アルクスに、ホープに、ノインに、クロから!怪我したって…大丈夫か?」
アランは苦笑した。その間隙をついて、シュリムがやや甲高い声で言った。
「大丈夫ですよ、エリック先輩。ちゃんと僕が、包帯巻いときましたから」
言って、アランの右手首を掴むと、上げさせてエリックに見せた。確かに包帯だが──それは、人差し指にやや分厚目に巻かれているだけだった。
「ゆ、指?」
拍子抜けした声をエリックが出し、アランはクスリと笑ったが、シュリムは大真面目に彼が怪我をした経緯を事細かく説明した。
話を纏めるとこうだ。アラン・シュリム・クロ・グレルの四人の手が開いていた為、午後からの回収に駆り出されたが、回収作業にも相性という物がある。デスサイズの長いアランには、小回りのきくエリック、といった風に、さりげなく人事課の仕事が光るのだ。
しかし鎖ナタを振り回すシュリムの近くに、長柄ナタのアランが近付き過ぎてしまった為、鎖が彼の柄に絡んでしまい、刃がアランの人差し指をかすったというのだ。
「かすった?…それだけか?」
「はい、アランに怪我させるなんて…僕が浅はかでした。責任は取ります」
「は?責任?」
「ええ。まずは、お詫びの印として、これを…」
シュリムは懐から、一体どこに、と思ってしまうような結構な大きさのカードを取り出した。それをアランに差し出す。
「アラン、本当に済まなかった。これ、ハッピーバースディ」
「「え」」
シュリムは仕事に関しては真面目だったが、時折り奇妙な発言をする。死神に、誕生日を祝う習慣はない。永い永い生の内に、自分でも忘れてしまうのだ。
他者がアランの腕など掴もうものなら目くじらを立てるエリックだが、その為、シュリムに関しては怒る気になれなかった。
二人が顔を見合わせている間に、彼は医務室を出ていってしまった。ぽつんと残ったのは、二つ折りにされたカード。今更、エリックはやや不機嫌な声音を出した。
「責任を取る、って、どういうつもりだアイツ」
「まあ、シュリムさんの言う事だから、深い意味は無いんじゃないかな」
「でも、そりゃなんだ?ラヴレターなんじゃないか?」
アランはカードを開く。上部には、大きく『Merry Christmas』の文字。
「多分、『メリークリスマス』って言いたかったんだと思うよ」
クスクスと笑うアランだが、エリックは困惑の表情で眉を寄せた。
「でもよ」
「ん?」
その下に、黒いサインペンの直筆で描かれた木の棒の絵を指差し、エリックは言った。
「こりゃどういう意味だ?」
そこには、軽く折れ曲がった棒の絵の下に『Merry Christmas』よりも大きく──『出る杭は打たれる。』と書いてあった。
日ごろ、後輩として気に入られているらしく、よく話しかけられ彼の性格を知っているアランは、乾いた笑いを漏らした。
「あ…だから深い意味は無いと思うよ」
あは、と汗を浮かべるアランに対し、エリックばかりがいつまでも、その意味を考えて首をひねっていた。
End.
「アランが怪我したって?!」
死神派遣協会、医務室。真白い一室に、自慢の髪形も乱して、エリックが走り込んできた。ただでさえ『死の棘』の発作の心配があるのに、この上 怪我までしては、恋人としては気が気でいられない。
日ごろ、本来ならパートナーのエリックとアランがコンビを組んで回収に向かう所だが、やはりアランの身体を気遣って、エリックだけが回収に出、報告書をアランが仕上げる事が多かったのだ。しかしたまたまこの日は、午後から死亡予定者が相次いで増え、アランも回収に駆り出されたのだった。
携帯で一報を受け、やっつけ仕事で医務室に駆け込んだエリックだったが、ベッドに座りシュリムと談笑しているアランを見て、ホッと胸を撫で下ろした。
「アラン、大丈夫なのか?」
死神は元々頑丈で治療が必要なほどの怪我など滅多にしない為、勤務医は永く不在で、知識のある者がそれを兼ねて久しい。医務室には、エリックの後輩でアランの先輩、シュリム・ブロッサムが居た。
医学の知識に詳しいのは、司書課のルーア・Я・クールブリーズだ。彼女が居ないという事は、すでに適切な治療が終わっているか、軽傷だったという事だ。
シュリムと朗らかに話していたアランは、入ってきたエリックに顔を上げた。
「あれ、エリックさん。随分早いですね。…まさか、誰かエリックさんに電話しましたか?」
申し訳なさそうに見上げるアランに、エリックは勢い込んで頷いた。
「おう。アルクスに、ホープに、ノインに、クロから!怪我したって…大丈夫か?」
アランは苦笑した。その間隙をついて、シュリムがやや甲高い声で言った。
「大丈夫ですよ、エリック先輩。ちゃんと僕が、包帯巻いときましたから」
言って、アランの右手首を掴むと、上げさせてエリックに見せた。確かに包帯だが──それは、人差し指にやや分厚目に巻かれているだけだった。
「ゆ、指?」
拍子抜けした声をエリックが出し、アランはクスリと笑ったが、シュリムは大真面目に彼が怪我をした経緯を事細かく説明した。
話を纏めるとこうだ。アラン・シュリム・クロ・グレルの四人の手が開いていた為、午後からの回収に駆り出されたが、回収作業にも相性という物がある。デスサイズの長いアランには、小回りのきくエリック、といった風に、さりげなく人事課の仕事が光るのだ。
しかし鎖ナタを振り回すシュリムの近くに、長柄ナタのアランが近付き過ぎてしまった為、鎖が彼の柄に絡んでしまい、刃がアランの人差し指をかすったというのだ。
「かすった?…それだけか?」
「はい、アランに怪我させるなんて…僕が浅はかでした。責任は取ります」
「は?責任?」
「ええ。まずは、お詫びの印として、これを…」
シュリムは懐から、一体どこに、と思ってしまうような結構な大きさのカードを取り出した。それをアランに差し出す。
「アラン、本当に済まなかった。これ、ハッピーバースディ」
「「え」」
シュリムは仕事に関しては真面目だったが、時折り奇妙な発言をする。死神に、誕生日を祝う習慣はない。永い永い生の内に、自分でも忘れてしまうのだ。
他者がアランの腕など掴もうものなら目くじらを立てるエリックだが、その為、シュリムに関しては怒る気になれなかった。
二人が顔を見合わせている間に、彼は医務室を出ていってしまった。ぽつんと残ったのは、二つ折りにされたカード。今更、エリックはやや不機嫌な声音を出した。
「責任を取る、って、どういうつもりだアイツ」
「まあ、シュリムさんの言う事だから、深い意味は無いんじゃないかな」
「でも、そりゃなんだ?ラヴレターなんじゃないか?」
アランはカードを開く。上部には、大きく『Merry Christmas』の文字。
「多分、『メリークリスマス』って言いたかったんだと思うよ」
クスクスと笑うアランだが、エリックは困惑の表情で眉を寄せた。
「でもよ」
「ん?」
その下に、黒いサインペンの直筆で描かれた木の棒の絵を指差し、エリックは言った。
「こりゃどういう意味だ?」
そこには、軽く折れ曲がった棒の絵の下に『Merry Christmas』よりも大きく──『出る杭は打たれる。』と書いてあった。
日ごろ、後輩として気に入られているらしく、よく話しかけられ彼の性格を知っているアランは、乾いた笑いを漏らした。
「あ…だから深い意味は無いと思うよ」
あは、と汗を浮かべるアランに対し、エリックばかりがいつまでも、その意味を考えて首をひねっていた。
End.
7/7ページ